西日本最大級の大学である近畿大学が2024年4月から、6キャンパス約3万6,000人の学生を対象にした Azure Virtual Desktop (AVD) 環境を本番稼働させました。AVDで提供しているのは、従来PC教室で学生に提供していたWindows環境です。2018年から学生が自分のPCを学内で利用するBYOD(Bring Your Own Device)を推進しており、2022年度の新1年生からPC必携化、2024年度よりPC教室の一部リニューアルを実施。AVDを使っていつどこからでもPC教室で提供していたCADや統計、プログラミングなどのアプリケーションを利用できます。新しい学びのカタチをどのように実現したのか、推進リーダーに話を聞きました。

学生が利用するPCのBYOD化を進め、約3万6,000人を対象に仮想デスクトップ環境を展開

「実学教育」と「人格の陶冶」を建学の精神とし、「人に愛され、信頼され、尊敬される」人づくりを教育の目的として、1925年創立の大阪専門学校と1943年創立の大阪理工科大学を母体として1949年に設立された近畿大学(以下、近大)。大学としては15学部49学科を設置し、学生数は大学・大学院・短期大学などあわせて約3万6,000人、教職員数は約9,500人という西日本最大級の大学です。キャンパスは東大阪、大阪狭山、奈良、和歌山、広島、福岡の6箇所にあり、水産研究所などさまざまな研究施設を持つことも特徴です。同大水産研究所による「近大マグロ」の養殖とビジネス展開、教育現場での活用は、実学教育の精神を象徴する取り組みとしても知られます。

ITやデジタル施策にも積極的で、2014年には全国で初めて紙の願書を廃止し、完全にインターネットで出願する割引付の「エコ出願」を実施したほか、全国の大学生協として初となる教科書注文の完全インターネット化、すべての契約書の電子化・脱ハンコ・ペーパーレス化、学生向け証明書発行の申込と決済手続のデジタル化、VISAプリペイド機能付き学生証の発行などを推進してきました。経営戦略本部 デジタル戦略室 室長 池田勝氏はこう話します。

「昭和24(1949)年、新学制により設立された近畿大学は、理工学部と商学部(現経済学部、経営学部)からスタートしましたが、時代のニーズに合わせて学部を増やし、法学部、薬学部、農学部、医学部、文芸学部、国際学部など総合大学として幅広い学びを提供してきました。2022年には新たに情報学部を設置し、教職員のコミュニケーションもビジネスコラボレーションツールのチャットやWeb会議サービスで行うなど、ITやデジタルを使って既成概念にとらわれない、変化に柔軟に対応できる環境を整えています」(池田氏)

  • 近畿大学 経営戦略本部 デジタル戦略室 室長 大学運営本部 KUDOS学生センター事務部長代理 兼務 池田勝氏

そうしたIT・デジタル施策の一環として2022年から取り組んだのが、PC教室のリニューアル、全学生約3万6,000人を対象とした仮想デスクトップ環境の導入でした。この仮想デスクトップ環境として選定されたのが、Azure Virtual Desktop (AVD)です。約3万6,000人もの学生を対象にしたAVD の大規模展開事例は、日本の大学として初となるものでした。

時代のニーズにあった学習環境を提供するため、全学ノートPC必携化を実施

取り組みの背景にあったのは、PC教室で据え置きのPCを利用するという学習環境が時代のニーズに合わなくなってきたことでした。池田氏はこう説明します。

「学生向けのPC環境は比較的早く整備され、ニーズに合わせて拡充してきました。規模の違いはありますがPC教室はすべてのキャンパスに設置されていて、PCの台数はすべてのキャンパス合わせて約4,200台。Excelの操作やCAD、GIS、統計、プログラミングなど、学習の際にPCが必要になる授業で利用し、これまでは利用のたびにPC教室に移動してもらっていました。しかし、コロナ禍でそもそも学生が校舎に来ない時期が続きましたし、GIGAスクールの取り組みを背景に学生が1人1台PCを持つことが普通になってきていました。そこで、PC教室の運営を効率化しながら、時代に即した新しい学びの場を提供することを目指して、PC教室を段階的に縮小していくことを決めたのです」(池田氏)

PC教室の段階的な縮小と学生のPC端末のBYOD化については、特に大きな問題なく進んだといいます。プロジェクト推進リーダーの経営戦略本部 デジタル戦略室 KINDAI-CSIRT 主任 横井隼人氏はこう話します。

