なんと、機関銃・機関砲・火砲の射撃管制だけで4回も使ってしまった。さすがにそろそろ話題を変えないと。ということで、今回は対空ミサイルの話を。発射元の違いにより「空対空」「艦対空」「地対空」とあるが、いったん撃ってしまえば相手は同じ飛行機なので、まとめて扱うことにする。

誘導機構はついているが…

ミサイルのことを、日本では「誘導弾」と書くことがある。その名の通り、誘導機構を内蔵しているのが特徴だ。その誘導機構が目標を捕捉するためのメカをシーカーといい、ミサイルの先端部に付いていることが多い。

「それなら、ミサイルを撃てば、後は勝手に目標を捕捉して飛んで行ってくれるんじゃないの」と思いそうになるが、世の中、そんなに甘くない。ミサイルに組み込むシーカーは、当然ながらミサイルの弾体に収まるサイズにまで小型化しないといけないので、能力的な制約が生じる。

近年でこそ電子技術が発達したおかげで、レーダーと、それを使用する誘導機構一式を小型の空対空ミサイルの中に押し込めることができるようになった。しかし、小さくまとめる分だけ、戦闘機搭載レーダーより性能は落ちる。

すると、まず発射母機はミサイルが持つレーダーの探知可能範囲まで接近しなければならない。それを支援するとともに、ミサイルの誘導機構に対して必要な情報を与えること。そして、発射可能な状態にあることをパイロットに知らせること。これが、対空ミサイルの発射における、射撃管制システムの重要なお仕事となる。

赤外線誘導の場合

対空ミサイルとしては、まず、飛行機のエンジン排気や機体そのものが発する赤外線を捕捉・追尾する「赤外線誘導」がある。シーカーが赤外線を捕捉すれば誘導可能になるが、当然ながら探知可能な距離には限度がある。

映画か何かで、赤外線誘導のサイドワインダー空対空ミサイルが目標を捕捉すると、パイロットの耳に「トーン」が聞こえてくる場面があったかも知れない。つまり、ミサイルのシーカーが目標を捕捉しなければ撃てない(というか、撃っても当たらない)ので、それが分かるようにトーンを出す仕組みをつけた次第。

ということは、目標が捕捉可能な範囲内にいるかどうか、撃って当たりそうな状況にあるかどうか、を判断する必要があり、それを射撃管制システムが支援するという図式ができる。つまり、レーダーが敵機を捕捉して距離や位置関係を把握した上で、敵機が捕捉可能な範囲内にいると判断すれば、パイロットにその旨を知らせるわけだ。

レーダー誘導の場合

もうひとつ、レーダーを使用する「レーダー誘導」がある。これはさらに、送信機と受信機の両方をミサイルに内蔵する「アクティブ・レーダー誘導」と、送信機を外部に依存して、受信機だけをミサイルに内蔵する「セミアクティブ・レーダー誘導」に分かれる。

電子技術が発達していなかった昔は、送信機と受信機の両方をミサイルの中に押し込めるのが難しかったため、「セミアクティブ・レーダー誘導」を使用する対空ミサイルが多かった。この場合、戦闘機、あるいは地上・艦上のミサイル誘導レーダーが、発射から命中までずっと、目標に向けて誘導電波を照射する必要がある。

ということは、射撃管制システムは目標を捕捉・追尾するとともに、それを外さないように誘導電波を出す仕事をしなければならない。電子デバイスが進化していない時代に実現する仕事としては、かなり負担が大きかっただろうと想像できる。

かといって、それをパイロットに押しつけて「レーダーで捕捉した目標に対して、手作業で狙いをつけて誘導電波を出させる」なんていうことになれば、パイロットが過重負担になるし、ミサイルの誘導にかまけている間に別の敵機に襲われかねない。となると、信頼できる電子機器と、それを制御するコンピュータがなければ、仕事にならない。

「その点、アクティブ・レーダー誘導ならミサイルが送信機も内蔵しているわけだから、撃てば勝手に飛んで行くんじゃないの?」と思いたくなるが、前述したようにミサイルの内蔵レーダーは小型で探知可能距離が短い。だから、赤外線誘導ミサイルの場合と同様、まずミサイルが目標を探知できるところまで接近したり、撃って当たる状況かどうかを判断したりするところで、射撃管制システムがアシストしてやる必要がある。

最近では、内蔵レーダーを使うのは命中間際だけにして、そこまではオートパイロットで飛んで行くレーダー誘導ミサイルが多い。といっても、どこに飛んで行くかを判断できないで迷子になってしまっては困るから、ミサイルに慣性航法装置(INS : Inertial Navigation System)を内蔵して自己位置が分かるようにする。

ところがそうなると、「どこからどこに向けて飛んで行くか」を発射前に指示してやらなければならない。これもまた、射撃管制システムの仕事である。つまり、敵機をレーダーで捕捉・追尾して未来位置を予測した上で、ミサイルに「飛んで行くべき場所」を入力してから撃つ。

さらに、その後で敵機が針路を変えて予想が外れそうになった場面に備えて、敵機とミサイルの両方を追尾しておき、必要に応じて修正の指令を送れれば、なおよい。

こんな具合に、誘導弾だからといって何もしなくて良いわけではなく、それはそれで射撃管制システムにはいろいろ仕事があるのだ。当然、機械仕掛けよりコンピュータ仕掛け、アナログ方式よりデジタル方式の方が、複雑な作業に対応しやすいし、改良や修正もやりやすい。ただし、ソフトウェアの開発や試験・評価の担当者が大変な思いをしなければならないが。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。