水中戦(underwater warfare)の双璧といえば、対潜戦(ASW : Anti Submarine Warfare)と機雷戦、対機雷戦(MCM : Mine Countermeasures)である。ASW分野における「統合化したシステム」の話は、すでに水上艦と潜水艦の双方について取り上げた。ではMCMの方はどうか。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • さまざまな掃海・掃討装備を備えている掃海艇も、実は任務遂行のための指揮管制システムを備えている 撮影:井上孝司

そもそものMCMの流れ

MCMとは「敵軍が敷設した機雷を見つけ出して無力化する」作戦行動の総称である。

機雷を設置形態の観点から大別すると、浮遊機雷(海面にプカプカ浮いている)、係維機雷(海底に設置した機雷函と索でつなぐ形で、海中に設置する)、沈低機雷(海底に設置する)の三種類がある。

浮遊機雷は目視できる可能性があるが、後の二種類は海中にいるから、別の方法で探さなければならない。

係維機雷を探す方法

係維機雷の場合、掃海艇が掃海具を曳航しながら対象海面を走り回り、係維索を切って浮上させるのが主な対処となる。浮上してしまえば浮遊機雷と同じように、銃撃処分で破壊できる。

近年では、係維機雷のように海面に近いところにいる機雷を、海中に透過するレーザー・ビームで走査して回る、AN/AES-1 ALMDS (Airborne Laser Mine Detection System)みたいなメカもある。

沈低機雷を探す方法

それと比べると、海底に鎮座している沈低機雷は厄介だ。そもそも海底はまっ平らではなく凸凹しているし、ゴミや沈船やその他のあれこれも海底にころがっている。そんなところに埋もれている機雷を見つけ出すのは簡単ではない。

そこで機雷探知ソナーが登場して、沈低機雷らしき物体を探し求めることになる。小さな機雷を見つけ出すには分解能の高さが求められるので、可聴周波数より高い、いわゆる超音波を使用するのが一般的。高解像度のソナー映像を得るために、合成開口ソナー(SAS : Synthetic Aperture Sonar)を使用する事例も出てきている。

ともあれ、MCMにおける捜索のプロセスは、「機雷らしき物体の存在」を示す位置情報、あるいは映像の形で得られるのだと分かる。それが本物の機雷であると確認できたら、ダイバーが潜って行ったり、遠隔操作式の機雷処分具で処分爆雷を仕掛けて爆破したり、あるいは使い捨ての自航式処分爆薬で爆破したりといった仕儀になる。

  • 近年では、小型の無人潜水艇(UUV。写真はコングスベルク製のHUGIN)に機雷探知ソナーを搭載して、対象海面を走り回らせる形が増えてきた。収集したデータを取り込んで解析するとともに任務計画を立てるには、指揮管制システムの助けが欲しい 撮影:井上孝司

MCMのシステムを統合化するとしたら? そのメリットは?

MCMの分野でも、「指揮管制システム」は存在する。その中でも広く知られているのが、BAEシステムズのNAUTIS(Naval Autonomy Tactical Information System)ではないだろうか。

BAEシステムズの説明によると、「NAUTISは、洗練されてきた機雷の脅威に立ち向かうためのシステム。任務を有効に遂行するために、関連するプラットフォーム機材や戦闘システムを管制する」となっている。

沈低機雷は海底の凸凹に紛れ込んでしまうので、まず本物の機雷を見つけ出すのが難しい。すると、もしも可能であれば、「機雷らしきもの」の一群から本物の機雷を選り分けるための支援機能が欲しい。これからは人工知能(AI : Artificial Intelligence)の活用という話も出てくるだろう。

しかも機雷はサイズが小さいから、位置を精確に把握しないといけない。それができないと、機雷処分具や自航式処分爆薬が迷子になる。すると、掃海艇や掃海艦の航法システムと連接して、艦艇を正しい場所に導く仕掛けが必要になると思われる。

幸いにも、敷設された機雷は動かないから、「モタモタしていたら逃げ出してしまう」なんていうことはない。しかし、戦時の水路啓開や上陸作戦の前の前駆掃海ではスピードが求められるから、「どれとどれを優先的に排除する」といった任務計画立案も大事になる。

すると、捜索~位置標定と識別~任務計画の立案~爆破・掃討というプロセスを一元的に管理して、任務遂行を支援するシステムがあるに越したことはない。ソナーなどの探知手段と、機雷処分具や自航式処分爆薬がバラバラに動くのではなく、連接してデータを受け渡しする方が、間違いは減るだろうし、効率的でもあろう。

COBRAとMEDAL

実際、米海軍が沿海域戦闘艦(LCS : Littoral Combat Ship)用のMCMミッション・パッケージに組み込んだCOBRA(Coastal Battlefi eld Reconnaissance and Analysis)は、機雷の捜索とデータ解析を一元的に実施する仕掛けになっている。

センサーはMQ-8Bファイアスカウト無人ヘリに搭載、これが捜索を実施して、得られたマルチスペクトラル映像をストレージ(DSU : Data Storage Unit)に保存して持ち帰る。そのデータをMEDAL(Mine Warfare Environmental Decision Aids Library)に取り込み、状況認識を実現する。そして、MEDALで解析したデータを、機雷を破壊するためのプロセスで活用する。そんな流れになっている。

  • これがMQ-8Bファイアスカウト。LCS「コロナド」のヘリ格納庫で 撮影:井上孝司

MEDALは「MCMに際して意志決定を支援するためのライブラリ」と説明される。このMEDALを手掛けているメーカーは、SAIC(Science Applications International Corp.)。米海軍だけでなく海上自衛隊でも、MCH-101ヘリコプターと組み合わせて使用するためにMEDALを導入しているという。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第4弾『軍用レーダー(わかりやすい防衛テクノロジー)』が刊行された。