2022年10月26日、東京大学は紙の100倍以上の高い熱伝導性を有する木質バイオマス素材を実現したとのプレスリリースを発表した。この高い熱伝導性を有する木質バイオマス素材とは、一体どのようなものだろうか。また、どのようなメリットがあるのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

紙の100倍の熱伝導性を有する木質バイオマス素材とは?

東京大学の塩見淳一郎教授、東京都立産業技術高等専門学校の工藤正樹准教授、東京大学の齋藤継之教授、スウェーデン王立工科大学のLundell Fredrik教授、Söderberg Daniel教授らの研究グループは、紙の100倍以上の高熱伝導性を有する木質バイオマス素材を実現した。

では、この木質バイオマス素材とはどのようなものだろうか。塩見教授らの研究グループによると、木質バイオマスから得られるバイオ系ナノ材料であるCNFを、流体プロセスによって分子スケールで配向させながら酸を用いて固めた糸材が、セルロースナノペーパーなどの高熱伝導性を有する先端木質バイオマスの5倍以上、紙など従来の木質バイオマスの100倍以上の高熱伝導性を示すことを発見したという。ちなみに、CNFとはセルロースナノファイバー(Cellulose Nano Fiber)のことで、主に木などの植物から得られる、数十本のセルロース分子が配列して束になった結晶構造から構成される物質のことだ。

  • CNF糸の製造方法とCNF糸の断面拡大図

    CNF糸の製造方法とCNF糸の断面拡大図(出典:東京大学)

同研究グループは、これらのメカニズムを明らかにするべく、ラマン分光法や赤外線分光法を用いてCNF糸の化学構造、さらには糸内部の配向度、結合状態、結晶化度や残留応力を評価した。その結果、CNFの配向度が一定のレベルに達している条件において、CNF間を繋ぐ水素結合が多く、残留応力によって生じるCNF内の構造不秩序性が小さい方が、熱伝導率が高くなることがわかった。そして、CNF間の水素結合が多い方がCNF間の界面をフォノンが透過しやすく、CNF内部の構造の不秩序性が小さいほどフォノンが伝搬しやすいため、熱伝導率が高くなることもわかったという。

  • CNF糸の熱伝導率の計測手法とその測定結果について

    CNF糸の熱伝導率の計測手法とその測定結果(出典:東京大学)

では、この高熱伝導性を示す木質バイオマス素材にはどのようなメリットがあるのだろうか。

代表的な例として、放熱性能を要求される高分子材料の代替材へのCNF糸の活用が期待できるという。例えば、フレキシブルプリント基板。高放熱性能を有するプリント基板であることに加えて、従来のポリイミドなどのフレキシブルプリント基板に比べて再生処理が容易になり、環境負荷も低くなるメリットもあるのだ。

なお、同研究成果は、2022年10月25日(現地時間)に米国科学誌「Nano Letters」のオンライン版で公開されている。

いかがだっただろうか。実は、今回発表されたプロセスはまだ最適化されていないとのこと。今現在取り組んでいる流体プロセスを自動化し、さらに機械学習を交えて自律化するマテリアルズ・インフォマティクスによってプロセスパラメータを最適化すれば、さらなる性能向上が期待できるというから楽しみだ。