二重冷却による優れた熱特性
CSD885xパワー・ブロックにはDualCoolパッケージが付属します。これにより、パッケージ上面でもヒートシンクによる基板の放熱を行い、優れた熱特性が得られ、5mm×6mmパッケージで消費できる電力量が増加します。
データシートの仕様にあるように、このパワー・ブロックの接合部から底面へのケース熱抵抗は1.1℃/W、接合部から上面へのケース熱抵抗は2.1℃/Wです。冷却の最適化は、パワー・ブロックのケース下面~PCB間で行うことも、ケース上面~ヒートシンク間で行うこともできます。
図6は、上側共通ヒートシンク(27mm×27mm×23mm)を、1kW、36Vの3相インバータPCB(36mm×50mm)上の3つの「CSD88599Q5DC」二重冷却60Vパワー・ブロックとともに、エアフローなしでテストした結果です。テスト時は、ヒートシンクとパワー・ブロックのケース上面の間に、電気的に絶縁された熱インピーダンスの低い(Rθ < 0.5℃/W)サーマル・インタフェースが使用されています。
図6では、PCB上で(パワー・ブロックのケース下面の下)測定された最大温度とヒートシンク温度の差が11℃未満であることから、上面冷却の有効性がわかります。パワー・ブロックの上面にある冷却用金属パッドを通じ、熱が上側ヒートシンクに十分に伝わって分散されています。
上側および下側FET間での熱共有
単相または3相インバータでは、上側MOSFETと下側MOSFETで損失が異なる場合があります。これらの損失は、通常はパルス幅変調トポロジの種類と動作時のデューティ・サイクルによって決まります。損失に差があれば、上側MOSFETと下側MOSFETの発熱にも差異が生じます。ディスクリートMOSFETをシステム設計に使用する際は、以下の各手法を試すことで、上側FETと下側FETの温度を等しくすることができます。
- ディスクリートMOSFET用に異なる冷却領域を使用し、損失の大きいMOSFETにPCB銅領域やヒートシンクをより多く割り当てる。
- 上側MOSFETと下側MOSFETに公称電流に応じて異なるデバイスを使用する。たとえば、より大きな電流が流れるMOSFETには、オン状態での導通抵抗(RDS_ON)が小さいデバイスを使うことができます。
これらの手法では、動作時のデューティ・サイクルに応じてMOSFET温度が上昇する場合には最適な冷却が行われず、結果としてPCB領域やMOSFET定格を十分に活用できません。
上側および下側MOSFETが同じパッケージ内にあるパワー・ブロックMOSFETを使用すると、上側および下側MOSFET間で熱共有が自動的に行われ、優れた熱特性と最適化されたシステム性能の両方が得られます。
低システム・コスト
パワー・ブロックMOSFETを設計に使用することにより、システム・コストを最適化できます。この記事で説明してきたすべてのメリットが、結果としてコストの低減につながります。
- ソリューション・サイズが半減し、PCBコストが激減する。
- 低寄生成分により、長寿命でメンテナンスが容易な、はるかに信頼性の高いソリューションを実現できる。
- PCBパターン長の短縮によってPCB抵抗が低下するため、損失の低減と効率性の向上を、より小型のヒートシンクで達成できる。
- 優れた熱特性により、冷却が容易になる。
MOSFETパワー・ブロックを活用すれば、より信頼性が高く、より小型で、効率的かつコスト効果の高いシステム・ソリューションを実現できます。
参考情報
・リファレンス・デザイン「18V / 1kW、160A ピーク、効率 98% 超、高電力密度ブラシレス・モーター・ドライブ」
・リファレンス・デザイン「36V、1kW、効率 99%、18cm2 の出力段、3 相 BLDC モーター向け」
TIエンジニアブログ:「革新的な電動工具ソリューションの開発を促進する高電力密度の需要」
著者プロフィール
マヌ・バラクリシュナン (Manu Balakrishnan)テキサス・インスツルメンツ
産業用モーター・ドライバ事業 システムエンジニア