去る2020年11月26日、アヴネットが主催したオンラインイベント『AI Discovery Day 2020』は、日本の産業界で進むAI活用に”発見”という名のヒントを提供することをテーマとし、約3時間にわたる濃密なセッションの数々が披露された。ここではその内容をレポートとしてお届けしたい。

研究開発と産業用途での応用、両者にあるギャップを埋めるには

イベントの冒頭、キーノートセッションに登壇したのは東京工業大学 工学院 情報通信系 准教授 兼 トウキョウ アーチザン インテリジェンス株式会社(TAI) CEOの中原 啓貴氏。「AIの研究開発と産業応用におけるギャップの解決方法」と題し、AIを産業用途に応用する際の実践的なメソッドを解説した。

  • 東京工業大学 工学院 情報通信系 准教授
    トウキョウ アーチザン インテリジェンス株式会社(TAI)CEO
    中原 啓貴氏

講演の前半では、2010年台の急速なAIブームに至る技術的背景を解説したあと、注目すべき技術としてCNN(Convolutional Neural Network)をあげ、MobileNet / ResNet / MobileNet v2 / ShuffleNetや混合精度やスパース化といった、現在広く使われているネットワークの特徴や、最新のCNN向けのさまざまな技法が紹介された。

対して後半では、中原氏がCEOを務めるTAIが手掛けた産業向けAIの応用事例をもとに、AIの研究開発と、実際の産業用途の現場とのギャップをどう埋めるかがテーマとなった。

ここでは、TAIがマルハニチロに納入した「かうんとと」(FPGAボードとカメラを組み合わせ、漁船の上というオフライン環境で収穫した魚体の尾数を自動計測システム)を例に取り、産業用途にAIを適用する際のアプローチの仕方や細かなノウハウ、プロジェクトを進める際の落とし穴などについて説明するという実践に則した経験談が語られた。

AI活用が期待される4つの分野

キーノートに続くアヴネットセッションには、Avnet Silicaの Michael Uyttersprot氏(Market Segment Manager, AI-Machine Learning-Vision)が登壇。今年6月に欧州で開催したイベントの講演を「機械学習で切り開く未来」というタイトルで、今回のイベント向けにアレンジした内容が披露された。

  • Market Segment Manager, AI-Machine Learning-Vision,Avnet Silica
    Michael Uyttersprot氏

内容は、そもそもAI / 機械学習とは何か、という基本をわかりやすく説明するところからスタートし、現在アヴネットがフォーカスする4つの分野について、それぞれの説明がなされた。

  • アヴネットがAI活用に注力する4つの分野

その1つ目がImage & Video Analyticsで、映像を利用した分析である。農業における植物病害の検出、現場における安全確認、監視カメラを利用しての危険検出やジェスチャー認識、車載向けのセグメンテーション(対象物分類)、漁業における魚に付着した寄生虫の認識や水質の確認、尾数の計測など、実験室における人間とコボット(作業補助ロボット)との協調などが実際の例として紹介された。

2つ目はPredictive Analytics。AIを利用した予測である。具体的には産業分野で、モーターの稼働状況をセンサーなどで確認し、これを教師無し学習の手法でデータを蓄積していくことで、異常状態の検出とこれを利用した故障予知、さらにその先では予防保全に繋げていく一連の流れ。

3つ目がSound Analytic / Speech & Audio Processing。ここでは唇の動きを認識してのテキスト生成やキーワードスポッティング、音響分析などの手法が説明された。

最後に4つ目は、Activity Analysis。これは加速度センサーを利用して、その人が歩行しているのか、サイクリングしているのか、といった活動検出を可能にするものであり、ヘルスケア分野での応用も視野に入っているという。

AIの産業利用を支えるキープレイヤーが一堂に

ここからは、エッジからクラウドまで、AI活用におけるキープレイヤーが揃ったサプライヤーセッションを紹介したい。

日本マイクロソフト

はじめに登壇した日本マイクロソフトの菖蒲谷 雄氏(業務執行役員IoT & MR営業本部長)からは、「マイクロソフトの製造業におけるDX 実現への取り組み」が紹介された。

  • 日本マイクロソフト株式会社
    業務執行役員IoT&MR営業本部長
    菖蒲谷 雄氏

マイクロソフトは昨今の製造業の課題である人手不足や社員の高齢化、COVID-19により事業継続が難しくなるといったさまざまな問題に対し、Digital Feedback Loopを構築し、Dynamic Capabilityを強化することで対応できると説明。マイクロソフトは、このDigital Feedback Loopをエッジ、クラウドの双方で実現するソリューションを提供できることを強調した。そして、実際にソリューションを生かし変革を行った事例として、小松製作所の スマート工場基盤「KOM-MICS」を紹介。

ほかにもJabli Ltd.や豊田自動織機、海外ではシーメンスの風力タービンの検査プロセスなど、クラウドAIの技術を利用したエッジ活用を例に取り、顧客が自社だけでの開発が難しい場合に利用できるエコシステムやコミュニティの活用を訴えた。

  • AI Discovery Day 2020_開催レポート_006
  • AI Discovery Day 2020_開催レポート_007
  • (左)小松製作所「KOM-MICS」の事例(右)マイクロソフトが手掛けるAI活用の事例

