前回は人工衛星画像データから何が分かるのか?ということで可視光の光学衛星画像について紹介した。

今回は、その後編としてAI・コンピュータビジョンを用いた光学衛星画像の分析手法や光学衛星画像を分析したビジネス活用事例、可視光衛星画像以外のそのほかの衛星画像データについて紹介する。

AI・コンピュータビジョンを用いた光学衛星画像の分析手法

可視光の光学衛星画像の分析手法は、われわれが普段目にしている写真や画像の分析手法と大きく変わらない。

最近は特に、画像処理系のAI・コンピュータビジョンの分析手法を用いるケースが多い。利用用途は大きく分けると「物体の検知」と「画像の分類」の2つがあり、それぞれについて説明する。

物体の検知

物体の検知(Object Detection)は、主に地球を観測した広大な画像の中から特定の物体を探して、検知するという分析方法だ。

AIモデルに見つけたい特定の物体を学習させ、実際の衛星画像から特定の物体を検知する。こういった物体の検知を人間がやろうとしたら膨大な時間が必要だ。

広大な地表の大量画像から、「特定の車両や船舶を探して数える」というような単純作業はAIが最も得意とすることで、圧倒的な精度で解析、かつ高速に処理できる。

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    衛星画像から「車」のみをAIに機械学習させる過程で生成される「車」のイメージ。特に駐車場で止まっている車を検知するために学習されたモデルのため、それぞれの「車」に隣り合った車が薄く写っていることが確認できる

画像の分類

画像の分類(Classification / Segmentation)は、画像中のピクセルを、特定の種類(クラス)に仕分ける分析手法で、学習した画像中にある森や川などの面の大きさや形などを分類することが可能だ。面データが取れるので大きさや面積を測定することができ、さらに別時間軸の画像と比較することで変化抽出が可能になる。

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    東京周辺の衛星画像で行った土地利用アルゴリズムによる解析結果の一例。水、森、芝生、道、建物、駐車場など分類できていることがわかる(提供:Orbital Insight)

光学衛星画像を分析したビジネス活用事例

光学衛星画像のビジネス活用において、「画像分解能」と「時間分解能」という衛星画像そのものの特徴と「分析手法」をどう掛け合わせるかが重要である。

ビジネス課題が何なのか、もしくは、どのような知見を得たいのかによって、その掛け合わせ方が変わってくるからだ。

例えば「高解像度」×「中度の時間分解能」×「物体検知」の組み合わせは、毎日観測しなくてもよいが、長期的にかつ高解像度でしか観測できない特定の物体を検出したい時に使われる。つまり、マクロで特定の物体をカウントし、長期的なトレンドを把握したい時である。

代表的な例として、Orbital Insightがアジア開発銀行と行った取り組みを紹介する。アジア開発銀行は、発展途上国における開発業務が、その地域の経済活動にどのような成果をもたらしたかを迅速に把握したいという要望を持っていた。

そこで、衛星画像データから該当地域全体の車両を検知し、車両台数の変化の推移を計測することで、その地域の経済活動を数年単位で数値化することができた。

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    セブ空港周辺で検出し500mx500mタイルあたりの検出車両台数を2014年(左)と2019年(右)で比較。(出典:[アジア開発銀行「アジア開発銀行の概要と車両データの活用例」](https://www.adb.org/sites/default/files/page/505241/adb-ce-sawada-us-embassy-tokyo-slides-2021.pdf)

「中解像度」×「高時間分解能」×「画像分類」(変化抽出)の組み合わせは、特定のモノを見つけるのではなく、大まかでも良いので、毎日一定の場所や地域をモニタリングする必要がある場合に利用されている。

海外の建設企業の例を紹介しよう。この建設企業は「中解像度」×「高時間分解能」×「画像分類」(変化抽出)を掛け合わせて、衛星画像データ上で、某海外都市の全体の開発状況を毎日モリタリングした。

具体的には、人工建造物全体の面積を数値化し、それを時系列データとして利用することで、都市開発や街づくりのトレンドを把握しており、さらにそこから建設機械の需要予測を立てていた。

そのほかの衛星画像データ(可視光衛星画像以外)

可視できない光を観測する近赤外・遠赤外線衛星画像や、マイクロ波センサなどを活用した衛星画像もビジネス活用が進んでいる。

近赤外線による衛星画像は、特殊な処理を行うことで正規化植生指数(NDVI:Normalized Difference Vegetation Index)など植生状態の分析などに利用されるケースがある。一方、遠赤外線による衛星画像は人間の目には見えない熱の検知などを行うことができる。

また、夜間の光を観測する人工衛星も存在する。これらの衛星画像は、やや可視光に比べ解像度が劣ってしまうのが弱点だが、人間の目で画像を見ただけでは把握できないことを検知するため、例えば植生の状態、海面の温度、夜間光を使った都市の発展度合いの観測などに用いられている。

マイクロ波センサを使った観測衛星は、SAR(合成開口レーダー)衛星がその代表である。太陽光の反射を観測するのではなく、人工衛星自体から発生させたマイクロ波の地表からの反射を観測するため、太陽の光がない夜間でも観測できる。

さらに、マイクロ波は雲を透過できることから、可視光衛星画像の最大の敵である雲の下を観測可能な点が最大のメリットだ。また、光学センサのように解像度の概念はなく、マイクロ波の反射具合で理論上センチ単位での計測も可能だ。

マイクロ波のほんのわずかな変化も捉えることができるので、例えば橋やダムなどのインフラのちょっとした傾きや地盤沈下なども測定可能で、Displacement分析と言われる劣化/変化分析などにも利用されている。例えば、SAR衛星を運用するASTERRAはLバンドマイクロ波データを使用した漏水検知サービスなどを行なっている。

このように、さまざまなことを明らかにできる可能性を秘めているSAR衛星は、比較的高額で、台数も可視光人工衛星ほど多くないことから、時間分解能も低い。多くのビジネス活用の場では希望している場所を希望している頻度で撮像できているケースは現状では多くない。

さらに、SAR衛星画像も厳密にはマイクロ波の反射なので、専門家が特別な処理をしない限り、見慣れない人にはそもそも何が写っているのかを理解するのが難しい。しかし、SAR衛星の技術進歩は目覚ましく、小型化や低コスト化も進んでいるため、上記のような課題は近いうちになくなるだろう。