航空機の分類とドローン(無人航空機)
世の中では、多種多様な航空機が飛行している。多種多様な航空機は、定義方法によってさまざまに分類される。例えば航空会社が運用する飛行機を搭載物によって分類すると、主に人間の場合は旅客機、主に荷物の場合は貨物機と分けられる。
ドローンの場合は、操縦者の有無が分類の基本的な定義となる。ドローンの最も単純で広い定義は、「操縦者が搭乗していない航空機」である。ドローンの別名が無人航空機やUAV(Unmanned Aerial Vehicle)などであるのは、この定義による。注意すべきはドローンは「操縦者の不在」を意味しないことだ。普通、ドローンには操縦者が存在する。多くの場合、地上でドローンを目視しながら操縦するか、あるいは地下でドローンのカメラがモニターする外界の映像を見ながら操縦する。
一方でドローンでは、飛行中に操縦者が存在しないことがある。これはドローンの多くが自分の位置を把握しながら所定の経路に沿って、あるいは目的地に向かって、自動的に飛行する機能「自律制御機能」を備えているからだ。自律制御機能を作動させて飛行するドローンは、操縦者を必要としない。もちろん、自律制御機能を備えていないドローンでは、常に操縦者がドローンを遠隔操縦する必要がある。
ドローンの種類と用途
「ドローン」と一口に言っても、様々な形態が存在する。有人航空機と同様に、ドローンにも「固定翼機」と「回転翼機」がある。ここで言う固定翼機とはいわゆる「飛行機」のことで、ジェット推進あるいはプロペラ推進によって固定翼(主翼)に揚力(上に持ち上げる力)を与え、機体を上昇させ、飛行する。そして回転翼機とは「ヘリコプター」のことで、内燃機関(エンジン)あるいは電気モーターによって翼を回転させることで翼に揚力を与え、機体を上昇させ、飛行する。
無人航空機の歴史を過去に遡ると、米国空軍における無人航空機「プレデター」の開発と実用化が、「ドローン」の名称を有名にした出来事と言える。航空兵器である「プレデター」が開発され、実際に運用され始めたのは1995年で、約20年も前のことだ。初めは偵察目的の航空機(無人偵察機)だったものの、その後にミサイルを装備した無人の攻撃機(無人戦闘機)に転用され、さらにはテロリストの幹部暗殺に運用されたことで「無人暗殺機」とも呼ばれるようになった。現在でも「ドローン」という言葉から、無人兵器を連想する方は少なくないだろう。
無人航空機とドローン
「ドローン」という言葉が有名になる以前から、無人飛行機と無人ヘリコプターは存在していた。これらの無人機の日本における代表的な用途には、趣味として航空機を操縦する「ラジコン」と、農業における空中からの薬剤散布、それから空中からの写真撮影などが存在する。これらのラジコンヘリやラジコン飛行機、農薬散布用無人ヘリコプターなどからはむしろ、「ドローン」という言葉はイメージしにくい。
「ドローン」という言葉から、最近になって特に知られるようになったのは「マルチコプター」と呼ばれる無人航空機である。マルチコプターとは「マルチローターヘリコプター」の略称で、回転翼を4個~8個と数多く備えた航空機のことである。最近では「ドローン」と言えば、この「マルチコプター」をイメージする向きが多い。それも産業用のマルチコプターよりは、ホビー用のマルチコプターだろう。
産業用(農薬散布用)無人ヘリコプターの例。ヤマハ発動機が開発し、市販している「FAZER」。出典:ヤマハ発動機 |
産業用マルチコプターの例。ミニサーベイヤーコンソーシアムが開発した「MS-06LA」 |
ホビー用マルチコプターの例。中国DJIの「Phantom 3」。出典:DJI |
無人ヘリコプターとマルチコプターの類似点と相違点
マルチコプターは、最近になって趣味、商業、産業とさまざまな分野への応用で急速に注目を集めている。マルチコプターが注目を集めている理由の1つは、ヘリコプターの備える特徴とほぼ同じである。すなわち離着陸のための滑走路が不要、空中で静止(ホバリング)できる、空中で上下前後左右に移動できる、といったものだ。
ただし、このような特徴だけでは、実績の豊富な無人ヘリコプターではなく、実績の少ないマルチコプターに注目が集まる理由の説明としては弱い。機能という側面からは、無人ヘリコプターとマルチコプターにさほどの違いはないとも言える。
ヘリコプターとマルチコプターで違うのは、飛行制御のメカニズムである。回転翼が揚力を得て飛ぶことには、両者の違いはない。違うのはその後である。上昇と下降、前進と後退、といった制御の方法が違う。
粗く言ってしまうと、ヘリコプターはきわめて複雑な部品ときわめて複雑な制御方法によって機体の運動を実現しているのに対し、マルチコプターは比較的単純な部品と比較的単純な制御方法によって機体を動かしている。具体的には、ヘリコプターは回転翼の回転速度が一定であり、回転翼の角度(羽根をひねる角度と回転面の角度)を動的に変えて飛行を制御する。マルチコプターは回転翼の角度を変えず、回転速度を変えることで飛行を制御する。
このため、同じ無人の回転翼機でも、マルチコプターは機構が簡素なので機体を軽く小さくしやすい。そして製造コストを低くしやすい。さらには操縦がしやすい(ただし操縦の訓練は必要)。こういったことが、マルチコプターに注目が集まる大きな理由だと言える。
(続く)