ここ最近、スマートフォンだけでなくノートパソコンにモバイル通信機能を搭載し、さらに5Gにも対応した機種を投入するケースが頻繁に見られるようになってきました。その背景にはリモートワークを中心とした働き方の変化が大きく影響しているようですが、5G対応ノートパソコンの広がりは、5Gの利活用を広げる手段の1つとなるでしょうか。→過去の回はこちらを参照。

22機種の新「ThinkPad」がモバイル通信対応に

モバイル通信機能を搭載した機器といえばスマートフォンが一般的ですが、5Gの登場によって機器の多様化が進みつつあるようです。ここ最近、モバイル通信機能を搭載するケースが急速に増えているのがノートパソコンです。

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ノートパソコンに通信機能を搭載するという動きは2Gの時代からなされていたもので、インテルがWiMAXに力を入れていたころはWiMAXに対応したノートパソコンが市場に多数投入されたことがあります。

しかし、モバイル通信の進化が早く性能が陳腐化しやすかったこと、そして通信機能がバッテリーを大幅に消耗してしまうことなど、いくつか弱点を抱えていたことから広く普及するには至りませんでした。

それゆえ、パソコンでモバイル通信を利用する際はモバイルWi-Fiルータを使うか、スマートフォンのテザリング機能を使うというのが一般的でした。

だだ、最近ではモバイル通信の性能が大幅に進化しWi-Fiにも引けを取らない通信性能を持つようになり、しかもバッテリーの長寿命化など従来抱えていた課題がクリアされてきたこともあって、5Gのサービス開始より少し前ころからモバイル通信機能を搭載したノートパソコンへの注目が再び高まってきたのです。

そして、直近ではノートパソコンにモバイル通信を搭載する動きは急加速しているようです。それを象徴しているのが、2022年4月12日にレノボ・グループの日本法人であるレノボ・ジャパンが発表した、ビジネスノートパソコン「ThinkPad」シリーズの新機種です。

というのも今回発表されたThinkPad新機種は22モデルあるのですが、そのいずれもがオプションでモバイル通信機能を内蔵可能だというのです。その多くは4Gのみの対応となりますが、「ThinkPad X1 Nano Gen 2」「ThinkPad X1 Carbon Gen 10」など、一部機種は5Gにも対応しています。

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    レノボが2022年4月12日に発表した「ThinkPad」シリーズ新機種は、いずれもモバイル通信モジュールを内蔵可能。「ThinkPad X1 Carbon Gen 10」など一部機種は5Gにも対応する

加えて「ThinkPad X13s Gen 1」はクアルコムの「Snapdragon 8cx Gen 3」を搭載しており、5Gのミリ波にも対応するとしています。いかにレノボ・グループがノートパソコンのモバイル通信、そして5G対応を急速に進めようとしている様子を見て取ることができるでしょう。

リモートワーク需要を見越した広がり

その背景にあるのは、やはりコロナ禍で急拡大したリモートワーク需要を獲得する狙いが強いからこそといえます。人との接触を避けることが求められたコロナ禍の影響により、オフィスだけでなく自宅や外出先、さらには旅行先などでノートパソコンを用いて仕事ができる環境の整備が急速に進んだと感じる人は多いことでしょう。

また、リモートワークではビデオ会議に参加したり、他の人と仕事の情報を共有したり、社内の資料にアクセスしたりするためネットワーク接続が必要不可欠なものとなっています。とはいえ自宅に固定ブロードバンド回線を引いていない人も多く、すべての人がオフィス以外の場所でネットワークに接続しやすい環境を確保できる訳ではありません。

場所を選ばずネットワークに接続してリモートワークすることの重要性が高まったことが、ノートパソコンにモバイル通信を内蔵する流れにつながったといえますし、より高速大容量通信がしやすい5Gの広まりも、その動きを後押しする要因になっているといえそうです。

加えて、モバイル通信の搭載は単にネットワークに接続するだけでなく、閉域接続やMDM(Mobile Device Management)の活用がしやすく、セキュリティを高めるという意味でもメリットがあります。それだけ重要性が高まり、メーカーらも力を入れているモバイル通信機能を搭載したノートパソコンですが、日本のビジネスの現場で実際に広く使われているかというと、決してそうとはいえない現状があります。

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    2022年3月10日にNTTドコモ、インテル、レノボ・ジャパンの3社による記者説明会より。ノートパソコンにモバイル通信を搭載することは、MDMや閉域接続の対応など、セキュリティ面でも多くの優位性がある

そこには通信量の目安がなく通信料金に不安があることや、設定やトラブル対処など技術面での情報不足など、いくつかの課題があるようです。

そうしたことから一連の課題を解決して利用を促進しようという動きが企業の側から広がりつつあるようで、NTTドコモとインテルは2021年4月に、LTE/5G対応Connected Modern PC(CMPC)市場の拡大に向けた連携協定を締結、両社でCMPCの導入提案や、利用時の課題を解決するソリューションの創出などを進めています。

さらに、2022年3月10日には2社の協定にレノボ・ジャパン加わることを発表、3社でCMPCの導入に向けたホワイトペーパーを公開するなどの取り組みを進めています。こうした取り組みが他の企業にも広がることでビジネスでのモバイル通信利用、さらに言えば5Gの利用が拡大することを大いに期待したい所です。

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    同説明会より。3社はCMPCの導入に向けた課題の解消に向け、導入時の参考資料となるホワイトペーパーを公開している