2020年6月15日~18日(米国時間)にかけて開催された「2020 Symposium on Technology and Circuits(VLSIシンポジウム2020)」では最先端のコンピューティング分野である量子コンピュータや人工知能(AI)に関する多くの発表が行われた。中でもAI技術に関する論文はメモリ技術の48件に次いで多い31件の応募があったものの、採択されたのはわずか6件(採択率19%)という激戦の技術分野となった。
九大/名大が開発した32GHz動作の極低温超電導4ビットプロセッサ
九州大学(九大)と名古屋大学(名大)の研究チームは、超伝導単一磁束(SFQ:Single-Flux-Quantum)回路を用いた4ビットプロセッサを開発したことを発表した。
ゲートレベルパイプラインアーキテクチを初めて採用し、最大32GHzでの動作を実現した。またSFQ回路の特性を引き出すために、実験は液体ヘリウムを用いて4.2Kまで冷却したほか、一般的なプロセッサで用いられる従来のパイプライン設計と異なり、論理がフィードフォワードパスかフィードバックパスかに応じて、コンカレントフロー式とカウンタフロー式を組み合わせたクロック同期方式を採用したとする。結果、これらの技術により、今回実装した4ビットプロセッサは2.5TOPS/Wの電力効率を実現したという。
仏Leti/STが発表した量子コンピューティング向け極低温28nm FD-SOI技術
量子コンピュータでは、4.2Kから1Kをはるかに下回る極低温(ULT)でも動作する高性能・低電力な制御エレクトロニクス技術が求められている。仏CEA-LETIとSTMicroelectronicsの研究者らは共同で、このようなアプリケーションに適したCMOSデバイスとしてFD-SOIトランジスタを提案し、28nm FD-SOIトランジスタを用いた極低温におけるデバイス性能、およびそのばらつきへの影響について報告した。
短チャネルトランジスタでは順方向の基板バイアス印可(FBB)によるデバイス性能メリットが室温から100mKに温度を下げても保持された結果、ULTでも高い性能が得られ、Ionは1mA未満、Ioffは1fA未満(計測器の検出精度以下)を達成したとする。ULTで増加したMOSFETのミスマッチ特性(しきい値電圧(VTH)および電流ゲイン係数(β)のばらつき)は、室温やその他のCMOS技術に比べて小さく、極低温域での適用に有望だという。
IBMがAI学習・推論向け高稼動効率プロセッサを開発
IBMは、AIの学習処理と推論処理の双方に対応したプロセッサを紹介した。発表を行った研究グループは、そのうちの可変構成ヘテロジニアス演算エンジンや、多様なAI処理に合わせてデータフローを制御可能なプロセッサコアを開発したという。
これを、ソフトウェアによるネットワークインタフェース制御とあわせることにより、システム上のハードウェアの稼働率を向上させ、学習処理において、0.62Vで0.30TFLOS/mm2の面積あたり演算性能、推論処理においては0.54Vで1.4TFLOPS/Wの電力あたり演算性能を実現したとしている。
10年後のコンピューティングにもっと採用されている技術は何か?
VLSIシンポジウム2020では、「インテリジェントコンピューティング」に関するオンラインライブセッションが開催され、「10年後のインテリジェントコンピューティングにもっとも採用されていると想像される技術は何だと思うか」という3択の問いかけが視聴者に出された。その結果は、以下のような回答となった。
- 量子技術:55.6%
- 強誘電体(Fe)デバイス・スピン技術:37.0%
- 超伝導デバイス:7.4%
また、「インテリジェントコンピューティングの将来の用途としてもっとも大きな分野は何だと思うか?」という5択の問いについては以下のような回答となった。
- 機械の自律化(ロボット):42.9%
- ネットワーク(5G、6G、Wi-Fiなど):16.7%
- 仮想現実(VR)/拡張現実(AR):14.3%
- スマートシティ:14.3%
- スマートヘルスケア:11.9%
最多の回答は機械の自律化(Machine Autonomy)であったが、これはおそらく英語で「Autonomous Vehicle」とも「Robot Car」とも呼ばれる自動運転車を主に想定しての回答によるためだと思われる。