この連載では、ストレージの基礎的な解説をはじめ、実際のIT現場で役立つ、押さえておくべき実践のポイントを近年のストレージ動向なども交えながら解説します。IT領域の編集部1年生の私がさまざまな専門家のもとで勉強します。みなさんも一緒に学んでいきましょう。

連載の第4回目となる今回は、前回に引き続きピュア・ストレージ・ジャパンの岩本知博氏にHDD(ハード・ディスク・ドライブ)とSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)の違いをさらに詳しく解説していただきました。

  • ピュア・ストレージ・ジャパン プリンシパル・システムズ・エンジニア 岩本知博氏

--HDDとSSDではどちらのシェアが高いのですか

岩本氏:前回の記事で、HDDは大きくSASとSATA(NL-SAS:ニアライン-SAS)の2種類に分けられるとお伝えしました。SATAはSASに比べてデータの読み書きが遅く、性能が低いですが安価です。SSDが世に出始めた当時は高価だったため、一部の企業にしか導入されていませんでしたが、徐々にSSDの価格が下がったことによりシェアを伸ばしています。

2019年ころ、SSDはSASとSATAを含むHDDの売り上げと出荷数を上回りました。前述の特性から、SSDはSAS HDDの代替となってきたと言えます。しかし、SATAやNL-SASが使われる種類のデータは今後も容量が増えていくと考えられています。代表的なのが非構造化データやアーカイブだと思います。肥大化するこれらのデータを可能な限り安価に格納するために、SATA(NL-SAS)の需要は今後も高まっていくと予想されているのです。

しかし本当にSATA(NL-SAS)を使いますか?容量にもよりますが、SATAが壊れるとリビルド(データ復旧)におよそ1週間を要します。その1週間の間に次のドライブが壊れてしまう可能性もありますね。SSDであれば数時間から長くても1日程度でリビルドが完了します。たしかにHDDはギガバイト単価が安いですが、故障率が高くリビルドに時間がかかるという欠点もあります。

新たに採用するストレージを選択する際に、故障しやすく復旧に時間がかかるHDDと、3から4倍程度高価なSSDのどちらを選ぶのかが現在のストレージエンジニアの悩みどころではないでしょうか。

データ復旧はHDD1本あたりの容量が大きいほど時間がかかります。例えば1本あたり14テラバイトのSATAが壊れた場合に復旧するのは非常に大変なので、7テラバイトや4テラバイトなどの小さなSATAに分けて構築すれば良いのですが、そうすると大きなスペースが必要になります。SDGsを重要視する企業が増えている現代では、スペースや電力消費量の観点からSSDを採用する場面も増えているようです。

岩本氏:前回の記事ではハイブリッド・ストレージやSASとSSDを比較しながら歴史を振り返りました。ハイブリッド・ストレージやSASと同程度の価格でオールフラッシュのSSDを提供できるようになり、SSDがSASの代替となった現在では、まだDC(データセンター)に残るSATAにどう対応して、オールフラッシュDCを実現していくかに議論が変わってきていると感じます。

SASやハイブリッド・ストレージとオールフラッシュのSSDを同程度の価格で提供できるようになったのは、データ削減の技術によって少ない容量のSSDでも対応できるようになったためです。ある意味でデータ削減率頼りだったわけです。

そのため、データベースやデスクトップ仮想化などの削減しやすいデータであればハイブリッド・ストレージよりも壊れにくく高性能なSSDを同程度の価格で提供できたのですが、動画やファイルサーバなどデータを削減しづらい領域には貢献できていませんでした。

しかし現在ではストレージベンダー各社は、ギガバイト単価の安いストレージの開発と提供を進めています。これまでHDDとしてSATAを採用してきた企業に対して、どのようにSSDの良さを伝えられるかが各ベンダーの腕の見せ所ではないでしょうか。

当社でも低価格なオールフラッシュのSSDを2020年に販売開始したのですが、この製品はSASと同じ容量でも低価格で提供できるようになりました。SASよりも低価格で壊れにくいので、多くの企業が動画やファイルサーバなど削減しづらいデータもSSDに格納できるようになったのです。

一方で、SATAはSSDよりも安いので価格面での比較では勝てないのですが、データ削減率の高さやTCO(Total Cost of Ownership)の低さ、リビルド期間の短さといった利点があります。これらの技術力によって、SATAの導入を検討している企業にもSSDのメリットを伝えていきたいですね。