The Hollywood Reporterが8月9日に「A Disney Sale to Apple? Don’t Count It Out This Time」(DisneyがAppleに売却される?今回は単なる噂と思うな)という記事を公開した。
内容はタイトルの通りだ。「複数の情報筋」からの情報として、DisneyとAppleの取り引きがこれまでになく現実味を帯びていると報じている。過去にもDisneyとAppleの合併が何度か取り上げられてきたが、「たら・れば」の憶測に過ぎなかった。今回も実現の可能性は「非常に低い」と見られている。しかし、この10年の間に状況が大きく変わったのも事実であり、今回は信頼できるAppleウォッチャーやアナリストの多くが可能性を考察しているという点でこれまでとは異なる。
AppleとDisneyには長年にわたる「特別な関係」がある。スティーブ・ジョブズ氏が設立したPixarを2006年にDisneyが買収し、2006年から2011年に亡くなるまでジョブズ氏がDisneyの取締役を務めていた。また、ジョブズ氏が亡くなった後にDisneyのCEOのボブ・アイガー氏がAppleの取締役に加わった。アイガー氏は自身の回想録の中で、ジョブズ氏がAppleの指揮を執り続けていたらAppleとDisneyが合併していた可能性を認めている。
過去にAppleとDisneyの合併の噂に対して「あり得ない」と見なされてきた理由は2つある。1つは、Disneyはともかく、Appleに合併する理由がないこと。ただ、これに関しては、今は「ある」。2019年にAppleが「Apple TV+」を開始し、オリジナル映像作品を制作し始めている。
もう1つは、Appleが事業規模を拡大するための安易な大型企業買収を否定していること。同社は企業買収を必要とする人材や技術を取得するための手段と見なしており、過去最大の買収は2014年のBeats(30億ドル)である(Disneyの8月17日時点の時価総額は1570億ドル)。
加えて、Disneyと合併するにはAppleがあまり強大になり過ぎている。バイデン政権は巨大テック企業への力の集中に警戒感を強めており、AppleとDisneyは現在困難に直面しているMicrosoftによるActivision Blizzard買収をはるかに上回る難しい合併になる。
激変するハリウッドの勢力図
The Hollywood Reporterの記事の本質は、「AppleによるDisney買収の可能性」ではなく「Disneyの資産売却の可能性」だ。Disneyは今、苦境に立たされている。
1995年に3大TVネットワークの1つであるABCを買収、2019年に21st Century Foxを買収したが、地上波放送やケーブルTVからの視聴者離れによる収入減で深刻な打撃を受けている。一方で「Disney Plus」を立ち上げ、Huluを買収(2019年)するなどストリーミングサービスに投資しているものの、ストリーミング戦争で地歩を固めるための損失拡大に投資家から不満の声が上がり始めた。新たな成長戦略を組み立てるために、2022年にボブ・チャペック氏がCEOを退任し、アイガー氏が復帰した。
アイガー氏はDisneyが事業を拡大し過ぎたことを認め、リニアTVについて「(Disneyの)核心ではない」と指摘。今年2月に7000人の人員削減と55億ドル規模のコスト節減策を含む大規模なリストラ計画を発表した。
Hollywood Reporterの記事で最も重要な部分は、スタジオ産業の将来に関する匿名の"ハリウッドのエグゼクティブ"の予測だ。「最終的には3つか4つのプラットフォームに統合され、それ以外は空洞化し、買収されるだろう」「Apple、Amazon、Netflix、そしてもう1つ。NBC Universal、Warners、Paramountを合わせれば、おそらく生き残ることができるだろう」と、スタジオの群れが劇的に減少していく未来を予想している。
Disneyは資産の売り手に回る可能性が高く、ベン・トンプソン氏は「Disney’s Taylor Swift Era」(Disneyのテイラー・スウィフト時代)という記事で、ブランド力、テーマパークという強みをう生かして自身のコンテンツに命を吹き込む、Disneyの原点に基づいて事業を再構築すると見る。
「たら・れば」レベルの可能性の話をするなら、AppleがDisneyの知的財産、顧客体験(テーマパーク、クルーズ)などを自社のエコシステムに統合することで、プラットフォームに利益をもたらす好循環を形成できると考えたら、それはDisneyを買収する十分な理由になる。
10年前を振り返ると、Appleが映画を配給してアカデミー賞で作品賞を獲る未来など誰も予想していなかったのだ。絶対にないとは言えない。両社はどちらも家族向けの象徴的なブランドであり、文化的影響力が大きく、業界をリードするデザインとエンジニアリングで定評がある。ディズニーランドのアトラクションを支えるImagineeringから、Industrial Light & MagicのVFXアーティスト、Pixarのアニメーターに至るまで、Disneyの多くはAppleが掲げるテクノロジーとリベラルアーツの交差点に位置している。Appleがもし大手エンターテインメント/メディア企業を買収するとしたら、Disneyが最もフィットする。
しかし、今のところAppleとDisneyのどちらにもそのような関心や意欲があるとは思えない。