軍艦に独特の区画として、戦闘情報センター(CIC : Combat Information Center)がある。昔は艦橋が操艦指揮の場所であるとともに戦闘指揮の場所でもあったが、センサー機器の多様化と増加、戦闘空間の拡大(対水上、対空、対潜など)といった要因から専用の戦闘指揮所が必要との認識に至り、CICの設置につながった。。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • 空母「ミッドウェイ」のCICは、こんな配置 撮影:井上孝司

CICをどこに置く?

そのCICを艦内のどこに配置するか。そこで意見が分かれる。

分かりやすいのは、艦橋後方の上部構造内に設置する方法。昔はこれが一般的で、例えば米海軍のオリヴァー・ハザード・ペリー級ミサイルフリゲートは艦橋より1層下・艦橋直後にCICを置いていた(実際に見たことがあるから本当である)。

もっと古い艦で、ギアリング級駆逐艦も似たような配置。マサチューセッツ州フォール・リバーの「バトルシップ・コーヴ」に、同級の一艦である「ジョセフ P.ケネディJr」(DD-850)が保存展示されており、CICものぞくことはできる(立ち入りはできない)。

「ジョセフ P.ケネディJr」(DD-850)のCIC。なんだか狭くてゴチャゴチャしている 撮影:井上孝司|

我が国の場合、昔は艦橋との行き来を考えて上部構造物にCICを設置していたが、昭和52年度以降に計画した艦ではCICを主船体内に移した。米海軍も同様で、アーレイ・バーク級駆逐艦はCICを主船体内に置いている。その他の国でも事情は似たり寄ったりであるようだ。

ちなみに空母はどうか。あいにくニミッツ級空母のCICは見たことがないが、サンディエゴで保存公開されている「ミッドウェイ」なら誰でも見られる。そして同艦のCICは、飛行甲板と格納庫甲板の間に設けられたギャラリー・デッキと呼ばれる甲板の一角にある。そこに隣接する形で、司令官の居室などが置かれている。いずれも立ち入りが可能な公開エリアだ。

どうしてCICを主船体内に置くのか。それは「防禦上の観点からだ」と説明される。高所にあって目立つ上にサイズも大きい上部構造は被弾する可能性が高く、そうなるとCICも被害を受ける可能性が上がる。実際、第二次世界大戦の海戦史を見ると、艦橋に被弾して艦長以下の幹部要員が壊滅した、なんていう類の話はいくつも出てくる。

また、上構よりも主船体の方が幅を広くとれる。すると、CICの両サイドに通路を通すことで緩衝スペースとなる空間を確保する、という設計が可能になる。舷側に面した位置にCICを置くと、そこに被弾したら被害が直接及ぶことになるが、間に通路を挟んでいれば多少はマシというわけだ。

艦橋の近くにCICを置けば、行き来はしやすい。主船体内にCICを配置すれば、もしも艦橋とCICの間を行き来することになると、甲板何層分もラッタルを上がったり降りたりしなければならない。しかし戦闘被害のことを考えたら、そうもいっていられない。

艦橋直後にCICを置くフネ

ところが最近、「CICは主船体内」という常識から外れたフネがいくつか出てきている。

例えば、2023年に横須賀に来航したイタリア海軍のPPA(Pattugliatore Polivalente d'Altura)、「フランチェスコ・モロスィーニ」がそれだ。このフネは艦橋の直後にCICを置いて、広いスペースを確保している。測ってみたわけではないが、見た感じ、アーレイ・バーク級のCICと同等ないしはそれ以上という感触だった。

それと比べると小さな船だが、シンガポール海軍のLMV(Littoral Mission Vessele)ことインディペンデンス級。これがやはり、艦橋の直後にCICを置いている。

  • 「フランチェスコ・モロスィーニ」のCIC。スクリーンが並んでいる壁の向こう側が艦橋 撮影:井上孝司

そしてフランス海軍が建造を進めている、FDI(Frégates de Défense et d'Intervention)ことアミラル・ロナルク級。このクラスが面白いのは、単に艦橋とCICを近接させているわけではなくて、センサー機器や関連する機器室をPSIM(Panoramic Sensor and Intelligence Module)という一体の構造物にまとめているところ。そのPSIMモジュールの最下層に、CICを組み込んである。

すると何が便利か。陸上でPSIMの構造物を組み立てて、機器の設置・組み込みを可能な範囲で済ませておいてから、艦上にポンと(?)載せられる。つまり、艤装作業の効率化を期待できる。CICに設置するコンピュータ機器やコンソールは、その上に陣取るセンサー機器とつながなければならないものが多くを占めている。それらをまとめて先行艤装しておけば、効率が良い。

もし、寿命中途でセンサー機器やコンピュータ機器をゴッソリ新形化することになったら、PSIMごと作り直してしまう手もある。

でも、CICを上構に置いたら被弾しやすいのでは?

CICを主船体内ではなく上構内に置くと、防御の観点から見て問題がある、という意見にも理はある。ただ、その話が出てきたのは艦艇のステルス設計・シグネチャ低減設計が一般化するよりも前の話だ。

もしもである。レーダー反射や赤外線シグネチャといった、対艦ミサイルをおびき寄せる要因について検討を重ねて、上構に被弾する可能性を低減できる、と考えたのだとしたら?

今ならおそらく、モデリングとシミュレーションを駆使することで、シグネチャに関する計算はできる。そこで、飛来する対艦ミサイルが上構に命中する可能性を下げる工夫をした上で、その確率を計算できれば定量的なデータを提示できる。

そして、「防禦上のリスク」と「建造やメンテナンスのしやすさ、艦橋との行き来のしやすさ」を天秤にかけられる。その結果として、「これならCICを上構に配置する選択肢も許容できる」と判断する。そういう手法にも理があることにならないだろうか。

その判断に際して必要となるエビデンスを、いちいち模型を作って電波暗室に入れてテストすることの繰り返しで試行錯誤するのは、手間も経費もかかりすぎる。しかしシミュレーションでエビデンスを揃えられるとなれば話は別、とはいえないか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。