ここまでは基本的に、水上戦闘艦、空母、揚陸艦などといった大型艦艇の話を主体にしてきた。これは、多種多様な電測兵装を載せているので「ネタ」が多い、という理由が大きい。しかし、艦艇といっても大形艦ばかりではない。いわゆる小艦艇もいろいろある。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照。
ミサイル艇の場合
例えば、ミサイル艇。艦対艦ミサイルを搭載して敵艦に忍び寄り、ミサイル攻撃を仕掛けて三十六計。と、そういう仕事をするフネである。「艇」というぐらいだから、そんなに大きなものではない。小さいもので何十トン、せいぜい数百トンぐらいの排水量になろうか。
幸い、ミサイル艇なら手近なところにあって、海上自衛隊の「はやぶさ」型がそれ。外見は普通のフネっぽいが、高速航行に適した船形と、ガスタービンで駆動する3基のウォータージェット推進器により、最大速力44kt(81.4km/h)を発揮できるとされる。
搭載兵装は76mm単装砲が1基と、90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)が4発。では、これらを操るためにどんな電測兵装を備えているか。
方位盤やレーダーを装備
まず、76mm砲の射撃指揮に使うのが、FCS-2-31C方位盤。現物の写真を見ると、レーダー・アンテナの横に光学センサーが付いているようにも見える。その前方に、OAX-2赤外線センサー・ターレットが付いている。
レーダーは、対水上レーダーのOPS-18-3と、航海用レーダーのOPS-20が載っている。電子戦関連は、逆探知用のESM(Electronic Support Measures)としてNOLR-9B、それとデコイ発射機が6連装のMk.137。観艦式のときに、後者を使ってフレアを撃つ場面が有名だ。
さて。こうしてみると「何かが足りない」と思われそうである。そう、ミサイル艇には対空用のレーダーが載っていない。理屈の上では、76mm砲は対空射撃も可能と思われるが、まず脅威の接近を知り、そちらに方位盤を指向しなければ、仕事にならない。
割り切った運用だから電測兵装
こうしてみると、ミサイル艇の搭載兵装も電測兵装も、基本的に対水上戦闘しか考えていないように見受けられる。そもそもミサイル艇とは、そういう「割り切り」の産物なのだ。
艦型を小さくまとめて隠密性を高めるとともに、数をそろえる。そして、対艦戦闘に的を絞った打撃力を持たせる。敵の捜索・探知まで自前でやるとは限らず、まず他の水上艦や哨戒機で広域捜索を行い、データリンクで情報をもらう。
そして「戦機到来」となったら韋駄天にモノをいわせて迅速に接敵、対艦ミサイルを浴びせてスタコラサッサというわけだ。
そういう運用構想なら、そこに的を絞った電測兵装に限定するのは当然となる。
掃海艇の場合
電測兵装という観点からすると、もっと割り切っているのが掃海艇。通信関連のアンテナを別にすると、後は対水上レーダーしか持っていない。レーダーは、掃海任務のためというよりも、行合船との衝突回避がメインであろう。なにしろ掃海艇の主敵は機雷であって、これは海中あるいは海底にいるから、レーダーでは捜索できない。
それに、掃海艇が「仕事」をする海面に、他の行合船がウヨウヨしているものだろうか。機雷が敷設されている、あるいはその疑いがある海域に近寄りたいという船乗りはいないだろう。すると、行合船との衝突回避は、任務担当海域との間を行き来する場面がメインになると思われる。
掃海艇の搭載兵装といえば、掃海(機雷を騙して起爆させる)あるいは掃討(機雷を見つけてひとつずつ破壊する)のための機材いろいろ。あと、海面に浮上している、あるいは係維索を切って浮上させた機雷を破壊するための機関砲。これだけである。
機関砲のターゲットとなる機雷は目視できるぐらい近くだし、航空機やミサイルみたいに高速で動くわけでもない。それなら手動の砲側照準で用が足りそうだが、より確実を期す、あるいは夜間のことを考えると、電子光学/赤外線センサーぐらいは欲しいかもしれない。
もちろん、掃海という面倒で辛気臭い任務を支援するために、管制のためのコンピュータ・システムは持っている。ただ、さまざまな軍艦の中でも電測兵装との縁が薄いのが掃海艇である、とはいえよう。
ただし今後、機雷掃討にUSVを多用するようになった場合には、水上を航行するUSVを遠隔管制したり、USVが持つセンサーからデータを受け取ったりするための通信手段が増えそうだ。
その他の小艦艇の場合
その他の小艦艇というと、何が挙げられるだろうか。
ということで、揚陸艇。揚陸艦と陸地の間を行き来するだけで、外洋航行能力は求められていないといえる。それでも、衝突回避用の航海用レーダーぐらいは備えているし、揚陸艦などとやりとりするための通信機も持っているはずだ。しかし、その程度で済んでしまう。その辺の事情は、港湾や近海の警備を担当する哨戒艇も似たり寄ったり。
この手の小型艦艇は、前述したように電測兵装といっても通信機のアンテナと航海用レーダーぐらいしか持たないことが大半なので、マストの構造もシンプルになる。レーダーは上部構造物の上に載せて、通信用のアンテナはシンプルな棒檣を立てて済ませてしまうことが多いようだ。それで済むなら、その方が軽くなる上に重心も上がらないので好ましい。
著者プロフィール
井上孝司
鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第3弾『無人兵器』が刊行された。