2025年3月10日に都内で、BAEシステムズによる記者説明会が行われた。こうした場面で「当社と日本は、1899年に戦艦『三笠』を納入して以来の付き合い」といって関わりの長さをアピールするのは恒例。それはそれとして。

BAEシステムズは、2021年以降にグループ全体で研究開発投資を30%増やしたと説明したが、その対象の一つに、今回の本題である各種自律システムがある。単に「どんな自律システムを手掛けているか」という話だけでなく、関連する話題も掘り下げてみる。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • 記者説明会でお話を伺った、グループテクノロジーディレクターを務めるロブ・メイウェザー氏 撮影:井上孝司

BAEシステムズが手掛けている自律システムの例

記者説明会では、BAEシステムズが関わっている自律システムの例として、以下が紹介された。

T-Series 物輸用電動マルチコプター

機体は、傘下企業のマロイ・エアロノーティクス(Malloy Aeronautics)が開発している。ペイロードは、T-150で68kg、T-650で300kg。電動式マルチコプターというと4ローターが一般的だが、軍用ということで冗長性を重視して8ローターとしている。危険な最前線での物資輸送に活用する想定。

  • 国際航空宇宙展2024(JA2024)で展示されていた「T-150」 撮影:井上孝司

P24無人艇

もともとBAEシステムズではP24(Pacific 24)というRIB(Rigid Inflatable Boat)を手掛けている。これは英海軍の艦で搭載艇として広く用いられている製品。そこに自律制御システムを組み込んで無人化したのがP24 autonomous RIB。電子光学/赤外線(EO/IR : Electro-Optical/Infrared)センサーと12.7mm機関銃を搭載して、港湾などのインフラ警備に利用できる。

無人化した装甲戦闘車両

まず、M113 OCCV(Optionally Crewed Combat Vehicles)。この場合の optional とは「有人・無人の選択が可能」という意味。既存のヴィークルを無人化するサブシステムを開発して、オーストラリア向けに20両を納入している。

ATLAS(Autonomous Tactical Light Armour System)CCV(Collaborative Combat Variant)は、スパキャット(Supacat)が開発した8×8装輪装甲車の車体にBAEシステムズの自律制御技術を組み合わせて、自律走行を可能としたもの。そこに、スロベニアのヴァルハラ・ターレット(Valhalla Turrets)が手掛けた砲搭(Vantage ATS : Automated Turret System)を載せた。主兵装は25mmブッシュマスター機関砲で、BAEシステムズのセンサーを組み合わせている。

PHASA-35

いわゆるHAPS(High-Altitude Pseudo-Satellite)。太陽電池と電動機で推進する無人機で、高高度で長時間の滞空が可能。太陽電池と蓄電池の能力が向上すれば、さらなる性能向上を見込める、この種の機体の主な想定用途は、人工衛星よりも安価な通信中継手段。

PHASA-35の特徴として、ペイロードを機首に集約して搭載する点を挙げている。分散搭載すると飛行能力を阻害するというのがBAEシステムズの考え。

  • 国際航空宇宙展2024(JA2024)で展示されていた、PHASA-35の縮小模型 撮影:井上孝司

Herne XLAUV(eXtra Large Autonomous Underwater Vehicle)

Herneは全長13m、航続距離6,000kmの大形無人潜水艇で、カナダのチェルラー・ロボティクス(Cellula Robotics)と協業している案件。事前にプログラムしたISR(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance)ミッションをやらせる実証試験を実施している。

そこで制御の中核となる自律制御システムとして、BAEシステムズの Nautomate を使用している。水中での監視やインフラ警備、対潜戦の支援といった用途を想定している。

Longreach 70無人ヘリコプター

センティネル・アンマンド(Sentinel Unmanned)との協業案件。重量25kg未満と軽量の無人ヘリコプターで、胴体下面にセンサー・ターレットを搭載、レーザー目標指示を実施する。APKWS(Advanced Precision Kill Weapon System)誘導ロケット弾やブリムストーン空対地ミサイルの誘導が可能。2023年に、英陸軍の実験イベントに持ち込んだことがある。

他社と協業して役割分担することの意味

無人ヴィークルの分野では、機敏で小回りが利き、斬新なアイデアを生み出しやすい、スタートアップ企業やSME(Small and Midsize Enterprises)が多く活躍している。すでに成功をおさめている無人ヴィークルを見ると、あまりなじみがないメーカーが頻出していることが、そのことを証明している。

しかし、大量・安定生産や、さまざまなシステムを組み合わせた高度かつ複雑なシステムを構築する段になると、そこはやはり経験とリソースを豊富に持つ大手メーカーが強い。それなら、両者が組んで「いいとこどり」をすればベストな結果につながるのではないか、という発想に至るのは自然な流れといえる。

そこでBAEシステムズでは、「まず信頼関係の構築から始めて、SMEのプロダクトをどう展開できるかを考えていく」と説明する。ときには、BAEシステムズからエンジニアや製品を相手先に持ち込んで支援することもあるという。

ことに軍用という話になると、政府機関の複雑な調達システム、厳格な各種規定といった課題を避けて通ることはできない。そういう場面でも、すでに製品やサービスを納入した経験を豊富に持つ大手が間に入ることで、SMEやスタートアップに対する支援になる、という考え方もある。

次回は、こうした各種自律システムをどう使っていくか、という話を取り上げる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。