2023年3月9日、カーネギーメロン大学は、金属のような導電性と自己修復特性を持つ不思議な素材の開発に成功したと発表した。では、この不思議な素材が持つ強みどのようなものだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

  • このカタツムリロボットには、導電性と自己修復特性を兼ね備える導線が用いられている。この導線は、1度ハサミで切断されても、手動でくっつけることで導電性を回復するという

    このカタツムリロボットには、導電性と自己修復特性を兼ね備える導線が用いられている。この導線は、1度ハサミで切断されても、手動でくっつけることで導電性を回復するという(出所:カーネギーメロン大学)

金属のような導電性と自己修復特性を持つ素材とは

カーネギーメロン大学のCarmel Majidi教授は、金属のような導電性と自己修復特性を持つ新素材の開発を発表した。ではこの新素材とは、いったいどのようなものだろうか。

実はこの素材、簡単に言えば液体金属を充填したオルガノゲルの複合材料だという。オルガノゲルとは、ゲルのなかでも有機溶媒をもつものを指す。この素材はとても不思議な性質を持ち、ハサミなどで切断したとしても、切断された素材同士を密着させてあげれば自動的に回復していくのだ。

その様子の動画があるのでぜひご覧いただきたい。動画では3つの事例が紹介されている。

導電性と自己修復性を兼ね備えた新素材を用いた実験映像(出所:カーネギーメロン大学)

1つは、新素材にバッテリとモータを接続することでできたカタツムリ型のロボットだ。その外部には、新素材を活用した導線が露出されている。このロボットがゆっくりと動いている途中に、ハサミでこの外部に露出している素材をハサミで切断すると、当然だがロボットはゆっくりと減速し、速度は当初の50%以下まで低下する。しかしその後手動で材料を再接続すると、素材の自己修復特性によって、ロボットは電気接続を復元。通電が回復し、元の速度の 68%まで回復するという。

2つ目は、小さな車型ロボットでの実験。このロボットも同様に、新素材を介して受電し走行している。実験では、新素材の配線を切断し、その短くなった素材を手動で接続している。すると、電気回路上の自己発熱機能によって素材が回復し、通電が蘇ってロボットが再び動き出すのだ。これらの映像を見ると、デジタル電子機器などのデバイスをサポートするのに十分な、高い導電率を維持できる素材であることがお分かりいただけるだろう。

3つ目は、筋電図測定の事例だ。前腕部分とふくらはぎの部分それぞれに2箇所にパッチを貼りつけ、手を閉じたり開いたり、足首に力を入れたりした際の、筋活動の様子を測定している。通電性と共に柔軟性も高い新素材は、こうした動きが求められる場合でも精密な測定を実現するのである。

では、この素材はどのような点で役に立つのだろうか。まず上記の事例から、モビリティ分野や、健康・福祉の分野が挙げられる。もし何らかの不具合や事故などで断線した場合でも、自己修復による再通電が可能になるため、安全性や信頼性を高めることができるのだ。

そしてCarmel Majidi教授は、さらに壮大なことを考えている。それは、人工神経や人工筋肉の実現だ。その実現を目指す上で、新素材は柔軟性があるゲル状である点、そして自己修復特性がある点が強みとなる。このような柔軟性を活かしたロボティクス分野は、ここでは“Softbotics”と呼ばれている。このような技術は、ロボット工学を人の日常生活にシームレスに統合するテクノロジーとなるだろう。とても素晴らしい研究だと感じる。

2023年4月24日10時00分訂正:記事初出時、本文内のカタツムリのロボットに関する記述におきまして、「主導で材料を再接続」と表記しておりましたが、正しくは「手動で材料を再接続」となりますので、当該部分を修正させていただきました。ご迷惑をお掛けした読者の皆様、ならびに関係各位に深くお詫び申し上げます。