2022年10月24日、成蹊大学らの研究チームは、世界最高の超伝導臨界電流密度を有する薄膜線材を創製したと発表した。では、この世界最高の超伝導臨界電流密度を有する薄膜線材の創製とは、どのようなことだろうか。また、どのような社会を切り開くのだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

世界最高の超伝導臨界電流密度を有する薄膜線材とは?

成蹊大学大学院の三浦正志教授、東京大学大学院の前田京剛教授のグループ、加藤康之助教、山梨大学の關谷尚人准教授、ファインセラミックスセンターの加藤丈晴博士のグループ、東北大学の淡路智教授のグループ、ロスアラモス国立研究所のB.Maiorov博士とL.Civale博士らの研究チームは、すべての超伝導材料の中で最高の超伝導臨界電流密度を有する薄膜線材を創製したと発表した。

  • 超伝導臨界電流がYBa2Cu3Oy超伝導薄膜内を流れる様子

    超伝導臨界電流がYBa2Cu3Oy超伝導薄膜内を流れる様子(出典:成蹊大学)

では、この世界最高の超伝導臨界電流密度を有する薄膜線材とは、どのようなことだろうか。

超伝導電流を高めるためには、超伝導体内に侵入する量子化磁束の運動を抑制する磁束ピン止め点(非超伝導)粒子の導入が有効であることが知られている。また、キャリア密度が高いほど、多くの超伝導体の超伝導臨界電流密度が高くなる傾向がある。従来のY123(イットリウムいちにさん。超伝導体で液体窒素の沸点を超える転移温度を持つ)薄膜を作製する方法では、磁束ピン止め点を導入すると超伝導相の結晶性が低下し、また、ひずみが加わることによりキャリア密度が低下するという課題があった。そのためこれら両方を融合することが難しく、それぞれを独立に制御し特性向上を試みることになり、超伝導臨界電流密度は頭打ちとなっていたという。

そこで成蹊大学らの研究グループは、独自薄膜作製法を応用し、超伝導相に対してインコヒーレント(粒子との界面の結晶格子が不連続)非常伝導相のBaHfO3ナノ粒子を導入した。これにより、Y123薄膜の結晶性や格子定数にほぼ影響なく高密度な磁束ピン止め点を導入することに成功した。

そして、酸素雰囲気下熱処理を制御することでBaHfO3導入Y123薄膜のCuOチェーンに高密度酸素を注入することでキャリア密度を制御し、特に重要なパラメータである熱力学的臨界磁場の向上に成功した。この結果、世界で初めて前述した磁束ピン止め点の導入とキャリア密度向上の両立を実現し、超伝導電流向上に重要な各パラメータを向上させ、世界最高の超伝導臨界電流密度を達成したのだ。

なお、同研究成果は英国科学誌であるNature系の専門誌「NPG Asia Materials」にて2022年10月21日にオンライン掲載されている。

いかがだっただろうか。プレスリリースでは、超伝導臨海電流を有する超伝導薄膜線材が切り開く社会という図も公表されている。ACとDCの分類、産業ごとの分類などとてもわかりやすい興味深い社会像だ。これらに記載されているように、今回の研究成果は、液体ヘリウムを冷媒とした大型ハドロン衝突型加速器・核融合発電・分子構造解析に用いられる核磁気共鳴(NMR)装置・研究用磁気共鳴断層撮影(MRI)装置・医療用MRI装置やリニアモーターカーなどへの応用、そしてこれまで応用が難しいとされてきた液体窒素を冷媒とする超伝導電力貯蔵装置(SMES)、航空機用超伝導モーター、医療用MRI、発電機などへの活用が期待されるという。

  • 飛躍的に増大した超伝導臨界電流を有する超伝導薄膜線材が拓く社会

    飛躍的に増大した超伝導臨界電流を有する超伝導薄膜線材が拓く社会(出典:成蹊大学)