深刻な人手不足に直面する建設業界にとって、デジタル活用による生産性向上は避けて通ることができない課題だ。
こうした中、重要となるのが、国際標準規格であるファイルフォーマットIFCを活用して多くのステークホルダーと協業を行う「オープンBIM」である。このオープンBIMの仕組みの中ではBIMを中心とした膨大な属性情報が企業の枠組みを越えて利活用され始めている。
AWSを中心とした建設デジタルプラットフォームを構築し、全社を挙げてオープンBIM活用を推進する株式会社竹中工務店は、ステークホルダーがオープンBIMの仕組み上で行うコミュニケーションを分析し、新規案件の業務プロセスに反映させる実証実験(PoC)を開始。
以前は外部サービスのデータを参照し、実際に分析できるようになるまでに数日のタイムラグが生じていたが、外部サービスに接続せずにデータを分析できる環境を実現し、ユーザーの頭にアイデアが浮かんだとき、すぐに分析が行えるようになったという。
同社はいかにして膨大な量のデータを効率よく運用・管理できるようになったのか。BIM活用による生産性向上の取り組みについて、キーパーソンにインタビューを実施した。
深刻な人手不足の解決のためオープンBIM活用に取り組む
人手不足が深刻化する建設業界では、デジタルの活用が大きな課題になっている。こうした中、スーパーゼネコン5社の一角である株式会社竹中工務店(以下、竹中工務店)が積極的に取り組むのが、BIM(Building Information Modeling)活用による生産性向上の試みだ。
BIMとは、建物の3次元モデルとコストや仕上げ、管理情報などの属性データを関連づけることで、建物の設計から施工、維持管理に至るあらゆる工程において情報共有と活用を実現するソリューション。BIMが管理する情報は設計図から各種施工図への展開をはじめ、さまざまな活用が可能だが、保存形式がツールによって異なるため、そのままの形ではスムーズな流通は難しい。この問題を解決するのがbuildingSMART Internationalによって標準化されたIFC(Industry Foundation Classes)という中立でオープンな保存形式である(ISO 16739)。このIFCを中心とした建設業全体のプロセスの考え方がオープンBIMとして国際的に整備が進んでおり、情報マネジメントに関する環境についても「共通データ環境(CDE:Common Data Environment)」としてISO規格が設定された(ISO 19650)。
竹中工務店は、オープンBIMの考え方のもと、協力会社や専門工事会社、設計会社、さらには建築主や管理会社のBIMデータを重ね合わせるワークフローが浸透しており、BIツールによる可視化、AIによる分析・予測など多様なデータ活用を推進している。BIM推進室 グループ長 生産担当の山崎 裕昭氏はその狙いをこう説明する。
「当社の設計・施工プロセスのBIM化は業界内でも進んでいると自負していますが、そのデータをフル活用できているかというとまだまだというのが実情です。その一方で技術者や専門技能者が不足する中、デジタルの力を使った業務の効率化、生産性の向上は待ったなしの課題です。これまで個別に管理されてきた一つの建物に関する多様なデータを一元化する試みは、こうした課題解決において大きな役割を果たすと考えています」
その一方で、竹中工務店が業界に先駆けて取り組む建設デジタルプラットフォーム構築とオープンBIMの関係にはいくつかの課題があった。膨大なIFCファイルをユーザーが扱いやすい状態で管理することはその一つである。
「IFCファイルは行数も多く、それらをすべて保存しようとすると、データは非常に煩雑化します。その一方でデータを整理してしまうと今度はインサイトに制約が生じてしまいます。データの性格に応じ、それぞれどのような状態で管理するのが望ましいのか腐心しているというのが正直なところです」
多様な外部サービスを含めたエコシステム実現にSnowflakeを採用
データ基盤としてのBIMが管理する情報は多様だ。ステークホルダー間のコミュニケーションの記録もその一つである。会話形式で書き込まれたコメントの一つひとつが大きな意味を持つわけではない。だがさまざまな建築プロジェクトにおけるコメントを横断的に分析することで見えてくるものは多いという。現在、同社が想定するのはトラブル回避への活用だ。
「手始めとして、問題が生じない設計、施工のために必要なコミュニケーションを項目化して抽出したいと考えています。例えば、病院施設の手術室など特定の設備それぞれについて、関係者とのコミュニケーションの内容を見ていくことで得られる気づきは決して小さくありません。これまで施工管理者が経験を通して学ぶしかなかったノウハウの可視化は生産性の向上に大きな役割を果たすはずです」
BIMのコミュニケーション履歴は、IFCモデルの上でテキストコメントや画像などを交換するために使用されるオープンファイルフォーマットBCF(BIM Collaboration Format)ファイルで記録され、ステークホルダー間のやり取りをきめ細かく辿ることが可能だ。同社がコミュニケーションの分析に取り組むにあたり課題になったのもやはり膨大なデータ管理を巡る問題だった。
「その性質上、BCFファイルは常に書き加えられていくため、まずどのタイミングでデータを取得すべきか考える必要があります。またすべての情報を建設デジタルプラットフォームへリアルタイムにアップロードしてしまうと扱いにくいものになってしまう一方、一部を抽出すると分析に制約が生じてしまいます。BCFファイルは外部サービスで保存していますが、それを随時読みに行くことは申請手続き等の手間もあり、現実的ではありません」
