この連載では、ストレージの基礎的な解説をはじめ、実際のIT現場で役立つ、押さえておくべき実践のポイントを近年のストレージ動向なども交えながら解説します。IT領域の編集部1年生の私がさまざまな専門家のもとで勉強します。みなさんも一緒に学んでいきましょう。
連載の第6回目となる今回は、大容量ストレージ・インフラストラクチャを手掛ける日本シーゲイトで営業本部長を務める安河内智氏に、ストレージの中身を詳しく教わりました。
--ストレージはどのような部品で構成されていますか
安河内氏:まずはHDDから説明します。HDDは基本的に、プラッタと呼ばれる円盤状のディスクにデータを記録しています。磁気で0と1の情報を書き込んでいるんですね。プラッタを回すためのスピンドルモーターが中心に設置されています。
プラッタは何層か重なっているのですが、それぞれのプラッタにはデータを書き込むためのアームが伸びていて、根元に付いているアクチュエータと呼ばれる部品によって制御されています。アームの先端にはヘッドがあり、このヘッドがデータを読み書きしています。
歴史的に、もともとHDDは非常に大きかったのですが徐々に性能が求められるようになり、大きなHDDよりも早く回転できる小さなHDDが開発されるようになってきました。ディスクを小さくすればするほど、回転数は多くなりますよね。現在は2.5インチから3.5インチくらいのサイズが主流になりました。
安河内氏:SSDはHDDと違って、物理的に稼働する部品がありません。データの読み書きを制御する頭脳のようなコントローラと、実際にデータを保存するNANDメモリで構成されています。NANDメモリはトランジスタで電気的にデータを保存しています。
その間に、一時的に効率よくデータを保存するための揮発性のメモリであるDRAMというキャッシュがあります。SSDはHDDと比較して可動部が無いので、データを書き込む場所を物理的に探しに行く必要がありません。そのため、レスポンスの性能が求められる場面にはSSDの方が適しています。
意外かもしれませんが、ハイパースケーラと呼ばれるような大きなデータセンターでは、使われているデバイスの約90%がHDDです。クラウドサービスは応答が早いのでSSDが多く使われていると思われがちなのですが、実はHDDが大部分を占めています。コンピュートと呼ばれる、一部の迅速な応答に関わる部分だけSSDを利用して、データの保存自体はHDDに書き込んでいます。
--それぞれ、どのようなメリットとデメリットがありますか
安河内氏:HDDのメリットは大容量のデータを安価に保存できる点にあります。エンジニアが限られた予算の中で多くのデータを保存する際には、HDDを基本にしてストレージを組んだ方が、企業またはお客様先には喜ばれるのではないでしょうか。ストレージを購入する目的は「データを貯める」ことにありますので、HDDを基本に構成することで一定の予算で大容量のデータを保存できます。
SSDは反対に、高性能でデータの読み書きが早いメリットがあります。いわゆるミッションクリティカルと言われるような正確かつ迅速なトランザクションが行われるアプリケーションに向いています。例えば証券会社の取引のような、早いレスポンスが求められる場面はSSDを基本にした構成の方が良いでしょう。
歴史を振り返ると、SSDはHDDよりも高性能なストレージが必要だったために作られるようになりました。HDDは物理的に稼働する部品がありますので、ここがボトルネックになり性能が上がりづらくなったのです。こうした課題を解決するためにSSDが作られたので、大容量のデータを保存することは主目的ではありませんでした。
一方で、HDDは物理的に駆動しますので、ランダムアクセスと呼ばれる、ざまざまなデータに飛び飛びにアクセスする処理が苦手です。メールサーバのように複数人が同時にパケットをとばすような場合ですね。
また、SSDは高単価ですので、TCO(Total Cost of Ownership)が高額になるデメリットがあります。特に近年の半導体不足の影響も受けやすく、同じ製品でも価格が上下します。決められた予算の中で一定のデータ保存量を確保したいのに、急にSSDが高騰してしまうリスクがあるのです。私たちはよくSSDを「生もの」に例えます。
--どのような観点でストレージを選んだら良いですか
安河内氏:SSDとHDDのどちらが絶対に優れているというものではなく、目的や用途に応じて使い分けるのが良いと思います。現実的には、どちらかだけを使うのではなくどちらも使ってストレージを構成するのが良いでしょう。
高頻度でアクセスされるデータを「ホットデータ」、あまりアクセスはされないけれど保存しておきたいデータを「コールドデータ」と呼びます。ホットデータをSSDに保存し、コールドデータをHDDに保存するように組み立てられれば、SSDとHDDの良い所取りができるはずです。
一番大切なのは、どのようなデータを蓄積するのか、そしてそのデータをどのように使いたいのかを明確にすることです。
企業はデータをためるだけではなく、有効活用して最終的にはマネタイズする必要がありますね。新しくストレージエンジニアになった方でには、どのようなデータをどう活用するのかに応じてSSDとHDDを上手に組み合わせられるようになってほしいです。
IDCの調査によると、2026年までに世界中で生成されるデータの量は221ゼタバイトにもなると予想されています。特に、機械学習やAI(Artificial Intelligence:人工知能)の領域でこれらのデータが利活用されるようになるでしょう。
最後に、当社はHDDを手掛けているので、HDDのトレンドについてお伝えします。実はHDDの出荷量は増加していて、2020年には業界として初めて年間出荷量が1ゼタバイトを超えました。われわれの業界的には大きなニュースだったのを覚えています。
また当社としても、これまでにデータ・ストレージ企業として初めて3ゼタバイトのHDD容量の出荷を達成しました。市場全体が成長している要因は、大容量のHDDの需要が高まっているからだと思います。