前回は、機関銃・機関砲・火砲といった「装薬のエネルギーで弾を撃ち出す武器」の照準が、実は簡単そうに見えてぜんぜん簡単ではなく、さまざまな要因に左右される、という話を書いた。では、その問題を解決する手段となる射撃管制システムは、いったい何をすればよいのか。

射表

まず、自分も目標も止まっている場合の話から。

そこで問題になるのは、前回にも触れた「弾が実は一直線に飛んでいない」という問題である。一般的に、水平に撃ち出せば弾道は少しずつ下がってくる。それを見込んでやや上向きに撃ち出しても、やはり弾道が下がってくることに変わりはないが、やや上向きに反った、いわば逆U型みたいな軌跡を描くことになる。

ということは、射距離によって、銃身や砲身の延長線上を狙えばいい場面があれば、それより上を狙わなければ当たらない場面も、それより下を狙わなければ当たらない場面もあることになる。

そこで真っ先にやらなければならないことは、弾道特性の把握である。風みたいな外乱要因のことはひとまず措いておいて、撃った弾がどういう軌跡を描くか、射距離ごとにどの程度のズレが生じるか、を把握しておかなければならない。

また、常に水平方向に向けて撃つとは限らないから、俯仰角もいろいろ変えてみなければならない。特に、遠距離射撃を行う、大口径で弾が重い火砲の場合には、これが重要になる。

さらに大口径の火砲になると、装薬の量が問題になることもある。装薬を入れた金属製の薬莢(ケース)と弾が一体になっていれば、装薬の量は常に一定で、いわゆる銃弾はこのタイプ。それに対して大口径の火砲になると、弾と装薬が別々になっていて、かつ、その装薬の量を変えられることがある。もちろん、射程が長くなると、使う装薬の数も増える。

といっても、まさか装薬をショベルで掬って投げ込むわけにはいかないので、袋に入れた状態になっている(昔は絹の袋を使ったケースがあったそうだ)。その袋をいくつ入れるかで、使う装薬の量が決まる。たとえば戦艦の主砲であれば、1個から6個の間で可変式、という具合。

こういった諸条件ごとに実際に撃ってみて、基礎データを揃えておく。これを射表という。もちろん、最小射程から最大射程まで、すべての範囲・すべてのケースについてデータをとっておく。

その射表のデータがあれば、実際に撃つ場面では、目標までの距離を初めとする各種の諸元に合ったデータを射表から引っ張り出すことで、照準のための基礎的な情報を得ることができるだろう。当然、紙の冊子に書いておくよりも、コンピュータにデータを入れておいて検索させる方が、効率はよろしい。

外的要因の算入

ところが前回にも述べたように、銃弾にしろ砲弾にしろ、弾が飛翔する際の軌跡はさまざまな外的要因による影響を受ける。

まず、必ずついて回るのが風、特に横風だ。すると、どの向きからどれぐらいの風速の風が吹いているのかを計測して、そのデータを算入することで、狙いをつける場所(狙点)を修正する。風が吹けば風下側に流されるのだから、その分を見込んで風上側にずらすわけだ。

遠距離射撃のために大きな仰角をつけて撃つと、地表や海面の風向・風速データだけでは済まない。高層気流に関するデータも必要になる。さらに、弾が飛翔する際には空気抵抗を受けるが、それは大気の密度によって違ってくるから、それも考慮に入れなければならない。

もっとも、大気密度はスタティックな数字だから、射表を作る段階で取り込んでおけるかも知れないが、それでも高気圧と低気圧では違いが生じそうである。鉄道の速度記録を作るときには低気圧の方が数字が伸びやすい、なんて話もあることだし。

ともあれ、こういった外的要因についても、スタティックなものは事前に、そうでないものはその場で計測して、データを算入して狙点を修正する必要がある。これも、昔は機械式計算機でガチャガチャやっていたが、今ならコンピュータでやれる。

見越し角射撃

ところが、目標が動いている場合には、前回に取り上げた見越し角も考慮に入れなければならなくなる。撃った弾が目標のところに到達するまでにはなにがしかの所要時間がかかるので、その間に目標が移動する距離と無機を考慮に入れなければならない、という話だ。

当然、目標の移動速度が速いほど、見越し角は大きくとらなければならない。それだけでなく、目標までの距離も影響する。目標の速度が同じでも、距離が近ければ見越し角は少なくなるし、距離が遠くなれば見越し角は大きくなる。

それを機械仕掛けでなんとかしよう、という話になったのが、第二次世界大戦中のこと。慣れたベテランならカンで見越し角を適切にとることができるが、新米はそうもいかない。そこで、戦闘機が射撃する際に不可欠となる見越し角の計算を機械化して、新米でも命中弾を得やすくしようという話である。

といっても、なにせ機械仕掛けで実現しようという時代の話だから、ありとあらゆるパラメータを取り込んで精確に計算しようといっても無理な相談。できる範囲でなんとかする、という話になる。

まず自機の動きや姿勢変化に関わる角速度、これはジャイロスコープを動かしておけばデータを得られる(参考 : ジャイロスコープ)。

問題は目標の動きを得る方法である。そこで、照準器に表示した照準環に目標を捉えて追い続ける。水平直線飛行している目標を真後ろから追えば、上下・左右の動きは生じない。しかし、相手が上昇や旋回をしていると、上下・左右方向の動きが生じるから、それを追うことで、結果として目標の動きに関するデータを得られる。

しかし、距離はどうするか。同じサイズのものなら、近ければ大きく見えるし、遠ければ小さく見える。そこで、事前に敵機の翼幅を照準器にセットしておく。そして、照準環で敵機を捕捉したら、回転式になっているスロットルレバーの握りを動かして、照準環のサイズを変える。

照準環が敵機の翼幅と同じになるようにする仕組みで、そのときの握りの位置、それと先に入力しておいた敵機の翼幅の数字を基に、幾何学的に距離を算出しようという話になる。だから、翼幅の選択を間違えたり、照準環のサイズをうまく合わせることができなかったりすると、距離が正しく出ない。

ともあれ、こういうアナログかつ機械的な方法で自機と目標の相対的な位置関係とその変化を連続的に追い続けることで、見越し角を算出、その結果を照準器に「修正された照星」という形で表示する。それを使って狙えば、敵機の前方に射弾を送り込めるという理屈。これを機械仕掛けでやっちゃったのだから大変だ。

このタイプの照準器のことを、ジャイロ・コンピューティング・サイトという。サイトとは照準器のことだ。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。