前回は衛星画像を主に紹介してきたが、「地球上で何が起こっているかを観測して理解する」という目的であれば、衛星画像以外でも可能である。

そして、それらの地理空間データは近年より観測・取得可能となっている。むしろ、それぞれのデータには衛星画像にはないメリット・デメリットがあり、目的を達成するためにその掛け合わせも重要だ。ここでは特に衛星画像と掛け合わせて解析する地理空間データの一部を紹介する。

1.集計・匿名化されたGPSデータについて

われわれが持つスマートフォンから発せられる位置情報データ(GPS)も地理空間データの1つである。衛星画像では捉えきれない「人」の動きがわかり、時間分解能もほぼ数秒単位で観測できるので、移動経路などの「フロー」データまでも取得できるのだ。

GPSデータの弱点は、電波が届かない場所や人がそもそもいない場所など、GPSデータが取得できない所では観測できないことだ。しかし、衛星画像ではわからない人の流れがわかるため、衛星画像データと掛け合わせて、人流分析などに活用されている。

2.コネクテッド・カー含むIoTデータについて

匿名化されたGPSデータ同様、近年、コネクテッド・カーから取得できる位置情報も市場に多く登場した。

IoTデータはスマートフォンのGPSデータと同じく、物や乗り物の位置情報とその日付時刻、さらに付随する種別などのメタデータを含んでいる。人流データ同様に詳細な位置情報とその動きを観測できることから、移動データなどを使ったサプラチェーン分析などに利用されている。

3.船舶位置情報(AIS: Automatic Identification System)について

AISは航海中、すべての船舶から発せられる位置情報データのこと。時間分解能も数分単位で、位置だけでなく船舶の種類などの情報も含む。

AISデータは、恣意的に隠さない限り、基本的にすべての船舶から位置情報を取得できる。海運や海上サプライチェーン分析などに利用されている。

4.可視光学衛星画像とその他の地理空間データをかけ合わせた分析で何がわかるのか?

衛星画像データは、基本的にあくまでも「写真」なのでその瞬間の状態しかわからず、地表の物体のダイナミックな動きや流れを取得することは不得意だ。また、高解像度とはいえピクセル分解能も数十メートルからなので人間の特定や、それ以上の情報(例えばそれに付帯する種別などのメタ情報)は取得できない。

そこで、衛星画像データにGPSデータなどその他の地理空間データを掛け合わせることで、衛星画像だけでは見えなかったものがよりミクロに、包括的に、そしてダイナミックに見えるようになることがある。下記にOrbital Insightで取り組んでいる2つの例を紹介する。

まずは「衛星画像」と「匿名化されたGPSデータ」の掛け合わせだ。スマートフォンの位置情報データで「人」の動きを分析できるので、衛星画像で観測できた事象に対して人の動きや、それぞれの関係性を追加して見ることができる。

Orbital Insightがユニリーバと行っている取り組みは、GPSデータを使い東南アジアのパーム農園からミルまでの人の動き(サプライチェーン)を可視化し、そしてその農園の周辺が時系列で森林にどのような影響を与えているかなどの分析を衛星画像で行うことで、ユニリーバはサプライチェーンの末端(農園や畑)の実態を把握する取り組みである。

パーム油以外でも、大豆・チョコレート・ゴム・綿花など昨今注目を浴びている「環境」と「サプライチェーン」の可視化が、2つのデータソースの掛け合わせで可能になる。

また、「衛星画像」と「船舶位置情報(AIS)」データの掛け合わせから、今までわからなかった事実を把握できる。AISデータは基本的に航海しているすべての船舶が発信する義務があるが、中には密漁船など、何らかの理由で恣意的にAISを発信せずに航海している船などもある。

そこで、衛星画像を使い船舶検知を掛け合わせる。衛星画像から船を検知するだけだと大量の民間船舶が含まれてしまうため、衛星画像が撮られた同時刻のAISデータを重ね合わせ、衛星画像上の実際に観測された船舶とAISからの船舶の位置の「差分」を浮き上がらせる。

その差分が「AISデータ上では存在せず衛星画像では確認できた船」であり、このようにしていわゆる不審船の特定が可能になる。

  • 衛星データの解析が生み出す新しいビジネスチャンス 第3回

    海上で検知出来たAIS信号と衛星画像から確認出来た船舶の差分を可視化したもの。画像左に見える線がAIS信号、右にある数字がAIS信号を確認出来ない船の数とその位置を表している。(出典:Orbital Insight)

5.衛星画像の特徴を理解した上でビジネス活用を考える重要性

以上が代表的な人工衛星画像の種類とその特徴、そしてそのほかの地理空間データとの掛け合わせ事例である。

本質的な課題解決には、人工衛星画像データのそれぞれの特徴とできることできないことを理解し、足りないところをその他の地理空間情報データで補うことが重要だ。

次回は、1960年代からあった人工衛星画像がなぜ「今」になって活用・分析できるようになったのか。なぜ注目されているのか。よりビジネスニーズにあった活用方法と今後の展望などを説明する。