今回から、射撃管制の話について取り上げてみよう。なぜか陸戦の分野では射撃統制ということが多いのだが、英語にすればFire Controlで同じである。もちろん、「火災制御」という意味ではない。

弾は真っ直ぐ飛ばない

射撃管制。「射撃」というからには、機関銃や機関砲からミサイルに至るまで、さまざまな武器の射撃に関わるものだ、ということは容易に見当がつく。ただ、実際に何を「管制」するのかというと、これは対象によって違ってくる。そこで今回は、機関銃や機関砲の話を。

テレビや映画で、拳銃や小銃を使った射撃の場面が出てくることがある。拳銃にしろ小銃にしろ機関銃にしろ、上部に「照門」と「照星」がついていて、それと目標が一直線に並ぶようにすることがすなわち、狙いをつける(照準)になることが多い。

狙いをつけたところで引き金を引けば当たるはず… といいたいところだが、実際にはそんな簡単な話ではない。なぜかといえば、弾道は一直線ではないからだ。

小は4.6mm径の拳銃から、大は戦艦大和の46cm主砲に至るまで、いずれも「弾」は「装薬」を炸裂させて発生させたガスのエネルギーで撃ち出される。ところが、その弾にはそれなりの質量があるのだから、飛翔しているうちに重力の影響で徐々に落下してくる。

また、装薬が発生させるエネルギーが少なく、弾速が低い場合にも、やはり弾道は落下しやすくなると考えられる。(というほど単純な話ではないのだが、弾速が低い場合ほど引力の影響が強まり、弾道が直線的になりにくい傾向はあるだろう)

それはそれとして。要するに、弾道は一直線ではないのだから、ただ単に銃身や砲身の延長線上に目標を置くように照準しても当たらないところが問題なのだ。

弾道以外のファクター

弾道は、弾の重さや空気抵抗、装薬の炸裂によって与えられる運動エネルギー、といった要因によって決まるが、さらに外的要因による影響も受ける。

その中でも典型的なものが、風である。ちょっと考えてみれば容易に理解できる話だが、横風が吹いていれば、飛翔中の弾は風下方向に振られる。すると当然ながら、風下方向に外れてしまう。

その横風の影響は、風向や風速だけでなく、目標までの距離によっても違ってくるだろう。当然、遠距離になるほど風を受ける時間が長くなるのだから、それだけ振られやすくなると考えられる。

近距離で使うのが一般的な拳銃、あるいは数百メートル程度の射距離しかないことが多い小銃ではそこまで考える必要はないが、射距離が数十kmに及ぶことがある大口径の火砲になると、念には念を入れるのであれば、地球の自転まで考慮に入れなければならない。発射から弾着までに分単位の時間がかかるとなると、その間に地球がわずかに自転することになるからだ。

地球の外周は約4万kmある。ということは、1時間に1,667km、1分間に27.78kmの移動だ。といっても、宇宙空間から地表のどこかを狙うのではなくて、地表同士の撃ち合いではあるのだが、それでも、自転によって若干ながら位置がずれる可能性は否定できない。となると、それも考慮に入れなければならなくなる。

見越し角射撃

陸上で据え付けた大砲でもって、建物などの固定目標を狙うのであれば、自分も目標も動かない。それであれば、目標までの方位と距離、さらに風や地球の自転など、弾道に影響する諸々のファクターを考慮に入れて計算を行える。

ところが、目標が動いている場合がある。地上から、走行中の戦車を対戦車砲で狙ったり、上空の敵機を対空砲で狙ったりする場面がそれだ。

さらにややこしいことに、自分と目標の両方が動いている場合もある。海戦や空戦がそうだし、飛行機から地上の車両を狙って撃つ場合にもやはり、双方の当事者が動きながらの射撃になる。

目標が動いているというだけでも、一気に計算はややこしくなる。撃った弾が目標のところまで到達するまでにはなにがしかの時間がかかるが、その間にも目標は移動し続けているのだから、最初に目標の位置を狙って撃っても当たりっこない。目標の動きを計算に入れて、前方に狙いをつけておかなければならない。

これがいわゆる見越し角射撃である。目標よりどれくらい前方を狙うか、ということを示す指標が見越し角で、英語ではリードという。身近なところでは、ドッジボールをやっていて、走っている相手チームの選手にボールをぶつけることを考えてみればよいだろう。

自分が止まっていても相手の動きを考慮に入れなければならないのに、さらに自分も一緒になって動いているということになれば、ますます話はややこしくなる。

自分が動いているにしても止まっているにしても、問題になるのは自身と目標の相対的な位置関係なので、自身から見た目標の方位と距離、さらにそれらが変化する向きと変化率、といったところが問題になる。

ただ、フネでも飛行機でも車両でも、自身の操縦操作による影響がある。真っ直ぐ走っているか、旋回しているか、という問題だ。さらに、フネなら撃った瞬間にうねりに乗ってしまうかも知れないし、車両なら障害物に乗り上げたり嵌ったりするかも知れない。そういう要素も、ヴィークルの針路や姿勢を乱す要因になり、結果として弾道を狂わせる。

というわけで、「ただ単に照門と照星で目標を狙えば当たる」とは行かないのだが、そこで機械やコンピュータによる支援を導入して、できるだけ容易かつ確実に照準できるようにしましょう、というのが、銃砲類を対象とする射撃管制のキモということになる。

なにせ、雷管をひっぱたいて装薬が炸裂、それによって弾が飛び出していったら、後は弾任せである。撃ち手ができることは、弾が出る前にできるだけ精確に狙いをつけることだけだ。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。