2.5GHz帯のモバイルWiMAXを利用した広帯域無線アクセスシステム(BWA)の事業化を図って、ソフトバンクとイー・アクセスが軸となり設立した企画会社・オープンワイヤレスネットワーク(通称:OpenWin)は、事業免許を総務省に申請するとともに、免許を獲得できた場合の、事業戦略・計画を明らかにした。

左から、ゴールドマン・サックス証券マネージング・ディレクターのアンクル・サフ氏、OpenWinCEOの宮川潤一氏、OpenWin社長兼COOの深田浩仁氏、ニフティ常務の今村隆氏、NECビッグローブ執行役員の内藤俊裕氏、ソネットエンタテインメント取締役執行役員の会田容弘氏、フリービット副社長の田中伸明氏

MVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体サービス事業者)向けに特化したホールセール(卸売り)事業を展開する枠組みの下で、水平分業型の事業を推進する。2009年3月に無線データ通信サービスを開始、2009年度中に全国で利用できる人口を50%に、2015年3月末までには90%とする予定で、同年同時期までには約400万人の加入者を獲得することを目指す。また、新会社の代表取締役社長兼COOには、イー・アクセスの深田浩仁執行役員副社長が、取締役CEOにはソフトバンクBBの宮川潤一取締役専務執行役員が就任した。

ADSL分野では、直販でソフトバンクが、ホールセールでイー・アクセスが、国内最大規模の事業者であり、両者によれば、2社のユーザー数の合計700万を数える。これに「ダイヤルアップ接続ユーザー、ソフトバンクのコンテンツサービスユーザーも加えると1,500万に達する。その半数はブロードバンド」(OpenWin深田浩仁社長)であり、この蓄積プラスアルファの数に照準をあわせ「100%ホールセールのMVNO向けサービスを展開していく」(同)意向だ。

この構想では、水平分離型の事業構造が中核となる。モバイルWiMAXの通信プラットフォームを「完全にオープン化」(同)したうえで、ネットワークや認証、位置情報といった機能を提供、個人向けから企業用まで、多彩なブロードバンド向けアプリケーション/コンテンツを稼動させ、パソコン、PDA、情報家電、ゲーム機、カーナビといったさまざまな端末、機器により利用する、との青写真が示されている。深田社長は「デバイスで囲い込むようなことはしない。WiMAX機能を担うチップセットを使えば、いろいろな機器が使える。大きな市場になると確信している」と話す。

OpenWinのグループが、モバイルWiMAXを採用する最も大きな理由としては「世界で普及が見込まれること」と深田社長は強調する。「世界で、30社を超える通信事業者がすでに採用を予定している。一部では実用化も始まっており、今後もさらに(採用が)増加するだろう。これは非常に重要な意味をもっている。基地局や端末は、販売台数が多ければコストは劇的に低減化する」(同)ことが背景にある。さらに「需要が拡大すれば、ベンダー間の競合で品質も改善される」(同)利点もある。

また、同社がもうひとつ大きな柱と位置づけているのは「FTTH対抗としてのWiMAXサービス」だ。FTTHは、下りのデータ伝送速度が最高100Mbpsであると同時に、上りも高速で、利用料金も低下していることから、最近ユーザー数が大きく伸長しているが、同社は「WiMAXはFTTHに勝るとも劣らない機能をもっている」(同)とみている。WiMAXは固定通信での理論値としても下り75Mbpsが最高とされ、この点ではFTTHに及ばないが、深田社長は「100Mbpsにまで特化したものがどれだけ必要なのか」として、すべてのサービスに100Mbpsの帯域が必要というわけではなく、広帯域とサービスが不均衡な場合もあることを指摘し、「スポーツカーに乗って、スーパーマーケットに出かけるようなものでは」と語る。

同社では、モバイルWiMAXは通信速度ではFTTHに一歩譲るものの、利用可能地域は同等であり、価格、導入が容易、移動体での利用、端末の多様性、ローミングなどを含めたグローバル性といった面では、モバイルWiMAXがむしろ優位にあるとの見解を示している。価格は「ADSL並み、月額3,000~5,000円程度」(同)となる見込みだ。また、FTTHと同様の使い方をすれば、トラフィックの問題が出てくるが、ネットワーク容量についてはソフトバンク、イー・アクセスが提供しているADSLサービスと組み合わせ「家庭内ではADSL、外出時はモバイルに切り換えるようなモデルビジネスを考えている」(同)ほか、FTTHとの組み合わせの可能性さえあるという。

当初のサービスは、パソコンによるサービス提供を中心とみており、2015年3月末までで約400万人という加入者見込みは、パソコン向けだけを想定したものだ。OpenWin自体は音声サービスに着手する計画はないが、「WiMAXのプラットフォームを完全にオープン化する。音声もアプリケーションのひとつであり、ここで、音声サービスをやりたいという事業者がいれば、制限するつもりはない」としている。事業の黒字化は「EBITDA(税引前・利払い前・償却前利益)では1年目、営業利益では3年目を予定している」(同)

新会社には、イー・アクセスとソフトバンクがそれぞれ65億円(出資比率32.42%)ずつを出資し、次いでゴールドマン・サックスが45億円(同22.44%)を出資、そのほか、NECビッグローブ、ソネットエンタテインメント、ニフティ、フリービットなども出資しており、すでに200億5,000万円を確保しているが、2015年3月末までには累計で約2,500億円の設備投資をおこなう方針で、資金調達については「すでに(出資についての)打診を各方面から受けており、次のファイナンスについて検討を開始している」(同)状況だ。

基本戦略の概要は示されたが、ソフトバンク/イー・アクセス連合の目的地はどこなのか。宮川潤一CEOは、今回の基本戦略がこれまでのビジネスモデルと大きく異なることを力説、「我々が望んでいる形態は、"0種"のサービスだ」と述べている。0種とは、回線を事業者に貸し出し、直接的にはサービスを提供しない事業者の通称だ。0種になることで、原価などの透明性を高くし、開かれたサービスの提供を目指す。

「MVNOの供給先は一般的な事業者だけが論議されているが、大学、生協、行政単位なども考えている。日本にはなかったビジネスモデルを一からつくりたい。これまではNTTに話しても、MVNO(の実現)は埒が明かなかった。今回は我々が主導権をとって、どんな日本をつくれるか試してみたい」(宮川CEO)。両者はADSL事業でしのぎを削り、それがADSL利用料金の「価格破壊」をもたらした。その後、ともに携帯電話事業への新規参入に挑んだ。その両者の提言は、新しい通信事業のあり方を問い直すことになるのだろうか。