先日、海上自衛隊のヘリコプター護衛艦「いずも」が就役した。筆者は「あれは護衛艦ではなくて護衛される艦だ」と減らず口を叩いているが、大きなガタイに空母型の船形ということから「第二次大戦中の空母並み」とか「空母にできるのではないか」とかいうことを主張する向きも多い様子。

ガタイが同じでも乗組員の数は大違い

その「いずも」の乗組員は、520名とされる。これは航空関連要員を含む数字だ。搭載するヘリコプターの数が多くなっているので、そのヘリの搭乗員に加えて整備を初めとする支援要員を多数必要とするはずで、それだけ頭数が多くなる。

その「いずも」に近いサイズの空母を、帝国海軍の艨艟の中から拾い出してみると、若干小振りながら、「飛龍」が近そうだ。その「飛龍」の乗組員は1,101名とされている。「いずも」と比べると2倍も違う。

もっとも、搭載機の数は「飛龍」の方がずっと多いから(常用57機/補用16機)、その分だけ人手が多くなるのは間違いない。そのことを考慮に入れても、昔の軍艦と比べると今の軍艦の方が、同じサイズでも乗組員の数が少なくなる傾向にあるのは間違いない。

もっとも、主機が石炭焚きボイラーを使う蒸気タービンだった時代には、もっと大変だった。重油と違って、石炭は人手でボイラーにくべなければならないから、「罐焚き」の人手が余分にいる。しかも石炭の積み込みというものすごい汚れ仕事まであった。

おっと、閑話休題。重要なのは「今の軍艦は昔と比べると省人化が進んでいる」という話である。頭数は人件費に直結するので、ライフサイクルコストを押し上げる要因になる。だから省人化を図ることは重要だ。

軍艦以上に商船はそのことがシビアだから、巨大なマンモスタンカーやコンテナ船を数十人の乗組員で動かすようなことになる。それと比べると軍艦はまだまだ乗組員が多いのだが、その理由については後で触れる。

省人化のための工夫いろいろ

先にちょっと触れた主機の話みたいに、メカニズム面の変化や進化が省人化につながった場面は多い。

武器ひとつとっても、いちいち人手を使って何かしなければならないのか、自動化・機械化が進んでいるのか、といったところで、昔の大口径砲と当節のミサイルでは大きな違いがある。昔の艦載砲はやたらと多くの人手を必要としたが、今の艦載砲やミサイルは機械化・自動化が進んでいて、砲塔やミサイル発射機は無人で済ませることが多い。

また、軍艦にも商船にも共通する話だが、測位と航海、操舵、主機の操作(出力の上げ下げや前進・後進の指示など)など、フネを動かすために必要な機能を集約化して、少ない人手で済ませることができるようにする事例が増えている。いわゆる統合艦橋システム(IBS : Integrated Bridge System)である。もちろん、こういうシステムを実現するにはコンピュータとネットワークが不可欠のツールになっている。

ちなみに、米海軍の沿岸戦闘艦 (LCS : Littoral Combat Ship)では乗組員の数をべらぼうに減らしたため、艦内の掃除に「ルンバ」を使っているらしい。隔壁を初めとして、なにかと出っ張りの多い軍艦の床をロボットできれいにできるものなのかね? と疑問に思わなくもないのだが。

ところが軍艦の場合、ただ単に「自動化して人手を減らせばいい」とはならないところが難しい。

ダメコンの第一歩は状況把握

軍艦が商船と決定的に異なるのは、戦闘によって被害を受けることを前提にしているところ。そこで、「損傷の復旧」より先に「損傷の制御」(ダメージ・コントロール、略してダメコン)という話が出てくる。被弾損傷によって被害を受けたときに、まずは被害が広がらないように、フネが沈まないようにコントロールするのが先決で、修理は基地に帰ってからちゃんとやる。

軍艦の被弾損傷というと、物理的に壊されるという話もさることながら、それに付随して発生する火災や浸水の問題が大きい。実際、火災や浸水を制御できなくなって沈没に至った軍艦はたくさんある。

火災であれば消火剤や水を浴びせて消す。特に、第二次世界大戦の時に火災でいろいろ大変な目に遭った日米海軍は、火災対策や艦内の不燃化を重視している。一方、浸水の制御というと、破口を塞ぐとか、ポンプで水を汲み出すとかいう話が出てくる。だから軍艦の艦内を見て回ると、応急修理用の部材や消火設備がやたらと目につく。(余談だが、フネでは火災を海水で消す。海水なら周囲になんぼでもある。)

ただ、どういう対策を講じるにしろ、まずはどこでどんな被害が生じたのかを知るのが先決である。それが分かったら初めて、艦内各所に待機している応急員を現場に送り込む指示を飛ばすことができる。

そのため、軍艦には応急指揮所と呼ばれる区画が設けられている。昔は「部屋と電話」だけだったが、今は被害状況を表示するパネルがあって、どこの区画で火災が起きたとか、どこの区画で浸水が起きたとかいうことが一目で分かる。機関操縦室と一体化して、主機の制御と同じ部屋でやることが多いようだ。(小型艦だと被害状況表示用のパネルを艦橋に設けていることもある。)

浸水にしろ火災にしろ、それが発生したということを検知する手段と、検知したという情報を伝達する手段が必要になる。それを人手でやるか、機械化して通信線で伝達するか、という違いだ。消火の指示であれば、応急指揮所から消火装置を作動させる指示を下せるだろう。浸水の場合には、人が乗り込んでいって船体や配管の破口を塞がなければならず、遠隔操作で指示を出して終わり、とはいかないが。

こういうところにもIT化の恩恵があるわけだが、問題は、被害の検出や伝達、あるいは対処に使用する機材そのものが戦闘被害によって壊される可能性があることだ。実際、消防本管が破壊されて、消火に難渋する事例はけっこうある。

つまり「自動化機材に全面的に頼れない」という事情と、「ダメコンに関わる作業で最後に物をいうのは人手である」という事情から、軍艦では乗組員を減らしすぎると弊害が出てくる。だから、経済性という観点からの省人化と、戦うフネとして必要とされる頭数のバランスをどこで取るか、というところが難しい課題になっている。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。