AIソリューションの開発と運用を手掛けるエクサウィザーズは、2024年3月に本社を汐留エリアから田町エリアへと移転した。グループ会社を同じフロアに集めたことで、さらなるシナジーの発揮を狙うという。こだわりの新オフィスを取材したので紹介しよう。
コロナ禍が落ち着いたことでオフィスを移転し拡張
エクサウィザーズがオフィスを移転したきっかけとしては、やはりコロナ禍が落ち着いた影響が大きいそうだ。前オフィスでは新型コロナウイルスの感染拡大防止に伴って出社を制限する中で、3年間ほどフロアを縮小していたという。
しかしコロナ禍が落ち着き始めたことで、出社の重要性を見直すきっかけが生まれた。その結果、リモートワークも取り入れながら、人と人が会話する環境と制度を充実させるべく、オフィスの移転に至ったとのことだ。移転したことで、以前のオフィスと比べて2倍以上の床面積を確保。別のオフィスで業務していてたグループ会社を統合移転し、社員の交流を促すような工夫をこらした。
移転に際して複数のビルを比較する中で、ワンフロアで全体を見渡せる点に魅力を感じて新オフィスが入居するビルを選定したという。前オフィスと同じ港区内で距離的にも近く、出社時の負担が大きく変わらない場所を選んだ。
オフィス設計にも生成AIを活用、会議室は「キキ」「ポッター」「フリーレン」
オフィス内のデザインは全体的に落ち着きのある雰囲気。コーポレートカラーの青色を取り入れながら、華美になりすぎないよう調整したという。オフィス設計の担当者は「現在の事業状況などを考えると、豪華な装飾やオフィス家具よりも人材に投資をしたいフェーズにある。派手なオフィスではないが使いやすさと過ごしやすさを高めた」と話していた。
「exaBase 生成AI」をはじめ生成AIの開発に携わる同社らしく、オフィス設計時にも生成AIを活用したという。特にユニークだと筆者が感じたのは、会議室名を決める工程だ。同社の各会議室には、有名なウィザード(=魔法使い)やAI研究の権威の名前が付けられている。このアイデアは生成AIと対話型で相談する中で決められたという。
また、オフィス移転に伴う社内からの問い合わせ対応にも生成AIを活用したそうだ。単にFAQ(よくある質問)やマニュアルを配布するだけではなく、社内マニュアルを学習したAIが、RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を利用して総務担当者の代わりに質問に回答できる仕組みを作った。このAIはオフィス近隣の飲食店情報などもインプットしており、気分に合わせておすすめのお店を教えてくれる。
企業バリューを体現する多様なワークスペース
オフィスのコンセプトは、同社がバリューとして掲げる「Empathy(共感)」「Evolve(進化)」「Execute(実行・実装)」に基づいている。業務内容や目的に応じて働く場所を選択できるよう設計した。また、以前のオフィスよりも会議室や数人で自由に使える打ち合わせスペースを増やし、イノベーションの創出を図ったとのことだ。
新オフィスでは社内外の講師を招いた勉強会やイベントに利用可能なセミナールームを新設した。イベントを開催していないときには通常の業務で利用できる。
セミナールームの壁には社名の記載があるのみで、至ってシンプル。社員がプロフィール写真や顔写真を撮影する際に壁面を背景にできるようにとの配慮だ。以前に同社を取した際にもここを活用した。
セミナールームに隣接するヒュッゲカフェ(カフェスペース)も懇親会をはじめとする社内イベントで活用できるほか、ランチや休憩、社員同士の談話・談笑などに使われる。
カフェの冷蔵庫には、エクサウィザーズオリジナルのビールが冷えている。「一人で飲むのは禁止」「飲むのは終業後」「まだ仕事をしている人に配慮する」などいくつかのルールを守れば、談話のおともにビールを楽しめる。このルールに従って筆者もいただいたのだが、強いホップの香りとコクを余韻までしっかりと楽しめる一杯だった。
執務エリアはフリーアドレスであり、業務内容や好みに応じてさまざまなワークスペースを選択できる。1人用のフォンブースや集中ブースのほか、2人で使える半個室を備える。2人掛けの半個室はペアプログラミングやペアワークに有用だという。
執務エリアの壁は一面が大きなホワイトボードになっている。そのため、偶発的な会話からの議論やブレインストーミングの際に、いつでもホワイトボードを利用して作業を開始できる。
また、集中して作業を行いたい社員向けに、クワイエットルームを設けた。ここは打ち合わせやWeb会議など会話を禁止しており、静かな空間が維持される。コーポレートカラーである青色の壁も効果的で、集中力がより高まりそうな空間だ。
オフィス移転後に実施した社内調査によると、「共同作業しやすい」という意見が多く寄せられたそうだ。また、「明るく清潔感がある」「違う部署の人とも関わる機会が増えた」といった声もあったという。
ある高名なSF作家が「Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic.(十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない)」との法則を示したとされる。名だたる魔法使いの名前が付けられたエクサウィザーズの会議室から生み出される、魔法のようなAIサービスに期待したい。