「PC教室の管理はキャンパスごとに行われており、利用環境もそれぞれの学部や履修内容によって変わります。それぞれの事情を考慮しながら縮小していく方針です。BYOD化はすでに情報学部が先行して取り組んでおり、情報学部の学生は自分のPCを持ち込んで、普段の授業から自分の席でPCを見ながら講義を受けるスタイルになっています。また、講義によってはオンデマンドで配信しており、自宅で自分のPCなどを使って復習したりできます。BYOD化は、そうした学びのかたちを全学生に拡大するものでした」(横井氏)

  • 近畿大学 経営戦略本部 デジタル戦略室 KINDAI-CSIRT 主任 横井隼人氏

BYODを推進するために、2022年度の新入生から全学PC必携化を行いました。学生は指定された性能要求を満たすPCを購入し、4年間必携します。キャンパス内では無線LANが整備され、どこからでも無料でインターネットに接続でき、大学から配布されるユーザーアカウントを用いて、Microsoft Officeなどさまざまなソフトウェアにシングルサインオンして無料で利用できます。

一方で、PC教室で行う授業の新たな形での提供については簡単には進まなかったといいます。

アプリケーション配信の仕組みを導入するも互換性やコストの問題に直面

課題となったのは、PC教室で行う環境をどのように学生に提供するかでした。当初導入検討したのは、デスクトップアプリケーションの画面をWebブラウザ上に配信する仕組みです。

学生はWindowsやMac、タブレットなどさまざまなデバイスのWebブラウザから、Windows上で動作するExcelやCADソフト、Visual Studioなどを利用できるはずでした。また、PCを仮想化して集中管理できるため、キャンパスごとに分散したPC環境を統廃合したり、学部や大学院などのさまざまな環境に対応したりすることも容易でした。しかし、想定どおりに動作しなかったといいます。

「事前の調査では問題なかったのですが、実際に授業で使ってもらって検証したところ、さまざまな問題が噴出しました。特定のバージョンのアプリケーションがうまく動作しなかったり、必要な性能を提供するためにスペックをあげるとコストが大きく増えたりしたのです。バージョンを揃えたり標準的な環境だけを提供することもできますが、そうすると学部ごとに異なる要求に応えられなくなりますし、管理も複雑になります。なかでもコストの問題は、全学生に提供していく際に大きな障害になることが予想されました。ここまで深刻になることはまったく想定外。BYOD化とPC教室の削減は期限を決めて取り組んでいたプロジェクトだったため、期限が迫るなかで困り果ててしまいました」(横井氏)

そんな危機的な状況に対する救いの手となったのがマイクロソフトの担当者からのアドバイスだったといいます。

「マイクロソフトの製品は、Microsoft 365をはじめ学内のさまざまなシステムで利用しているので日頃から相談させていただいていました。バージョンの互換性などの問題もWindowsアプリケーションで発生していたので『実はいまたいへん困っている』と相談したところ、AVDを提案してくれたのです。詳しく話を聞いてみると、抱えている課題を解消できるだけでなく、PC教室の要件を満たしつつ、さまざまなメリットが得られることがわかりました」(横井氏)

デバイス非依存、移行性、柔軟性、スケーラビリティを評価してAVDを採用

AVDは、クラウドを利用したVDI(仮想デスクトップ基盤)サービスです。Windows環境をクラウド上に構築して、ノートPCなどから場所や時間を問わずにリモートからアクセスできるようにします。仮想化されたWindowsがそのまま動くため、ほとんど制約なくWindowsアプリケーションを利用できます。

PC教室の環境に求められた要件は大きく4つありました。1つめは、学生がデバイスを問わずに利用できること。AVDはクライアントアプリを利用することで、MacやiPad、Androidタブレットからも利用できました。2つめは、各キャンパスにおけるPC教室の環境を大きく変更せずに移行できること。AVDは現状の環境を仮想環境としてそのままのかたちで移行できました。3つめは、各キャンパスや学部のさまざまなニーズに対応できる柔軟性。AVDは、Windows環境で動作するアプリケーションを必要に応じて追加・削除・変更できるなど柔軟な対応が可能でした。4つめは、6箇所のキャンパスで全学生3万6000人に対応できるスケーラビリティ。AVDは利用者や同時接続数が増えてもパフォーマンスを保ったままスケールすることができました。Azure NetApp Files というAzure の高パフォーマンスのファイル ストレージ サービスで非常に大規模なAVDのデプロイをサポートできます。

