2020年6月15日~18日(米国時間)にかけて開催された「2020 Symposium on Technology and Circuits(VLSIシンポジウム2020)」では、さまざまなロジック回路に関する発表があった。また、ショートコース(他の学会ではチュートリアルと呼ばれている講義形式の発表)では、ヘテロジニアス化の方向性についてのアンケートなどが行われた。

DSPの性能向上をいかに実現するのか?

Qualcomm Technologiesと米University of Texasは共同で、電源電圧の瞬間的な低下の原因となるマイクロアーキテクチャレベルのイベントに基づいて、電圧低下を予測して緩和する仕組みを取り入れた7nmプロセスDSPを発表した。

予測には電源供給のネットワークモデルも組みわせて用いている。予測された電源電圧の瞬間的な変動に基づき、クロック周波数を能動的に制御することにより、従来比で10%高いクロック周波数で動作させること、もしくは、5%低い動作電圧で動作させることが可能になると報告した。

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    VDDに対するDSPの実効クロック周波数の測定値 (出所:VLSIシンポジウム予稿集)

サイドチャネルアタックに強い暗号プロセッサ

Intelは、サイドチャネルアタック(SCA)に強いRSA-4K暗号プロセッサを発表した。

14nm CMOSプロセスを用いて試作したというもの。論文のアプローチはポストRSA暗号システムに向けたものであり、量子コンピュータを用いた総当たり式の攻撃に対処するためのものである。公開鍵暗号化の方法として回路の難読化と乱数化を用いることで、SCAに強い回路でありながらエリア/性能オーバーヘッドを3%にとどめられるとしている。

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    サイドチャネルアタックに強い暗号プロセッサのチップ写真と電気特性 (出所:VLSIシンポジウム予稿集)

今後はロジックも積層の方向へ

VLSIシンポジウム2020では、「ロジックとメモリの将来に向けたスケーリング(比例縮小)」と「ヘテロジニアスインテグレーション(異種チップ集積) - 今までムーアの法則が行かなかったところへ敢えて行く」という対象的なタイトルの2件のショートコース(講義)も開催された。

講義自体はすべてオンデマンドで行われたが、質疑応答と討論はオンラインライブで行われた。

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    ショートコースのオンラインライブQ&Aセッションに登場した講演者たちと視聴者へのアンケート結果 (著者によるスクリーンショット)

半導体デバイスに搭載されるトランジスタ数を増やすために、長年のわたってプロセスの微細化とチップ面積の拡大で対処してきたが、微細化が徐々に困難になってきたため、今度は3次元構造にして積層することで、搭載トランジスタ数を増やす方向で研究開発が進んでいる。

特に、異種の半導体チップを集積することをヘテロジニアスインテグレーションと呼ぶ。また、異種チップを並べてインターポーザ(再配線層)を用いて結線する方式を2.5D集積と呼ぶのに対し、異種チップを縦方向に集積する方式は3D集積と呼ばれる。講義では、これらの実装技術について視聴者に、3D集積の今後についてのアンケートがライブで行われ、その場で集計結果が報告された。

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    2.5D集積と3D集積の概要 (著者によるスクリーンショット)

Q:HBMの積層数は今後、増加すると思うか?

  • 思う:90.9%
  • 思わない:9.1%

Q:2024年までにもっとも流行る3D技術はどれか?

  • パッケージに収納されたマルチチップモジュール:53.8%
  • ダイレベル積層:23.1%
  • ウェハレベル積層:0%
  • モノリシック3次元化:23.1%

Q:3次元集積は今後、AIアクセラレータとしてどう活用されるか?

  • メモリに搭載したアクセラレータ:25.0%
  • アクセラレータに搭載したメモリ:50.0%
  • アクセラレータに搭載したアクセラレータ:25.0%
  • 3D集積はAIアクセラレータには使われない:0%

高密度集積化技術は今後、3nmを超えてさらに極限まで微細化を進めて単一チップ内のトランジスタ搭載数を増加させる一方で、縦方向に同種(Homogeneous)あるいは異種(Heterogeneous)チップを積層してトランジスタ搭載数を増やす方向でも実用化が進んで行くというのが大半の業界関係者の見立てのようである。

VLSIシンポジウム2021は開催方法もヘテロジニアス化?

次回開催となるVLSIシンポジウム2021は、新型コロナウイルスの感染拡大が終息し、リアルな会議が開催可能になっていたならば、予定通り2021年6月13日~18日に京都で開催される予定であるが、バーチャルな形態を併用し、京都に来なくても世界中のどこからでも視聴できるリアル会議とバーチャル会議の「ヘテロジニアスインテグレーション」化することを検討しているという。

なお、今回のVLSIシンポジウム2020のオンデマンド講演のビデオ放映はいずれもが2020年8月31日に終了することになっている。

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  • VLSIシンポジウム2020
  • VLSIシンポジウム2021の開催概要(予定) (オープニングセッションをスクリーンショットしたもの)