ザイリンクス

ザイリンクスからは、堀江 義弘氏(データセンターグループ シニアFAEマネージャー)が登壇。「すぐ試せる! エッジからクラウドまで対応するアダプティブなAI プラットフォームとは」と銘打たれたタイトルで同社が提供するVitisと呼ばれるライブラリセット群を紹介した。

  • ザイリンクス株式会社
    データセンターグループ シニアFAEマネージャー
    堀江 義弘氏

昨今、AIを利用するためのプラットフォームとしてFPGAが幅広く採用される一方、FPGAの使い方が難しいと尻込みする開発者も少なくない。

こうした開発者、言い換えればソフトウェアには慣れているが、FPGAで必要とされるHDL(Hardware Description Language)には慣れていない開発者にFPGAを使ってもらうためのツールとして先日同社が発表したのがVitisと呼ばれるライブラリセット群であるが、そのなかでも特にAIに特化させたものがVitis AIである。これを利用することで、Endpoint向けのZynqからEdge向けのZynq Ultrascale+、サーバー向けのAlveoグレードまで幅広いプラットフォームでFPGAを利用したAI処理を、FPGAのプログラミング無しに可能にする。

  • 幅広いプラットフォームに適応するVitis AI

堀江氏からは、このVitis.AIを利用する仏MipsologyのZebraにおけるCPU+GPU構成で実施していた推論をFPGA上で稼働するZebraプラットフォームの事例や、FPGAを身近に”試す”ことができる場所として東京工業大学内に置かれたACRi(アダプティブコンピューティング研究推進体)が紹介され、AI活用におけるFPGAの採用がすでにポピュラーなものになっていることを示した。

  • Zebraプラットフォームの概要

NXPジャパン

パートナーセッションの3つ目はNXPジャパンの橋本 耕太郎氏(マーケティング統括部 MCUプロダクト・マーケティング)。講演タイトルは、「低価格にエッジAIを実現するNXPのマイコン・ソリューション」である。

  • NXPジャパン株式会社
    マーケティング統括部 MCUプロダクト・マーケティング
    橋本 耕太郎氏

上述のセッションでもしばし触れているが、昨今はAIの推論をクラウドからエッジに次第に移行するのが大きなトレンドとなっている。NXPはこうした用途に適した、クロスオーバープロセッサと呼ばれるMCUファミリーを提供しており、エッジAIに向けたターンキーソリューションやSensiMLと呼ばれるAI IoTツールキット、eIQと呼ばれるAI / MLの開発環境も提供している。

講演では、音声と画像、2種類の用途に向けて複数世代のソリューションが提供されているターンキーソリューションが、今後はi.MX RT117Rという音声と画像の両方に対応したソリューションに一本化されること。こうしたソリューションは、評価用ボードに加えてソフトウェアのソースコード、回路図、配線図、ドキュメント、さらには部品表まで提供されており、ソフトウェアは最終出荷製品クオリティのものが提供されるとし、ターンキーソリューションが利用できる製品であれば企画から出荷まで半年以内に可能という点を強くアピールした。

  • ターンキーソリューションのロードマップ

また、開発環境であるeIQは、同社の広範な製品で利用可能になっており、複数のフレームワークに対応する点もメリットとしてあげられる。その意味でeIQは、ターンキーソリューションだけでは済まないような用途向けに真価を発揮するものといえるだろう。

  • eIQの概要

オン・セミコンダクター

サプライヤーセッションの最後を飾ったのは、オン・セミコンダクターの和久井 玄吾氏(Regional Marketing Manager, Intelligent Sensing Group)。「AI システムにおけるイメージングデバイスの役割」と題し、CNNが画像認識の分野で急速に発展していることを背景とし、AI活用におけるイメージングデバイスのポイントとして、グローバルシャッター、広いダイナミックレンジ、フリッカーフリー、レンズ特性や解像度、開発用のツールの5つをあげた。

  • オン・セミコンダクター株式会社
    Regional Marketing Manager, Intelligent Sensing Group
    和久井 玄吾氏

これを踏まえセッションの後半では、実際に利用されるアプリケーションを例とし、Amazon Goに代表される未来のリテールショップや、生産現場における品質管理、ドローンを利用した自律輸送システムなど、シナリオ別にどんな特性が必要とされるのかを紹介しながら、同社の提供するセンサーを組み合わせることでアプリケーションの要求にどう応えられるか、という紹介を行った。

  • AI Discovery Day 2020_開催レポート_015
  • AI Discovery Day 2020_開催レポート_016
  • アプリケーションで活用されるイメージングデバイスの事例

和久井氏は、イメージセンサー側でHDRの対応や、歪補正を行うなど、精度の高い画像を送り出すことで、それだけAIの推論精度も高め、消費電力削減にもつながり……、といったAI活用におけるイメージセンサーの重要性を説いた。

セミナー / トレーニングの情報はアヴネットのHPにて

今回のAI Discovery Day 2020では、昨今のAI事情から、最新のソリューション情報まで、これからAIを活用しようと模索するなかでのヒントが多く得られるものであった。

なお、アヴネットでは、中原氏の講演にあった「かうんとと」にも採用されたFPGAボード「Ultra96」のトレーニングをはじめ、さまざまなセミナー / トレーニングを定期的に行っている。詳細・申し込みは、アヴネットのHPで確認いただきたい。

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