まずローエンドのP1とP2であるが、これは従来「MPC8641D」とか「MPC8572」といった製品が投入されているマーケットに入る事になる。内部構造自体は従来と大きく変わらず、Coherency Module(要するに従来のe500コアと同じFSBに、NorthBridgeまでを統合した構造だろう)にL2キャッシュをぶら下げ、そこからSystem Bus経由で周辺I/Oを統合する形だ。このあたりの構造は、例えば「MPC8572E」と全く変わらない。
では何が変わったかといえば、「消費電力あたりの性能」である。P2の一部とかP3以上になると、Embedded Processorと言いながらも、使われ方としてはブレードサーバに搭載されて2Uラックに収まるとか、ATCAモジュールに搭載されてATACラックに入るとかいう類となる。競合製品は、例えばx86系なら低電圧版のIntel Xeonとか、低電圧版Opteronなどが相当するマーケットだ。こうしたマーケットでは消費電力が大きな問題になりつつあり、各社低消費電力品を投入しつつあるのはご存知の通り。Freescaleもまた、QorIQを45nm SOIで製造することにより低消費電力化を実現し、これにより消費電力当たりの性能を引き上げられるとしている。
もちろんプレゼンテーションはこれだけではない。信頼性をどう引き上げるかについても重要で、電圧を下げた時のSER(Soft Error Rate)がSOIを使わない場合の5倍以上も低くなるといったデータも示す形でSOIの優位性を示している。このあたりが、プロセスの微細化をそのままトランジスタ数の増加(=性能や機能の増強)に振り分けるx86系との違いだろう |
その45nm SOIであるが、45nm世代はIBM/Charterd Semiconductor Manufacturingと、32nm世代ではIBM/Chartered/Samsung Electronics/Infineon Technologiesとの共同でプロセス開発を行うことがすでに発表されている。AMDもまたIBM/Charteredと共同開発を行っているので、事実上は同じプロセスと見ても問題はない。そのAMDはまもなく45nm SOIの製品を投入すると見られており、時期的には来年からQorIQを投入するのは、ほぼオンタイムと言ってよいだろう。
そのQorIQとPowerQUICCファミリのPerformance-Powerの関係を示したのが以下のスライドである。面白いのがDVFS(Dynamic Voltage and Frequency Scaling:要するにSpeedStepとかPowerNow!/CnQに代表される、動作周波数と電圧を両方変化させる仕組み)を使わなくても、低い消費電力が維持できるとしている点だ。DVFSは
- 高負荷時の性能と低負荷時の低消費電力を両立できる
というメリットがある一方で
- 高負荷時の消費電力は低くならない
- 外部に電圧/周波数管理モジュールが必要になり、高コストになる
という欠点もある。なので、フルパフォーマンス時でも十分に低い消費電力を実現する、というのが重要になる。
ここの例では、QorIQ P1はe300ベースのMPC8313Eよりは多い(MPC8313EのCPUコアの平均消費電力は1.2W程度だ!)ものの、e500コアベースのMPC8544Eよりも低い(こちらは667MHzで平均4.5W、1GHzで5.3W程度)よりも低いレンジに抑えられており、8コアのQorIQ P4でもMPC8572Eと同程度(こちらはe500のDual Coreである)に抑えられている。絶対的な性能もさることながら、この低消費電力ぶりがQorIQの大きな特長である、と位置づけられているようだ。