8月22日に、イタリア海軍の空母「カヴール」と、カルロ・ベルガミーニ級フリゲート「アルピーノ」が横須賀に来航した(出航は27日)。イタリアの軍艦を生で見るのは、昨年の「フランチェスコ・モロスィーニ」に続いての出来事。そして今回もまた、搭載する艦載兵装に着目してみた。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • 空母「カヴール」。F-35BやAV-8Bの発艦をアシストするためのスキージャンプを備える。そのスキージャンプの下をえぐって設置した遠隔操作式の機関銃や、艦首中央のECM装置も明瞭に見て取れる 撮影:井上孝司

  • FREMMフリゲート「アルピーノ」。外見でお分かりの通り、2隻とも同じEMPAR多機能レーダーを備える 撮影:井上孝司

同じFREMMなのに中身はバラバラ

このカルロ・ベルガミーニ級、フランス海軍のアキテーヌ級ともども、FREMM計画の下で共同開発された艦ということになっている。ちなみにFREMMという頭文字略語は同じだが、イタリアではFregata Europea Multi-Missione、フランスではFrégates Européennes Multi-Missionsと違いがある。意味はどちらも「欧州の多任務フリゲート」。

たまたま今回、イタリアの2隻が来航している最中にアキテーヌ級の「ブルターニュ」も米海軍横須賀基地に寄港した。これらは同じ27日に立て続けに出航していったため、仏伊FREMMフリゲートの比較が容易になった。

  • こちら、仏海軍のFREMMフリゲート「ブルターニュ」。「アルピーノ」とは外見がまったく異なる 撮影:井上孝司

普通、同じ計画名称の下で共同開発した艦なら、搭載兵装が違っていても主船体や上部構造の基本ラインは似ているものだ。ところがFREMM計画の場合、搭載兵装はバラバラ(これは各々、自国メーカーの製品を使いたいから仕方ない)、主船体のラインも上部構造の形態もバラバラ、機関の構成もバラバラ。一体どこが同じなんだろうかと不思議に思うところではある。

EMPARは回転式パッシブ・フェーズド・アレイ・レーダー

今回、横須賀に来航したイタリアの2隻はいずれも、個艦防空用の兵装としてMBDA製のアスター艦対空ミサイルを搭載しており、それを自国製のEMPAR(European Multi-function Phased Array Radar)という多機能レーダーで管制している。

このEMPARは、近年になって登場した多機能艦載レーダーとしては珍しいパッシブ・フェーズド・アレイ・レーダーで、しかも回転式。球形の構造物が回転するが、その中に送信管と平面のアンテナ・アレイが納まっている。このレーダーまわりの外見は、なにやら「テルテル坊主」を思わせるものがある。

EMPARの直下に、四角いアンテナらしきものを取り付けた構造物があるが、その正体はよく分からない。何らかのアンテナに見えるが、電子戦装置は別にある。その下方に円筒を断ち割ったようなブツが並んでいるが、これはIFF(Identification Friend or Foe)ではないかと思われる。

搭載する電子戦装置はMM/SLQ-750といい、ESM(Electronic Support Measures)アンテナは、煙突の後方に立てたマストに取り付けられている。ECM(Electronic Countermeasures)については後述する。

ここまでの一式は、カルロ・ベルガミーニ級だけでなく、「カヴール」も同じものを使っている。艦種は異なるが、共用できるものは共用して合理化するとともに、生産数量の増加につなげていることになる。

ユニークなECMアンテナの配置

カルロ・ベルガミーニ級で面白いのは、MM/SLQ-750電子戦装置のうちECMアンテナの配置要領。日米の艦だと上部構造物の側面に、左右に向けて設置するのが一般的だが、カルロ・ベルガミーニ級は異なる。

まず、EMPARが載っている前檣の前面に1つ、それから上部構造物の後端、ヘリ格納庫付近に1つ、それぞれECMのアンテナが置かれている。ただし後者は首尾線上ではなく、左舷側の角についている。この位置だと右舷側をカバーするのは難しく、実際、アンテナ一式は左斜め後方を向いているようである。

  • 「アルピーノ」を左斜め後方から。中央にそそり立っているのがEMPARなどを取り付ける前檣。ECMは右下の隅、上部構造物を切り欠いて斜め後方向きに設置してある。それより少し左、後檣の真下あたりにデコイ発射機がある 撮影:井上孝司

する右舷側に死角ができるのではないかと思うが、そこはちゃんと考えられている。前檣に付いているECM装置をよくよく見ると、右斜め前方を向いているのである。つまり「左舷の真横と右舷の真横」ではなく「右斜め前方向きと左斜め後方向き」を組み合わせて全周をカバーしていることになる。

ちなみにフランスのFREMMフリゲートでは、電子戦装置は素直に左右両側面に向けて設置している。

  • こちらは前檣。煙突の左側に設けられた張り出しにECM装置が載っているが、よく見ると右斜め前方を向いているのが分かる 撮影:井上孝司

艦尾側のECM装置を首尾線上に設置しようとすると、近接防御用の76mmスーパー・ラピッド艦載砲と場所の奪い合いが発生する。そこで、艦載砲の射界確保を優先してECMを左舷にずらし、結果としてこういう形になったのではないかと推察するが、真相やいかに。

その他のいろいろ

チャフ発射機はレオナルド製のODLS(OTO Decoy Launching System)で、3段×5列の15連装旋回式発射機になっている。広い範囲にチャフをぶちまける観点からすると、アメリカ製のMk.137みたいに角度をずらした複数の発射筒を並べる方が有利だが、旋回式にすると特定の方向を指向するには具合が良さそうだ。考え方の違いというべきか。

ちなみに「カヴール」の方はどうかというと、ECMアンテナのうち片方は艦首の飛行甲板直下・ど真ん中に、もう一つは艦尾の右舷寄りに設置しており、いずれも首尾線方向を向いている。チャフ発射機は飛行甲板の艦首寄り・左右に設置している。

小艇対策として遠隔操作式の機関銃を搭載するのは、「アルピーノ」も「カヴール」も共通。ただし、「アルピーノ」では素直に、艦橋後方の上部構造物左右に設置している。それに対して、「カヴール」では前方向きの機関銃を、スキージャンプ先端部の下をえぐって設置していた。これはちょっとビックリした。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。