Infineonは自動車向け半導体を20年以上に渡って供給しているベンダーである。幅広いラインナップが魅力だが、昨今は提供範囲が広がってラインナップがさらに豊富になり、ここ数年は自動車向けの電源IC関連製品をまとめてOPTIREGというブランドの元で展開を行っている。具体的には電圧レギュレータであるOPTIREG Linear、スイッチング電源であるOPTIREG Switcher、電源管理ICであるOPTIREG PMICという3つにカテゴリー分けされた上で様々な製品が提供されている。今回ご紹介するのは、このOPTIREG PMICに属する新製品のTLF35585である。このTLF35585について、インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社の菅原 一誠氏と柳田 高史氏に話を聞いた。
FuSa対応PMIC、TLF35585の優位性
そもそもOPTIREG製品は全て自動車向けということで、当然のことながら車載向けICの信頼性規格であるAEC-Q100に準拠している。競合メーカーとの差別化要素としてInfineonは、AEC-Q100準拠は当然として、その上で低い不良率や長い製品寿命を提供しているが、今回のTLF35585はさらにFuSa(機能安全)対応PMICという点が競合製品と大きく異なる部分である。
FuSa、要するに機能安全であるが、自動車業界向けにはISO26262 ASIL-A~Dとして広く知られている規格がある。特に故障が直接的に安全に関わる部分(ステアリングやアクセル/ブレーキなどに限らず、エンジンやサスペンションなど)に関しては、故障率を10FIT(1億時間に1回)未満とするASIL-D、そこまでクリティカルではないもののやはり安全に関わる部分(メータ計器など)は100FIT(1千万時間に1回)未満とするASIL-Bを適用することが多いが、最近は自動運転や車両のEV化に伴い、次第にASIL-Dを適用する範囲が増えている。これを実現するために、たとえばECUで利用されるMCUにはLockStep(複数のCPUコアを同時に動かすと共に結果をチェックすることで、あるCPUコアが故障しても処理を継続できる仕組み)を利用するのが普通である。
ここまでの話は、この記事の読者の方ならおそらくご存知のことかと思う。ではInfineonのFuSa PMICとは何かというと、こうしたISO26262 ASIL-Dに対応したMCU向けのPMICである(図1)。特徴的なのは、PMIC自体がISO26262 ASIL-Dに求められる要件に対応しており、MCUの機能安全管理に関わる部分まで行えることである。たとえば、供給電圧変動が発生してMCUの動作温度範囲を超えてしまった場合、当然それを検知して必要ならばシステムのリセットを行う必要がある。いわゆるBOR(Brown-Out Reset)に相当する機能だが、低価格MCUのBORと異なり、FuSA PMIC搭載のVoltage Monitorは電圧の検知範囲や精度、さらに変動の時間などに関して、厳密な測定とこれへの対応が可能となっており、耐電圧も低価格MCUとは比較にならないほど高くなっている。ちなみにFuSa PMICはMCU向けの電源供給(LDOμC/LDOStBy)以外に外部通信I/F(CAN/FlexRay)向けの電源供給(LDO_Com)も用意されており、こちらの系統での電圧監視機能も実装されている。
他にもWatch-dog Timer(Windows Watch-dogとFunctional Watch-dogの両方が用意され、目的に応じて柔軟な構成が可能)や、MCUが自身のエラーを外部に通知するロジック信号を読み取るError Monitoringといった機能を有している。障害発生時に回復可能な場合にはそのエラー情報を通知、不可能な場合にはMCUのリセットを行うというSafe State Controllerを搭載している。FuSa PMICと外部のFail Safe Circuitを組み合わせることで、「システム全体での冗長性を上げて故障率を下げると共に、万が一異常が発生した場合にもその被害を極限まで抑える」という構成を容易に構築できることになる(図2)。この目的のため、回復可能なエラーの場合はその通知と一緒に、具体的にどのようなエラーが起きたかといった情報をGPIOやSPI経由で通知することも可能になっており(図3)、対策の実装が柔軟に行えるのも特徴の一つである。