数多くのプロジェクトのBCFファイルを社内で一元化し、横断的な分析をスムーズに行う基盤として山崎氏が注目したのがSnowflakeだった。
「BCFを含め、IFCファイルは一定のスキーマのもとデータが作られているため、Snowflakeに格納できれば、プロジェクトを横断したデータ分析が可能になります。AWSが提供する機能だけでも可能なのですが、プロジェクトを横断して分析を行う上で重要になるユーザビリティの観点でSnowflakeに大きな可能性を感じました」
よりスムーズにデータにアクセスできる環境を実現
BIM上のコミュニケーション履歴を分析し、設計や施工プロセスに反映させる一連の仕組みの実証実験(PoC)がスタートしたのは2022年8月のこと。外部サービスに蓄積されるBCFファイルの一部を抽出して建設デジタルプラットフォームにアップロードする一方、すべてのデータをSnowflakeのデータプラットフォームに格納し分析に利用するというのがその基本的な考え方になる。データ分析は、同社が以前から使うBIツールであるPower BIで行う。
「以前は外部サービスのデータの参照には社内的な申請手続き等も必要だったため、実際に分析できるようになるには数日のタイムラグが生じていました。しかしSnowflakeにデータを格納することでそうした手間は不要になり、ユーザーの頭にアイデアが浮かんだとき、すぐに分析が行えるようになっています。ユーザーの一人である同僚からも、これまでと違いデータへのアクセスに必要な時間は確実に短くなったという話は聞いています」
現在、BCFファイルの分析に取り組むメンバーは20名弱。Snowflakeの運用は4、5名で行っているという。
「本当に仕事に使うのであれば、このぐらいパワフルなデータプラットフォームが必要です。データを分析し、有意なインサイトを得たいという人にとり、Snowflakeは敷居が低く扱いやすい仕組みだと思います。また管理者からは、SQLの知識があれば問題なく運用できるというフィードバックを得ています」
同社は今後、建設デジタルプラットフォームに格納されていく3Dモデルとその属性情報とSnowflakeのコミュニケーション記録の双方を活用し、建設DXを推進していく考えだ。
データシェアリングを活用し縦方向の情報共有を推進したい
竹中工務店は、今回のPoCで得られた知見を元に建設デジタルプラットフォームを多様な外部サービスが取り巻くエコシステム構築に役立てていく考えだ。またSnowflakeの各種サービスの中で山崎氏が現在、特に注目しているのはデータシェアリングに関連する機能という。
「オープンBIMの実践において特に期待しているのは、建設業界という横方向の情報共有よりむしろ建物の発注者や所有者というより多次元的な方向性を持った情報共有の実現です。建物の完成後もBIMには維持管理に関する情報が書き加えられていきますが、そうしたデータを我々が共有する機会はこれまでほとんどありませんでした。維持管理に関する情報が共有できれば、例えば空調設備の改修の際に現地調査を最小限に留められるなど、建設業界側の業務省力化に大きな貢献が期待できるだけではなく、建物所有者にとってもより効果的な改修の提案を期待できるなどのメリットが生じます。」
こうした観点で注目するのがSnowflakeのデータシェアリングソリューションだ。
「セキュアなデータ共有が行えるSnowflakeのソリューションには大きな可能性を感じています。今後は発注者の皆様にもプロジェクトや建物を中心にしたSnowflakeの活用などを提案して議論をしていきたいと考えています。すでにSnowflakeのユーザーになっている方との協業を起点に業界全体にSnowflakeを広げていきたいですね」
また建設業界とSnowflakeの親和性の高さを山崎氏は指摘する。
「建設業界では以前から膨大な量のデータを扱ってきました。そういう意味でも、データのより効率的な運用が可能になるSnowflakeの意義は小さくありません。ライフサイクルマネジメントの観点から電力使用量の可視化が求められるなど、取り扱うデータのビッグデータ化が進む中、建設業界におけるSnowflakeのようなデータの蓄積性と信頼性、そしてユーザービリティの高さを兼ね備えたソリューションの意義は今後さらに大きくなると考えています」
■事例先企業情報
企業:株式会社竹中工務店
所在地:大阪市中央区本町4丁目1-13
■ご利用のSnowflakeワークロード
・データエンジニアリング
・データレイク
・データウェアハウス
・データサイエンス
・データアプリケーション
・データシェアリング
■このストーリーのハイライト
・膨大なBIMデータを使いやすい形で格納
・外部サービスに接続せずにデータを分析
・データへのアクセスが大幅に高速化
Snowflakeについて
Snowflakeは、Snowflakeのデータクラウドを用い、あらゆる組織が自らのデータを活用できるようにします。お客様には、データクラウドを利用してサイロ化されたデータを統合し、データを発見してセキュアに共有し、多様な分析ワークロードを実行していただけます。データやユーザーがどこに存在するかに関係なく、Snowflakeは複数のクラウドと地域にまたがり単一のデータ体験を提供します。多くの業界から何千ものお客様(2021年7月31日時点で、2021年Fortune 500社のうちの212社を含む)が、Snowflakeデータクラウドを自社のビジネスの向上のために活用しています。詳しくはsnowflake.comをご覧ください。
関連リンク
※本記事はSnowflakeから提供を受けております。
[PR]提供:Snowflake

