今回も前回に引き続き、米国マサチューセッツ州アンドーバーにある、レイセオン・テクノロジーズのレイセオン・ミサイルズ&ディフェンス部門レイセオン・ミサイルズ&ディフェンスを訪問した時の話を。ITと関係なさそうで、実は関係は大ありという話題である。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

CSISのトーマス・カラコ氏とディスカッション

実は今回の訪問では、戦略国際問題研究所(CSIS : Center for Strategic and International Studies)において国際安全保障プログラムのシニアフェローを、そしてミサイル防衛プロジェクトのディレクターを務めている、トーマス・カラコ(Thomas Karako)氏とのディスカッションが、日程に組み込まれていた。

ミサイル防衛プロジェクトのディレクターということで、ミサイル防衛関連のお話が主体になったが、そこで出てきたキーワードの一つが、タイトルにある “interchangeability”。

軍事の業界では、相互運用性(interoperability)という言葉なら耳にタコができるほど出てくる。また、特に情報通信絡みの話になると、相互接続性(interconnectivity)という言葉も頻出する。この両者はそれぞれレイヤーが異なり、「相互につないでやりとりができるかどうか」が相互接続性、その上で「相互に連携して運用できるかどうか」が相互運用性、という関係になる。

そこで「隣の友軍と同じものを使うのが相互運用性である」といってしまうと話を矮小化しすぎではないかと思うが、その話は措いておくとして。

では、“interchangeability” とは何か。change は「交換」のことだ。すると、“interchangeability” を直訳すると「相互交換性」、意味としては「モノを相互に交換できるかどうか」という意味だと解釈できる。では、防衛装備品の分野において「相互に交換できる」とはいったい何か。どうしてそういう話が出てくるのか。

弾がないのが玉に瑕、という大問題

どんなに高性能のウェポン・システムでも、撃つ弾がなければ役に立たない。レーザー兵器が強いのはそこで、ソリッドステート・レーザーであれば、電力さえあれば撃ち続けることができる。ところが、砲熕兵器や誘導弾(ミサイル)は、そうは行かない。

  • 陸上自衛隊の広報センターに展示されている120mm戦車砲弾。銃砲弾やミサイルは消費量が多いだけに、継続的に補給するための配慮が求められる 写真:井上孝司

巡航ミサイルでも対艦ミサイルでも対空ミサイルでもいいが、同じ価値観を共有して同盟関係にある各国で、各々独自の装備を開発・製造・配備していたとする。すると、手持ちの弾を撃ち尽くした場合にどうなるか。同じものを製造して取得しなければ補充が効かない。

NATOみたいな体制の下、同盟関係にある各国が連合作戦を実施しているときに、その中にいるどこかの国の軍で「弾切れ」が起きたら……各国が各々独自の弾を使用していたのでは、「隣の友軍から借りてくる」というわけにはいかない。

小銃弾の分野では、かつてなら7.62mm×51 NATO弾、今なら5.56mm×45 NATO弾という共通規格がある。NATO加盟各国で使用する自動小銃や軽機関銃はたいてい、これらの弾を使用する設計になっている。それなら、もしも弾切れが生じたとしても「隣の友軍から借りてくる」ことができる。

銃弾や砲弾の場合、単に口径が同じというだけではダメで、弾を装填する薬室の物理的形状も問題になる。弾が決まれば薬莢の形状も決まるわけだから、銃や砲の側がそれに合わせた形状になっていなければ装填すらできない可能性が出てくる(逆に、余計な隙間ができることもあり得る)。これでは撃てるかどうか以前の問題となる。

ただし、物理的な外形の話だけでは終わらない。同じ7.62mm×51弾でも、反動を抑えるために装薬の量を減らした減装弾を使う前提で設計した自動小銃では、通常仕様の7.62mm×51弾は撃てない。それでは「隣の友軍から弾を借りてくる」ことはできない。

それでもまだ、銃砲の場合はまだしも、関わる要素は少ない。これがミサイルになると、さらに関わる要素が増えるし、「軍事とIT」の要素も入ってくる。

誘導弾を撃つときに関わる要因は多い

分かりやすいところでは、まず発射機がある。ミサイルは発射機に装填して撃つものであるから、まずそれができなければ話にならない。同じ発射機でさまざまなミサイルを撃つことができれば、運用上の柔軟性は向上する。

物理的に収まるかどうか、ミサイルを発射機に固定するレールやサスペンション・ラグの規格がそろっているか。発射機の形態によっては、外形や外寸も問題になる。フィンやウィングのサイズが大きすぎて入りませんでした、ということも起こり得るからだ。

もちろん、発射の指令を受けてエンジンを始動したり、ロケット・モーターに点火したりするためのアンビリカル・ケーブルを接続する必要があるから、それの互換性も問題になる。コネクタの形状やピン配置が違うとか、電気的特性が違うとかいうことでは具合が悪い。

  • ミサイルを撃つ際には、ミサイル本体と射撃指揮システムを接続して “会話” ができるようにする必要がある。これも “interchangeability” に関わる要素の一つ 撮影:井上孝司

さらに、ミサイルを撃つ際には射撃指揮システムが関わるから、射撃指揮システムとミサイル本体の誘導制御システムの間で「会話」ができないといけない。コンピュータ・ネットワークの7階層モデルと同じで、物理的な接続手段・電気的特性といった下位レイヤーの話に始まり、その上でデータや指令をやりとりする上位レイヤーの話も関わってくる。

もちろん、ミサイルの誘導制御システムが必要とする情報をすべて、射撃システムが与えることができなければ仕事にならない。また、ミサイルがデータリンク機能を備えていて、撃った後も射撃指揮システムとの間でやりとりを続けるのであれば、そちらの相互接続性・相互運用性も問題になる。

こうした要件をすべて満たすことで初めて、“interchangeability” の実現に向けた道筋がつくわけだ。と書き連ねていたら話が長くなってしまったので、続きは次回に。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載が『F-35とステルス技術』として書籍化された。