最近の報道で目立ったのが、IntelとSamsungを始めとする半導体企業による設備投資の発表である。一昨年の半導体供給不足と米中の半導体をめぐる技術覇権問題がこの背景にあるが、半導体供給のサプライチェーンを確保しようと巨額の補助金を提示して企業を呼び込もうとする各国政府と、その補助金を利用して巨大化する設備投資に対応しようとする半導体企業の思惑が一致した結果である。

巨額設備投資を決定し、ファウンドリ企業へと舵を切るIntel

最近Intelは立て続けに下記のような大型投資計画を発表した。

  • Intelとドイツ連邦政府は、独ザクセン・アンハルト州の州都マクデブルクに最先端ウェハ工場を建設する趣意書に署名。2つの巨大ファブにかかる設備投資は独政府からの支援を含め最大300億ユーロにのぼる予定。このキャパシティはIntelの自社製品のみならず、IFS(Intel Foundry Service)の顧客にも生産能力が提供される予定である。この発表の式典にはドイツ連邦のショルツ首相自ら参加した。
  • イスラエルのネタニヤフ首相は、Intelがイスラエルに250億ドルを投じて新たな半導体工場を建設することで同国財務省と合意に達したと発表。

両方とも巨額補助金を提供する国の首相が発表に直接関わるという、異例の取り扱いで、各国政府が半導体サプライチェーンの確保について安全保障上の重要性を認めている証拠だ。

それにしても、この投資額の巨大さには驚かされる。ここ数年IntelはCPU製品分野ではAMDの激しい追い上げをくって大きくシェアを落としているし、最先端の微細加工技術ではTSMCの後塵を拝している。そうした状況でもCEOのPat Gelsingerが2021年の就任以来押し進めているいる「IDM2.0」戦略は粛々と進行している印象だ。

また、Intelは最近の投資家向けの説明会で、社内ファウンドリモデルについて言及し、Intelの自社製品製造については、他のファウンドリ顧客と同じ扱いにすると発表した。これにより2025年までに80-100億ドルのコスト削減を実現するという。私は半導体ウェハのビジネスの経験から、Intelはサーバ製品などの高付加価値製品による利益率が非常に高いかわりに、ウェハをはじめとする調達材料については非常に高品質なものを求めるので全体的な製造コストも同様に高いという印象を持っているので、この発表には大きく興味を惹かれた。

社内ファウンドリに製造を委託する場合、事業部単位のP&Lをはっきりさせることが前提となるので、CPU製品市場でAMDとしのぎを削る関係にあるIntelはAMDと価格で競争する事態は避けたいだろう。結果的に今後の製品ロードマップ強化が必須となってくる。英語の表現に「Burn the Boats」というのがあって、これは「後には引き返せない状況を作る」とか「背水の陣を敷く」などと訳されるが、IDM2.0戦略に向かってまっすぐに進む現在のIntelには「救命ボートなし」の大きな決意を感じる。

  • 最新世代のXeonとなる第4世代Xeonスケーラブルプロセッサのウェハ

    最新世代のXeonとなる第4世代Xeonスケーラブルプロセッサのウェハ。サーバ向けということで高品質なものを求めているものと思われる (編集部撮影)

中国での先端メモリ生産をあきらめ、自国内に巨額投資する韓国勢

シリコンサイクルの影響をもろに受けるメモリビジネスで最終赤字を計上したSamsungとSK hynixは、先端製品の主力工場を中国に展開しているという大きな問題を抱えている。

米国からの製造装置の輸出規制のために、今後の先端品製造のめどが立たないという状態で、米中対立のあおりをまともにくってしまった状況だ。輸出大国の韓国で20%という突出した割合を占める半導体ビジネスの浮沈は、韓国全体の国家問題だ。最近突然決定された中国政府によるMicron製品の調達禁止措置で、SamsungとSK hynixが中国で生産するメモリ製品の中国市場での単価下落が止まり、両社の中国ビジネスはプラスの方向に向かう予想だが、これはあくまでも短期的なものだ。

両社は今後、新たな先端品の中国工場での開発・生産をあきらめ、大部分を韓国内に集約する方向性を打ち出した。特に国家経済を背負って立つ存在のSamsungにとっては、先端メモリ市場でのトップポジションと、シリコンサイクルに対する耐性が強いシステムLSIやTSMCの後塵を拝するファウンドリビジネスの強化はどうしても譲れない分野だ。

こうした状況で思い切った決定を下したのが韓国政府だ。下記のような骨子である。

  • 韓国を従来の「メモリ強国」から「総合半導体強国」へ変革をはかる。
  • 現在3%のシステム半導体の世界シェアを2030年に10%まで高める。
  • パワー、車載、AIの3分野の次世代半導体の開発にリソースを集中する。
  • 政府支援としてパワー半導体に4500億ウォン、車載に5000億ウォン、AIには1兆2500億ウォンを計画に盛り込んだ。
  • 半導体投資の巨大化で政府の補助金が必須になっている

    半導体投資の巨大化で政府の補助金が必須になっている

韓国のユン・ソンニョル大統領は、半導体を「国家の核心的な産業」と指定し、これらの研究開発・設備投資に向けての政府補助金に加えて、将来の半導体産業を支える人材育成に向けての大きな目標も掲げた。向こう10年間で15万人の人材を育成するという。

韓国政府のこれらの目標は極めて具体的で、その方策についてのロードマップも同時進行で進められているという。

巨大半導体ブランドの今後の動きは各国政府が展開する半導体サプライチェーン確保の政策に大きく左右される状況が引き続き展開される状況になっている。

日本政府も日本発の先端プロセスファウンドリ企業ラピダス(Rapidus)の創立に大きな財政支援を表明しているが、その方向性と具体策についてはかなり心もとない印象を持つ。