前々回、前回に続いて、ニュージャージー州ムーアズタウンにあるロッキード・マーティン社ロータリー&ミッション・システムズ部門の事業所を訪れたときの取材を基にして書いてみる。お題は試験作業である。。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
機能の切り分けとオープン・アーキテクチャ化のメリット
過去2回にわたり書いてきたように、最新のイージス武器システムでは「コンピュータ・ハードウェアとソフトウェアの分離」「レーダーの分離」といった具合に切り分けが進んできている。
機能の切り分けを明確化するとともに、オープン・アーキテクチャ化という思想を取り入れることで、システム構成要素の組み合わせを決める際の自由度が増すのは、すでに書いた通り。
パソコンのネットワークでも、昔はモノリシック・ドライバといって、LANインタフェースのハードウェアを制御する機能と、その上でネットワーク層やトランスポート層の機能を実現するソフトウェアが一緒くたになっていた事例があった。
それでは一部の機能だけ取り換えようとしても困難で、融通が利かないから、階層ごとにきちんと切り分けるようになった。イージス武器システムで段階を追って進められてきた「切り分け」の話も、その辺の話と似ていなくもない。
テストはどうするか
ただ、お好みの構成要素を持ち寄ってシステムを組み上げたら、次はそれが仕様通りに機能するかどうかを確認するための、試験のプロセスが必要になる。
AN/SPY-1レーダーを使用するイージス艦の場合、レーダーもイージス武器システムも同じムーアズタウンで製造しているから、話はシンプル。1隻分の機材一式(シップセットという)がそろったところで、それを事業所の構内にある試験施設(PTC : Production Test Center)に設置して動作検証試験を実施する。試験にパスしたら、艦の建造を担当する造船所に送り出す。
以前からあるPTCはAN/SPY-1レーダーを使用するシステムに対応している。ただし、米海軍向けの艦はあと2隻が就役すると終わりになる。残るは、韓国海軍向けのKDX-IIIバッチIIこと正祖大王(Jeongjo the Great)級・3隻のみとなる。
ムーアズタウンでシステム一式のテストを済ませてから送り出すところは、日本向けのイージス・システム搭載艦(ASEV : Aegis System-Equipped Vessel)も同じ。実は今回の訪問では、ASEV用の試験施設(PTC2)について、初めて報道関係者の立ち入りが認められた。
PTC2では4面のAN/SPY-7(V)1と関連機材一式を設置して、実艦と同じようにして動作させることができる。そこでシステム一式の動作確認を済ませてから、機材を梱包して日本の造船所に持って行くことになる。
機材の製作だけでなく完成後の試験まで、同じ場所で一気通貫して実施できるのは、AN/SPY-7(V)1を使用する場合の利点といえる。
スペインは自前の試験施設を用意する
スペインのボニファス級も、陸上で事前に試験を済ませるところは同じだが、スペイン国内のサン・フェルナンドに陸上試験施設を設置する点が異なる。おそらく、スペイン側で開発するシステムが組み込まれている関係でそうしたものと思われる。
ただしその前段として、2023年5月に、ムーアズタウンでCOP(Common Operational Picture)生成試験が行われた。これは、AN/SPY-7(V)2レーダーからの模擬トラック・データを、IAFCL (International Aegis Fire Control Loop)からSCOMBA (Sistema de Combate de los Buques de la Armada)指揮管制システムに送り込んで、他の探知手段で得たトラック・データと併せてSCOMBAから返す形で実施したと説明されている。
なお、スペイン向けのAN/SPY-7(V)2は2024年6月に、最終設計審査(CDR : Critical Design Review)を完了して量産段階に移行した。そのAN/SPY-7(V)2以外に使用する兵装類は以下のように多岐にわたるが、欧州メーカーの製品が多い点が目を引く。
- Xバンド・レーダー : PRISMA 25X
- Tecnobit製IRST(Infrared Search and Track)
- Rigel i110電子戦システム
- Regulus i110 CESM(Communications Electronic Support Measures)
- タレス製CAPTAS-4 Compact可変深度ソナー
- レオナルド製127/64 LW艦載砲
- RIM-162 ESSM(Evolved SeaSparrow Missile)ブロック2艦対空ミサイル
- Mk.41垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)
- コングスベルク製RGM-184A NSM(Nytt Sjønomålsmissil)
- Mk.32 mod.9短魚雷発射管
Mk.41とESSMとMk.32以外は、米海軍のイージス艦では使用していない装備ばかり。だから、システム・インテグレーションとその後の試験の仕事は重要になる。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。