前回に引き続き、ニュージャージー州ムーアズタウンにあるロッキード・マーティン社ロータリー&ミッション・システムズ部門の事業所を訪れたときの取材を基にした話を取り上げる。今回のお題は、スペイン向けとカナダ向けの新型艦におけるシステム構成である。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
SCOMBA + IAFCL
スペイン海軍のボニファス級は、スペインで独自開発する指揮管制システムSCOMBA(Sistema de Combate de los Buques de la Armada)と、ロッキード・マーティンから持ち寄るIAFCL(International Aegis Fire Control Loop)を、ロッキード・マーティン製のAN/SPY-7(V)2レーダーと組み合わせた構成になる。
前回に取り上げたように、以前であればシステム一式をまるごと輸入するしかなかった。だからスペイン海軍のF-100型ことアルバロ・デ・バザン級は、輸入品のイージス武器システム一式をそのまま載せている。
しかしボニファス級では、指揮管制の部分に自国の製品を入れることができた。これも、機能の切り分けが進んでいる昨今のイージス武器システム、それと単独でレーダーとして機能できるAN/SPY-7(V)2を組み合わせたおかげといえる。
それにより、自前の技術を持っておきたい、自国の産業基盤も維持したい、というスペイン側の希望を実現できることになった。
産業基盤の維持については2024年7月24日に、「ロッキード・マーティンがスペイン企業3社に対して、スペイン向けのAN/SPY-7(V)2で使用するコンポーネントを発注」との発表もあった。実は、スペインのメーカーはAN/SPY-1レーダーでもコンポーネントの製造に参画した実績がある。
つまりスペインは、レーダーと指揮管制システムの双方について、自国のメーカーを参画させることができたわけだ。システム一式をまるごと輸入するのと比べれば、いくらかは自国のメーカーにおカネを落とせる。
独自仕様のためにI/Fを用意するカナダとオーストラリア
カナダ海軍がCSC(Canadian Surface Combatant)計画の下で建造するリバー級は、指揮管制の中枢としてイージス武器システムを使う。そこにAN/SPY-7(V)3レーダーを組み合わせる。
AN/SPY-7(V)3は、スペイン向けのAN/SPY-7(V)2よりもひとまわり小型で、そこに組み込まれるサブアレイ・スイートの数も少なくなる。その代わり、小型軽量にまとめられる。
リバー級の特徴は、イージス武器システムと、そこに組み合わせる武器の間を取り持つインタフェースとして、CTI(Canadian Tactical Interface)を介するところ。CTIの開発はロッキード・マーティン・カナダの担当で、CMS330(Combat Management System 330)指揮管制システムを利用して実現する。
こうすることで、カナダが自国のニーズに合わせて選択した武器を組み合わせる際に、中核となるイージス武器システムをいじらなくても済むようにしている。
そのカナダのリバー級とともに、BAEシステムズのGCS(Global Combat Ship)をベースとする艦として、オーストラリア海軍のハンター級がある。
そのハンター級もまた、イージス武器システムを中核とするが、レーダーは国産品のCEAFARを使う。そしてやはり、オーストラリアが独自に選定した武器(CEAFARレーダーも含む)とイージス武器システムの間を取り持つインタフェースを用意する。
ただしこちらは、ロッキード・マーティンではなくサーブの担当で、サーブの9LV指揮管制システムを利用してインタフェース機能を実現することになっている。
イージス武器システムのブラックボックス化
カナダやオーストラリアの事例では、ロッキード・マーティンが手掛けるイージス武器システムが、いわばブラックボックス化する。
普通なら、独自に選定した武器を組み合わせるためにはイージス武器システムの側に手を加えなければ、という話も起こり得るが、そうすると開発と試験の工数が増える。それにアメリカ側からすれば、手を加えるためにはイージス武器システムに関する情報開示を求められることになり、それはあまり面白い話ではない。
それに加えて、他国で手を加えた独自のプログラム・コードが入ってくると、CSL(Common Source Library)によるソフトウェア一括管理の恩恵に浴するのが難しくなる。CSLは米海軍のイージス戦闘システムで使用するプログラム・コードしか管理しておらず、他国でいじったコードの面倒までは見てくれないだろう。
そこで、外部の武器との間にインタフェースを配して、仲介機能をそちらに押し付けて(?)しまえば、イージス武器システムの中核部分はハードウェアもソフトウェアも、米海軍向けと共通仕様にできる。
我が国のイージス・システム搭載艦(ASEV : Aegis System-Equipped Vessel)では、他の兵装を接続するための独自インタフェースを用意することはないようだ。そして、ASEVもCSLによる一括管理の対象になると説明されている。
レーダーとイージス武器システムの中核部分が切り離されていれば、レーダーに何を使おうが、イージス武器システムの側はCSLの管理対象にできる理屈。
CSLで面倒を見てもらえるかどうかは大事な話だ。機能の追加や拡張だけでなく、バグフィックスにも関わってくるからである。米海軍で検証済みの、最新のプログラム・コードを取り込むことができれば、より信頼できるシステムができる。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。