「こうしたデバイス非依存、既存環境からの移行性、柔軟性、スケーラビリティにくわえ、将来にわたってコストを最適化できるか、管理がしやすいか、実績などを評価しました。なかでも、企業などで数万人規模で稼働している実績があり、Microsoft Office製品などとの親和性が高く、さらにマイクロソフトからの手厚いサポートがあったことが、AVDを採用した大きなポイントです」(横井氏)

期限が迫るなかでスムーズに導入するために、マイクロソフトの担当者と綿密に打ち合わせを行ないました。そこでの手厚いサポートが大きな助けになったといいます。

「マイクロソフトさんには、『近大AVD道場』と銘打った勉強会や研修を繰り返し実施いただきました。仮想デスクトップのクラウドソリューションアーキテクトである牛上 貴司氏から直接レクチャーいただくなど、貴重な機会もいただきました。さらに、AVDの領域で知見の豊富なベンダーさんを紹介いただき、実際に本番で稼働できる環境まで作っていただき、それを使ってスムーズに検証を行なうことができました」(池田氏)

本番と同じ環境を使った検証は、40人規模のクラスで行い、講師や学生からのフィードバックも得ました。検証については、マイクロソフトの Azure Migrate & Modernize (AMM) というオファリングを活用してコスト負荷なく迅速に検証環境やパートナーからの専門的なサポートを受けることができたといいます。

「『ログインすれば普通のWindowsなので違和感なく使うことができた』『Macや低スペックなPCでも問題なく操作できた』『Windowsが最新バージョンでローカルにもデータが残らないのでセキュリティ面で安心できる』など、たいへん好評でした。手厚いサポートがなければ、環境構築から検証、テスト、本番稼働までこれほどスムーズに進まなかったと思います。これまで2歩進んで1歩下がるような辛い道を歩んでいたところ、マイクロソフトさんが伴走してくれたことで1歩進んでさらに2歩進むようにスピードアップできました」(池田氏)

2024年9月から全キャンパスでAVDを本格利用、新しい学びのカタチを提供

その後スムーズに期限通りにテストや環境構築を終え、2024月4月から本格展開を開始しました。Azure Migrate & Modernize (AMM) の本番構築フェーズでのオファリングも活用し、その中で提供されるFastTrack for Azure のエンジニアサポートも迅速かつスムーズな本番展開につながったといいます。

「東大阪キャンパスでは、38号館のPC教室をリニューアルし、対面とオンラインを融合したハイブリッドでフレキシブルな学修ができる空間として整備しました。デスクトップPCを撤廃し、学生が自分のPCをデュアルモニターにつないで大きな画面でCADを操作したり、ワイヤレスで大型マルチスクリーンに接続してグループワークを行ったりできます。フロアも可動式のデスクを中心に自由にレイアウトできる設計で、学生はAVD環境や自分PC環境を使い分けながら、躍動感ある授業を行なうことができます」(池田氏)

  • 近畿大学 東大阪キャンパス 多目的室

AVDは全キャンパスで利用できるように設計されています。4月からはこれまでのPC教室の稼働実績などを参考に同時接続数1,250名でスタートしました。9月からの後期授業では、CADなどのアプリケーションのライセンスをAVD環境に移行させるほか、Azureの仮想マシンで稼働するLinux環境などもリモートから利用できるようにし、本格的にPC教室として利用していく計画です。その際の最大同時接続数は2,700名を見積もっています。

「クラウド環境なので、もし同時接続数が不足するようならリソースやマシンのスペックを増強することができます。また、ハードウェアを確保してメンテナンスする必要がなく、不要になればすぐに廃棄できることもメリットです。今はまだ約4,200台のPCも継続して利用できますが、AVDの利用が進むなかで、各キャンパスの事情にあわせてPCを縮小し、最終的にすべてをAVDに移行する計画です。そのうえで今後は、AVDを先生方の専門的な研究の場として利用してもらったり、セキュアな環境が求められる学内の業務などでも活用したりするという構想があります。さらにAzure のサービスとしては、Azure OpenAI Service による生成AIの活用により事務作業の効率化なども考えていきたいと思っています」(横井氏)

また、池田氏も、AVD導入の意義と今後についてこう展望します。

「社会が変わると授業の形態は変わります。実際今もキャンパスを見渡すとPCを携えた学生が庭やカフェのベンチなどで活発に話しあっている様子を目にすることができます。PC教室での授業にとどまらない新しい学びのカタチが提供できつつあるのです。実学教育と人格の陶冶を目指し、今後も新しいことにどんどん取り組んでいきます」(池田氏)

近大の新しい学びを実現に向けて、マイクロソフトは今後もサポートしていきます。

*所属部署、役職等については2024年6月現在のものです。

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