マルチコプターとヘリコプターの違い

前回では、ドローン(無人航空機)のなかでも最近になって注目されているのは、マルチコプター(マルチローターヘリコプター)であることを説明した。マルチコプターはヘリコプターと同様に、翼が回転する「回転翼機」に分類される。マルチコプターとヘリコプターの見かけの違いは、回転翼の数である。マルチコプターは回転翼が4個以上あり、ヘリコプターは回転翼が1個あるいは2個にとどまる。

回転翼の数のほかには、大きな違いが2つある。1つは、回転翼の制御機構である。マルチコプターは回転翼の回転速度を変えながら飛行する。羽根の角度は固定である。ヘリコプターは羽根の角度を変えながら飛行する。回転速度は一定である。制御機構は、ヘリコプターが圧倒的に複雑かつ高価になる。

もう1つの違いは、回転の発生機構である。無人ヘリコプターは内燃機関(エンジン)あるいは電気モーターによって回転を作る。マルチコプターは電気モーターによって回転を発生させる。今のところは、内燃機関によって回転を作るマルチコプターは存在しないようだ。

ヘリコプターとマルチコプターの違い

無人回転翼機のエンジン機とモーター機

マルチコプターの回転翼と回転方向

マルチコプターを回転翼(ローター)の数で分類すると、回転翼を4個備えるクアドコプター、回転翼を6個備えるヘキサコプター、回転翼を8個備えるオクタコプターがある。これらのマルチコプターの飛行制御は基本的には同じであるものの、回転翼が多いほど制御は複雑になる。あるいは、よりきめ細かな制御が可能になる。

ここでは説明を簡素にするため、4個の回転翼(ローター)を備えたクアドコプターを例に、回転の制御と飛行の動作の関係を説明しよう。

クアドコプターでは、正方形の各頂点に回転の中心軸がくるように、ローターを配置する。機体のフレームは、正方形の対角線を構成しており、対角線状のフレームの先端にローターが存在する、という位置関係になる。フレームの先端には電気モーターが取り付けてあり、電気モーターの回転軸がローターの羽根の回転軸と直結してある。いわゆるダイレクト・ドライブ(直接駆動)方式になる。言い換えると、1個のローターごとに1個の電気モーターがある。クアドコプターでは4個の電気モーターで4個の羽根を回転させる。

ローターの回転方向は決まっている。各ローターを区別するため、右回りに「A」(前)、「B」(右)、「C」(後)、「D」(左)と記号を付けることにする。AとCが対角線、BとDが対角線を形成する。ここで回転方向には右回りと左回りがあるのだが、隣接するローターは回転方向が逆になる。例えば「A」が左回りのときは、「B」は右回りになる。逆方向に回転させるのは、機体の運動方向(回転の反作用によって機体には逆方向の運動が生じる)を逆方向にして打ち消すためである。

マルチコプターの回転翼が回転する方向。クアドコプターの場合。

マルチコプターの上昇と下降

クアドコプターの飛行動作は、大別すると以下の3つに分けられる。「上昇と下降」、「前後左右への横移動」、「回転」である。クアドコプターの機体には常に、以下のようないくつもの力が加わっている。これらの力のバランスを変えることで、機体を運動させる。機体にはまず、当然ながら「重力」が加わっている。これは下向き、垂直方向の力である。それから機体に対して垂直な上向きの方向に「揚力」と「推力」が加わっている。そして機体が運動しているときは、運動と反対の方向に「抗力」(運動に抗う力)が働く。

機体が空中で水平に静止している状態を考えよう。複雑さを避けるため、風や気流などの外部からの入力はないものとする(無風状態)。この状態では、「揚力」と「推力」の合計が「重力」と吊り合うことによって機体が水平に静止している。また4個の回転翼が発生する上向きの力(揚力と推力の合計)は均等で、なおかつ一定である。

静止状態(ホバリング状態)から、4個の回転翼すべての回転速度を同じように上げると、揚力と推力の合計が重力を超える。このため、機体が上昇する。回転速度が上がるにつれて、上昇速度が高くなる。また静止状態から4個の回転翼すべての回転速度を同じように下げると、揚力と推力の合計が重力よりも小さくなる。このため、機体が下降する。

ここで注意すべきなのは、回転速度の変化量に対して上昇速度はゆっくりであり、下降速度は急であることだ。機体には重力という下向きの力が常に加わってるので、回転速度の減少に対して下降は急激になりやすい。

マルチコプターの飛行動作(上昇と下降)

マルチコプターの横移動(水平移動)と回転(水平回転)

マルチコプターの飛行動作には、どの方向にも移動が可能である、という特徴がある。前後左右はもちろんのこと、斜め上に移動したり、斜め下に移動したりすることもできる。ここでは横方向の移動を考える。

静止状態から、回転翼「A」と「B」の回転速度を同じように上げる。すると機体の「A」と「B」の側が持ち上がり、機体が斜め上の方向に傾く。すると機体に対して垂直かつ上向きに働く力の方向も、斜め上になる。このため水平方向の力が発生し、機体は横方向に移動する。

ただしこの状態だと、重力に拮抗する力(鉛直かつ上向きの力)が減少する。実際には、機体の下降を防ぐために回転翼「C」と「D」の回転速度を少し上げるといった調整が加わる。

マルチコプターの飛行動作(横移動)

マルチコプターの飛行動作のもう1つの特徴に「回転」(水平回転)がある。対角線上に位置する一対の回転翼の回転速度を高めに、もう一対の回転翼の回転速度を低めにすると、機体が回転する。例えば回転翼「B」と「D」の回転速度を高くすると、機体は左回りに回転する。

マルチコプターの飛行動作(回転)

(続く)