ちなみにFuSa PMICは、SEooC(Safety Element out of Context)としてISO26262 ASIL-Dを取得している。というのは、車体制御だけでなくADAS/自動運転向けやEVの電源管理など様々な用途が想定されるためで、特定用途向けではなく汎用向けとしてASIL-Dを取得している。実際同社ではFuSa PMICをEPS(電動パワーステアリング)/ブレーキ制御/サスペンション制御/車体制御/ADAS Function Box/エンジン制御/トランスミッション制御/インバータ/バッテリマネジメント/DC-DCコンバータ/充電管理といった、現在の車載向けでISO 26262 ASIL-D対応が求められそうなほとんどすべての用途で利用可能としている。
お客様からのニーズに応えTLF35584を強化
Infineonは2016年にFuSa PMICとしてTLF35584を市場投入しており、既に広範に利用されている。今回発表のTLF35585はこの後継製品にあたる。主要な特徴をまとめたのが下図だが、ほとんどの特徴はTLF35584と共通である。
改良点として挙げられているのは以下の5項目だ。
・出力の強化(1.3A→1.5A)
TLF35584はBuck/Boost-Pre-Regulatorの出力が最大1.3Aであったが、これを1.5Aに引き上げた。昨今は車載向けMCUの高性能化に伴って消費電力も次第に増えつつあるため、こうしたトレンドに対応する形で強化された。
・待機時消費電流の削減(70μA→<10~15μA)
近年、一般的に、停車中でも動作し続けるECUが増えており、オルタネータといった発電機を持たず、バッテリーのみで駆動するBEVの場合は、待機時の電力を最小限に抑えたいという要求が非常に高くなっている。これに対応して待機時消費電流を大幅に削減し、バッテリー寿命伸長に貢献する。
・SPI経由で取得できる情報を増加
よりきめ細かなエラー情報取得や状態監視が可能になった。
・AEC-Q100 Grade 0への対応(TLF35584はGrade 1)
これまでのエンジン車では(イモビライザーなど一部の防犯関連を除くと)基本的にエンジンを掛けるまでは電源がOffになっていたので、たとえば10年稼働している車と言っても実際にPMICに通電されている時間はずっと短かった。ところが昨今はカーシェアリングの普及などで車両の実質的な稼働時間がどんどん伸びている。こうしたトレンドに対応するため、150℃までの稼働に対応するAEC-Q100 Grade 0準拠に対応を引き上げた。これにより、同じ温度環境であればAEC-Q100 Grade 1対応の製品よりも長い製品寿命の実現が可能となった形だ。
・パッケージの小型化
車両の電子化の進行とともに求められるのが小型化への要求である。EUCの数は年々増えており、その一方でEUCを搭載できるスペース自体は変わらないか、むしろ縮小傾向にあることを考えると、チップの小型化は避けて通れない。TLF35584では7mm×7mmのVQFN-48と10mm×10mmのLQFP-64の2種類のパッケージで提供されていたが、TLF35585では7mm×7mmのVQFN-48以外に同じく7mm×7mmのTQFP-48が追加され、LQFP-64のほぼ半分の面積で実装が可能になった。
TLF35584の優れた特徴はそのままに、既に利用されているお客様からの要求に応える形で強化した製品、と考えていただければよいだろう。
機能安全においてFuSa PMICは代替不可
TLF35585の量産開始は2022年第4四半期を予定しているが、既にサンプル出荷は開始されており、評価キットも用意されている。基本的にはTLF35584の延長として利用できるので、既にTLF35584を使っているケースであれば、TLF35585に移行することでより低い待機時消費電流とより大きな出力、長寿命などのメリットを得ることが可能になる。そして、これからFuSa PMICの利用を考えるのであれば、TLF35585を前提に設計を行う方が便利だろう。
前述した、TLF35585を含むFuSa PMICはMCUの種類を選ばない。今回は例として同社のAURIX MCUを組み込む形で紹介しているが、先に適用範囲を紹介した通り、AURIX MCUを使わない用途であってもFuSa PMICは利用可能であり、MCUは他社製品であっても全く問題は無い。これもFuSa PMICがSEooCとして開発されていることのメリットの1つである。 FuSa PMICはもちろん汎用ではあるのだが、機能安全が必要ない部分に利用しても仕様が過剰でコスト的にも見合わないだろう。そうした用途向けには他にもPMICが存在する。ただ、機能安全を利用する必要がある場所においては、FuSa PMICは他では代替できない機能と安全性を提供する。そうしたニーズを案件として抱えているエンジニアの方は、PMICとしてTLF35585を検討してみてはいかがだろうか。
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