5Gの活用用途として注目されているドローン。現状はようやく4Gでドローン向け通信サービスが始まったばかりというところですが、今後の5G、そして人がいる場所での目視外飛行が可能な「レベル4」の解禁に向け、ドローン向けのモバイル通信には何が必要とされているのでしょうか。2022年6月21日より開催されていたドローンの見本市イベント「Japan Drone 2022」での展示などから確認してみましょう。→過去の回はこちらを参照。

レベル4を見据え本格化する4Gでのドローン向け通信

かねて注目されているドローンですが、現在は法制上の問題から人間が目視できる範囲での飛行が主で、人間の目が届かない目視外での飛行は無人地帯のみの「レベル3」までしか解禁されていないことからその利用も限定的です。

【関連記事】
≪NEC×ドコモ、ドローンと映像解析技術を用いて災害時を想定した実証を実施≫
≪富士通が那須工場に5G実証環境を整備、ドローンやAGVの持ち込み検証が可能≫

しかし、2022年から2023年にかけて「レベル4」、つまり有人地帯でドローンを目視外飛行させられるよう制度改正がなされる可能性が高く、それによってようやくドローンの本格的なビジネス展開ができると見られています。

そしてレベル4の解禁を見据え、ここ最近携帯各社はドローン向けに、広域をカバーしている4Gのネットワークによるモバイル通信サービス提供を相次いで開始しています。

実際、NTTドコモは2021年7月よりドローン用の上空向け通信サービス「LTE上空利用プラン」を提供していますし、KDDIも2022年2月からドローン向けの通信に運行管理システムやクラウドなどをセットにした「スマートドローンツールズ」の提供を開始しています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第72回

    「Japan Drone 2022」にはNTTドコモをはじめとした携帯大手3社がブースを出展。ドローン向けのモバイル通信やその活用事例なども紹介されていた

なぜ、レベル4でのドローンの運行にモバイル通信が必要なのかといえば、目視外でドローンを遠隔で飛行させる必要があるからこそです。

ドローンの状況を確認して安全かつ安定した飛行を実現するにはネットワークへの接続、ひいては広域で無線通信が可能なモバイル通信が必要になってくることから、各社ともにレベル4の解禁を見据えてドローン向け通信サービスの提供に積極的に動いたといえるでしょう。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第72回

    NTTドコモは上空を飛ぶドローン向けモバイル通信の実現位向け、ネットワーク側で電波の出力や周波数などを制御し、デバイスを問わず地上のネットワークに干渉せずに通信できるようにしたとのこと

ただ、ドローン向けに利用できる周波数帯は特定のものに限定されていますし、上空を飛ぶドローンから射出された電波が地上のスマートフォンなどと電波干渉を起こし、通信しづらくなるなどの影響が出てしまう可能性もあります。そうしたことからドローンと通信する上では電波の出力や使用する周波数帯などを制御するためのカスタマイズが求められるようです。

NTTドコモの関係者によると、同社では一部の通信機器ベンダーに依存することなく、コアから鉄塔に至るまで独自でネットワークを構築していることから、専用端末などを用意する必要なく、ネットワーク側の制御だけでその対応ができる仕組みを構築したとのこと。

ドローン向け通信サービスを提供しているのが2社のみと、対応に差が出ているのは各社のネットワークの仕組みの違いも大きく影響しているようです。

本格利用に向けてはネットワーク、ドローン共に課題が

また、現在のところドローンをモバイル通信に対応させるには、モバイル通信用のルータやモジュールなどをドローンに搭載することが多いようですが、ドローンに直接モバイル通信機能を搭載したものも出てきているようです。

それがParrotの「ANAFI-Ai」というもので、直接SIMを挿入してドローンでの4Gによる通信を実現できるとのことです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第72回

    Parrot製のドローン「ANAFI-Ai」は、直接SIMを挿入して通信できる仕組みを備えている

そうしたことから徐々に環境が整いつつあるドローン向けのモバイル通信ですが、5Gでの展開を見据え本格的な利活用を進める上では課題も少なからずあります。レベル4の解禁が必要不可欠というのはもちろんなのですが、他にも問題になってくるのがドローンのバッテリーです。

現状、国内におけるドローンの利活用は、目視外飛行での利用が難しいため、基本的に目視が可能で利用できるエリアも制限されていることから飛行時間が短くて済みます。しかし、レベル4の解禁で人がいる場所での目視外飛行ができるようになれば、必然的にドローンを遠く、長く飛ばす必要があり、そのためにはより大容量のバッテリーが必要になってきます。

しかも長距離飛行での用途は物資の運搬などが主で、ドローンに荷物を載せて飛行させることから重量が増し、飛行するのに一層多くのエネルギーが必要になることから飛行距離がより短くなってしまう可能性があります。ドローンを広域で飛行させるには、ネットワークだけでなくドローン自体の性能向上も必要になってくるようです。

また、現状の4Gのネットワークは人口カバー率、つまり人のいる所を基準にエリア整備がなされているため、森林や海など人のいない場所はカバーされていません。

それゆえ現在広域でのエリア整備が進められている5Gでは、そうした場所に飛行するドローンと通信するためより広域でのエリア整備が求められるでしょうし、そのためにはHAPSや低軌道衛星など、比較的地上からの距離が近く遅延なども少ないながらも、広域のエリアをカバーできる仕組みが求められるかもしれません。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第72回

    KDDIが進めている物資運搬の実証実験に活用されている、プロドローン製のドローン。レベル4の解禁後は特に、物流にドローンと通信を活用する動きが進むと見られている

無論、ドローン向けのモバイル通信サービスはまだ始まったばかりですし、本格活用が進むのはレベル4が正式に解禁されて以降のことになるでしょう。5Gでの利活用を見据える上では、まずレベル4の解禁で、ドローンでのモバイル通信がどのような形で活用され、どのような課題が出てくるのかを確認しておく必要がありそうです。