米国航空宇宙局(NASA)などは2022年7月12日、最新鋭の宇宙望遠鏡「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」が初めて撮影した画像を公開した。
その初画像はどんなものだったのか、なにが写っているのか、そしてそこからなにがわかるのか。世界中の天文学者が恋焦がれ、ついに目にすることができた画像を詳しく見ていきたい。
第3回では、リング状にガスが広がっている美しい惑星状星雲「南のリング星雲」を取り上げる。
「南のリング星雲」
まるでサンゴ礁や湖を上空から見たかのようなこの天体は、地球の南半球から見える「ほ座」の方向、約2500光年の距離にある「NGC 3132」と呼ばれる惑星状星雲である。その直径は約0.5光年と見積もられている。
惑星状星雲とは、太陽の1~8倍の質量をもった恒星が寿命を迎えたとき、つまり核融合の燃料がなくなり、白色矮星へと進化した際、周囲のガスを星間空間へ放出することでできた星雲である。散光星雲や暗黒星雲といった、他の多くの星雲が不規則な形をしているのに対し、惑星状星雲はリング状、円盤状に見えるという特徴をもつ。「惑星状」というのは、この天体を1835年に発見した英国の天文学者ウィリアム・ハーシェルが、天王星や海王星といった惑星に似ているところから名づけたもので、実際には惑星とまったく関係ない天体である。
南半球から見えること、またリング状に見える姿から「南のリング星雲(Southern Ring Nebula)」という愛称があるほか、リングが2つ重なっているように見えることから「Eight-Burst (8の字)星雲」とも呼ばれる。
このJWSTの画像は、NGC 3132をほぼ正面から見るようなアングルで捉えられている。もし真横から見ることができたとすれば、中央に大きな穴があり、そこに2つのお椀を底で合わせたような形でガスや塵が広がっていると考えられている。数千年後には、このガスと塵は周囲の宇宙空間に散らばってしまうことになる。
NGC 3132はハッブル宇宙望遠鏡も撮影したことがあるが、JWSTによる観測では中心部や周囲のガスや塵がより鮮明に見えている。中心部分には2つの恒星があることがはっきりと見え、とくに中間赤外線観測装置「MIRI」を使って撮影した画像(右)では、明るく輝く恒星が右に、その左にやや赤い恒星が左に並んで見えている。
この2つの恒星は連星をなしており、2つがそれぞれお互いを追いかけるように回り続けている。ガスや塵を吹き出している白色矮星は、このうち左の赤く写っている恒星のほうで、もう何千年もの間放出し続けている。
また、ガスや塵には少なくとも8層からなる殻のような構造も見える。これは、この恒星が定期的にガスや塵を放出した様子の痕跡である。放出されたガスや塵は、収縮し、加熱されるということを繰り返し、そしてあるところでそれ以上の物質を押し出すことができなくなり、脈動する。その痕跡が、このいくつかの殻なのである。
この画像からは、質量を失ったときになにが起きたかもわかる。たとえば画像の外側に見える最も幅の広いガスの殻は最初に放出されたもので、恒星に最も近いものは最も新しいものであり、こうした痕跡や、そこにどのような分子が存在するのかを調べることで、この星系の歴史を知ることができる。
NASAは「惑星状星雲は何万年も前から存在しているため、こうして観測することは、まるで映画をスロー再生で見るようなものです。恒星が放出した殻からは、その中に存在するガスや塵について、その寸法、大きさ、量を精密に測定することができます」と語る。
こうした恒星が物質の殻を放出すると、その中で塵や分子が形成され、恒星が物質を放出し続けている間にも風景が変化していく。この塵は周囲を豊かにしたあと、数千年後には恒星間空間に広がって散らばっていき、星間物質となる。塵は非常に長寿命なので、何十億年も宇宙を旅して、どこか遠くで新しい恒星や惑星に組み込まれ、その材料のひとつになることもある。
このような恒星の進化の後期における新しい発見は、恒星がどのように進化し、その環境を変えていくのかをよりよく理解するのに役立つ。
一方、明るいほうの恒星は、その進化の初期段階にあり、ガスや塵は出ていない。ただ、白色矮星の近くを回り続けることで、放出されたガスや塵を広げるのに役立ったと考えられる。また、かき混ぜるようにも作用し、へしゃげた8の字の非対称の模様を作り出している。この明るいほうの恒星もまた、将来的に寿命を迎えた際には惑星状星雲になるものとみられる。
また、近赤外線カメラ「NIRCam」の観測では、惑星状星雲の周りにひじょうに細い光の線が出ている様子も見える。これは、ガスや塵の隙間が開いているところから、中心の恒星からの光が漏れ出しているものだという。
NIRCamとMIRIは異なる波長の光を収集するため、画像を見比べると大きく違って見える。NIRCamは、私たちの目が検出する可視光の波長に近い近赤外光を観測できるが、MIRIは中赤外線という、可視光から遠く離れた波長を観測している。
この特性の違いがわかりやすいのが、ガスや塵を放出しているほうの恒星で、左のNIRCamの画像ではほとんど見えないが、MIRIの画像でははっきりと見えている。これは、MIRIが恒星の周囲のキラリと光る塵を見ることができるため、よりはっきりと写るからである。
また、恒星やその光の層は、NIRCamの画像でより明確に見えるが、MIRIの画像では塵、特に恒星から照らされている塵がよりよく目立つように写る。
さらに、星雲の周囲には明るい光の点が見えるが、そのほとんどは恒星ではなく、遠方銀河である。これもまた、JWSTの性能の高さを示している。とくに画像の左上には、ひときわ明るい線が見えるが、これはほぼ真正面から見た遠くの銀河である。
参考文献
・NASA’s Webb Captures Dying Star’s Final ‘Performance’ in Fine Detail | NASA
・Southern Ring Nebula (NIRCam and MIRI Images Side by Side) | ESA/Webb
・A Glowing Pool of Light: Planetary Nebula NGC 3132
・惑星状星雲 (VLBI用語集)