前回は、米海軍がA2AD(Anti-Access, Area Denial)を掲げる中国などへの対抗策として推進している新たな戦闘概念、分散海洋作戦(DMO : Distributed Maritime Operations)の概要について取り上げた。今回はその続きで、DMOで「無人モノ」をどう使うか、という話を取り上げる。

USVの武装化

各種無人ヴィークルのうち、無人航空機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)の分野では、もう20年ぐらい前から武装化の事例がある。

これはISR(Intelligence, Surveillance and Reconnaissance:情報収集・監視・偵察)用途のUAVに空対地用の兵装を搭載することで、発見したターゲットをその場で攻撃できるようにしたい、というニーズを受けたもの。ときどき勘違いされているが、機上コンピュータが勝手に意思決定して交戦しているわけではなく、地上にいるオペレーターが交戦規則に則って状況を確認した上で、兵装発射の指令を出している。

一方、海の上ではUSV(Unmanned Surface Vehicle)があるが、UAVと比べると武装化の事例は少ない。港湾警備用に、遠隔操作式の機関銃を搭載した事例はあるが。

ところが最近、この分野でもさらに長い “槍” を搭載する事例が出てきた。それが、米海軍が2020年に、実証試験用のUSVプロトタイプ「レンジャー」を用いて実施した実証試験。この試験では、「レンジャー」の後甲板に4セルの発射機を搭載して、RIM-174 SM-6艦対空ミサイルを試射した。

  • ミサイル防衛庁と米海軍がミサイル防衛テストとして、USS ジョン ポール ジョーンズからSM-6艦対空ミサイルを発射している様子 写真:MDA

ただし「レンジャー」が備えているのは発射機だけで、目標に関するデータや発射の指令はは外部から受け取っている。なにしろ無人だから、艦上で誰かが射撃指揮や発射の指令を担当するわけにはいかない。

前回にも書いたように、DMOの基本的な考え方は「センサーと兵装を物理的に分散配置しつつ、それらをネットワーク経由で協調させて、一体のものとして交戦させる」というもの。その「物理的に分散配置」するプラットフォームとして、巡洋艦、駆逐艦、フリゲートといった水上戦闘艦だけでなく、もっと安価なUSVも使おうという話になる。

  • 米海軍では、民間向けの補給支援船を改造して無人化、実証試験に充てている。広い後甲板は、さまざまなペイロードを載せるのに具合が良い 写真:US Navy

頓挫したアーセナル・シップ構想

実は、ミサイル発射機だけ搭載したフネを用意して、目標に関するデータや発射の指令はは外部から受け取るアイデアが出たのは、これが最初ではない。米海軍で20世紀の末に、「アーセナル・シップ」という構想が出たことがある。アーセナルといってもサッカーのチームとは関係なくて、文字通り「武器庫」という意味だ。

アーセナル・シップは、1隻で数百発のミサイルを搭載できるだけの垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)を装備するが、射撃指揮システムや指揮管制システムは持たない。それらは他の水上戦闘艦に依存しており、アーセナル・シップは指令を受けてミサイルを発射するだけである。その分だけ艦のお値段は安くなるし、乗組員も少なくて済むとの構想だった。

冷戦崩壊後、非対称戦とか不正規戦とかいう言葉が大手を振っていた時代のことだから、洋上の艦隊に対する脅威要因は大きくないと考えられた。すると、1隻のフネに多数の兵装を集中する(英語圏ではこれを、“1つのバスケットに多数の卵を入れる” という)ことに起因する脆弱性は、あまり考えなくてもよかったのだろう。

ところが、こうしたコンセプトに対する疑問の声があり、さらに議会が予算をつけなかったこともあって、アーセナル・シップ構想は頓挫した。

アーセナル・シップとLUSVの根本的な相違

USVにミサイル発射機を載せるという点だけ見れば、今回のUSV武装化はアーセナル・シップの再来に見える。しかし根本的に異なるのは、アーセナル・シップみたいに大量のミサイルを搭載するつもりはないこと。それでは “分散” の考えに反する。1隻のフネに200発のミサイルを積むよりも、20隻のフネに10発ずつミサイルを積む方が、DMOの考えに適う。

そのフネも、アーセナル・シップでは専用設計のものを建造するつもりだったが、それではコストもリスクも上昇する。試験で使用しているプロトタイプは既存の有人船を改造したものだが、量産の際にもおそらく、既存の有人船の設計を活用することでコストとリスクの低減を図るのではないだろうか。喪失しても諦めがつきやすいのは無人ヴィークルのメリットだが、コストが高くなると諦めがつきにくくなってしまう。

すると、以前にBAEシステムズのADL(Adaptive Deck Launcher)を紹介した際に書いたように、船体内に食い込む部分がなく、甲板に載せるだけで済むミサイル発射機を使う方が具合が良い。実際にLUSVでADLを使うかどうかは分からないが、BAEシステムズが売り込みを考えていても不思議はないだろう。

それに、ミサイル搭載数を抑えてコンパクトにまとめると、コストの低減だけでなく隠密性の向上につながるとの期待も持てる。レーダー探知の可能性はあまり下がらないかもしれないが、目視や電子光学センサーによる探知の可能性は下がる。

名称に “Large” と付くものの、米海軍が構想しているLUSVの排水量は1,000-2,000t程度。それを多数、分散して送り込めば、いちいち捜索して狩りたてるのは相応に手間がかかる。

すると、有人の水上戦闘艦は後方に配置しておき、LUSVを敵地に近いところまで突っ込ませる。そして、そこから協調のとれたミサイル攻撃を仕掛ける。といった話になると想像される。それを実現する際の鍵は、「自律制御と、行合船との衝突を回避するための操船制御」「協調を実現するための鍵となる、信頼性が高いネットワーク」ということになる。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。