昔は、艦艇に対する経空脅威といえば航空機のことだけ考えていればよかったが、その後、対艦ミサイルという厄介な相手が加わった。探知・迎撃を困難にするために低空を飛翔してくるものが多く、しかも航空機と比べて小型。すると、いかにして早く、確実に探知・追尾するかが課題になる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • 「フリーダム」(LCS-1)を俯瞰した写真。ヘルファイアの発射機は上部構造物に組み込む仕組み 写真:US Navy

新手の脅威が増える一方

さらに、対艦ミサイルの中には飛翔速度を高めるものが出てきており、超音速、あるいは極超音速で飛翔するものもある。すると、探知して対処するまでの時間的余裕が乏しくなる可能性がある。飛翔速度が上がると、一般的に飛翔高度は高くなるので早く探知できる可能性が高まるが、探知してから着弾するまでの時間的余裕は乏しい。

そして近年になって加わった新手が無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)。これにも、UAVが有人機と同じように兵装を搭載してくる形態と、UAV自身が片道切符で突っ込んできて自爆する形態と、2パターンがある。

厄介なのは、UAVは「安い」こと。安いから数をそろえるのが容易である。しかし、それを迎え撃つ側は弾代が嵩む。高価なミサイルで安いUAVを迎え撃っていたら不経済で仕方がない(弾道ミサイルでも同じような話が出ることはある)。だから、ミサイルではなく砲で迎え撃ったらどうか、という話まで出ている。

そうした状況の中、米海軍の沿海域戦闘艦(LCS : Littoral Combat Ship)「インディアナポリス」(LCS-17)に、UAV対処能力、すなわちC-UAS(Counter Unmanned Aircraft System)能力を追加したとの話が報じられた。

「インディアナポリス」はフリーダム級に属し、このクラスは対水上戦(ASuW : Anti Surface Warfare)ミッション・パッケージを搭載してASuW専任とする方針が決まっている。そのパッケージに手を加えて、C-UAS能力を持たせたとの話だった。

実は、LCSのASuWミッション・パッケージには、30mm機関砲が含まれている。これをGMM(Gun Mission Module)EX50 mod.0と称する。その正体は、サンアントニオ級ドック型揚陸輸送艦でも使われている、Mk.46砲架と30mm機関砲MK44 mod.2の組み合わせ。

その30mm機関砲を使うのかと思ったら、実はどうも違うらしい。

対空用ヘルファイア(!?)

C-UAS能力を持たせる対象となったのは、SSMM(Surface-to-Surface Missile Module)だと説明されている。

米海軍の説明によると、SSMMはASuWミッション・パッケージを構成する要素のひとつで、AGM-114Lロングボウ・ヘルファイア対戦車ミサイルを撃つ。そのヘルファイア・ミサイルと、ミサイル発射機がSSMMの主要構成要素となっている。

ヘルファイアにはいろいろなモデルがあるが、ロングボウ・ヘルファイアと呼ばれるモデルは、mm波レーダーを使用する撃ち放し式。

一般に用いられる対戦車型ヘルファイアはセミアクティブ・レーザー誘導だが、これだと命中するまでレーザー照射しなければならない。そもそも、空を飛んでいる小さなUAVにレーザーを精確に照射し続けるのは難しい。

その点、レーダー誘導型の方が理に適っている。mm波レーダーなら分解能が高いから、小さなUAVを狙うには都合が良さそうでもある。UAVは水平直線飛行を行うとは限らず、コロコロと針路や高度を変えてくるかも知れないから、レーダーで連続的に追尾しないと迎え撃てないだろう。

にしても、もともと対戦車用のつもりで開発されたミサイルをC-UASに転用しよう、という発想の柔軟さにはおそれいる。

ひとつ問題が残るとすれば、またもお値段であろうか。ヘルファイアはミサイルとしては安価な部類に属すると思われるが、それでも相応のお値段はする。どう見ても、フーシ派あたりが多用しているUAVの方が安い。

  • フリーダム級の4番艦「デトロイト」で行われたヘルファイアの試射 写真:US Navy

  • SSMMを単体でテストしている様子。これを艦の上部構造に填め込んで使用する 写真:US Navy

UAVを迎え撃つときの難しさ

前述したように、UAVをキネティックな破壊の手段として用いる場合、兵装を別途搭載する使い方と、UAVそのものを突っ込ませる使い方がある。実はこれが、迎え撃つときの脅威評価に影響する。

兵装を搭載したUAVだと、兵装を投下する前に撃ち落とさなければ脅威の排除にならない。それに対して、自爆突入型のUAVはミサイルと同じで、自艦に命中する前に撃ち落とせば目的は達せられる。

では、この両者をどうやって識別するか。レーダー反射の違いや飛行プロファイルの違いで識別できるのか。仮に飛行プロファイルで識別することになれば、UAVで攻撃を仕掛ける側がそれを逆手にとって、飛行プロファイルを変えてくるかもしれない。

となると現実解としては、「相手がどちらの形態だろうが関係なく、できるだけ遠方にいるうちに無力化しろ」という、身も蓋もない話に落ち着きそうではある。

光学センサーで外見を捉えることができれば、事情は変わってくるかもしれないが、これとて夜間には識別が難しくなろう。赤外線センサーの映像は、日中の可視光線映像と比べると分解能が低い。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。