ITF World 2024にてTSMCのシニアバイスプレジデント(SVP)兼共同最高執行責任者(Co-COO)であるYuh-Jior Mii氏は、「半導体革新でより良い世界を築く」と題した講演を行った。

同氏は、半導体市場は、2030年までに1兆ドル規模にまで拡大することが業界のコンセンサスになっているとして、SK hynixのIlsup Jin氏のプレゼンテーションで提示されたものと似た図を提示。同社では、2030年時点での半導体カテゴリ別市場規模内訳として、HPC40%、モバイル30%、車載15%、IoT10%、その他5%とする予測を示したほか、AI向けGPUやスマートフォン(スマホ)向けSoCに搭載されるトランジスタ数が2020年代に入って以降、急速に増加しており、この傾向は今後も継続する見込みとした。

  • 半導体産業の市場規模の推移と2030年の1兆ドルに向けた成長予測

    半導体産業の市場規模の推移と2030年の1兆ドルに向けた成長予測 (出所:TSMC)

GAAの先を見据えたトランジスタ構造の開発を推進

また、同社のトランジスタ構造は、N28〜N22(28〜22nm、熊本のJASM第1工場でも採用される技術ノード)までは、従来からのプレーナー構造であるが、N16~N3(16nm~3nm)はFin FET構造に、N2(2nm)以降はナノシート構造(GAA:Gate-All-Around FET)が採用されるロードマップとなっており、露光技術もN7を境にArF液浸からEUVへと切り替えられている。

  • 半導体プロセス技術の変遷

    半導体プロセス技術の変遷 (出所:TSMC)

最先端となるN2以降に採用されるチャネル領域にシリコンナノシートを採用したGAA構造は、2025年後半からの量産開始を予定しているが、さらにその後の世代では、pチャネルFETとnチャネルFETを積層したCFET(Complimentary FET)が採用される見込みである。また、その先は、Beyond Si(チャネル材料としてSi以外の材料を採用)の領域で、現段階では2D TMD(2次元遷移金属ダイカルコゲナイド、具体的にはWS2、MoS2、WSe2など)やCNT(カーボンナノチューブ)が検討されているとする。

  • デバイス構造ロードマップ

    将来のデバイス構造のロードマップ (出所:TSMC)

今後の半導体の進化を支える先端パッケージング技術

同社では、顧客の要求や市場の需要に応じる形でチップあたりのトランジスタ数を増加させるためには、回路パターンの微細化によるモノリシックなダイレベルの集積度を高めるだけでは足りず、3次元シリコン集積や先進パッケージングの採用によるヘテロジニアス集積化も必要との見方を示しており、こうした技術を活用することで、パッケージあたりでトランジスタ数の増加を継続することができるとしており、そうした技術開発も推進している。

  • モノリシック集積とヘテロジニアス集積の進化の方向性

    モノリシック集積とヘテロジニアス集積の進化の方向性 (出所:TSMC)

そうしたパッケージング技術も、基板上に半導体パッケージを並べた「PKG to PKG on Board」(2次元実装)から、インターポーザー上にダイを並べた「Die-to-Die on Interposer」(2.5次元実装)、さらにはダイを縦方向に積層する「Die on Die」(3次元実装)、そして究極的な3D+2.5D構造の併用へと発展途上にあるとしており、今回、同社は近い将来のHPCやAI向け技術プラットフォームとして期待されている、シリコンフォトニクスを含む3D+2.5D実装の具体例を示した。

  • 3D ICを目指したパッケージング技術の進化の方向性

    3D ICを目指したパッケージング技術の進化の方向性 (出所:TSMC)

  • 近未来のHPCやAI向け技術プラットフォームのイメージ

    近未来のHPCやAI向け技術プラットフォームのイメージ (出所:TSMC)

車載分野にも注力するTSMC

同社では将来的には自動車にも先端プロセスを採用した半導体が必要になるとともに、半導体の搭載数そのものも増加し、半導体アプリケーション市場として存在感を高めるとみている。そうした次世代の自動車では、先端ロジックや先端パッケージングはもちろんのこと、RFデバイス、eFlash、MRAMやRRAMなども活用されることとなる。例えばCMOSイメージセンサは、走行中の物体検知能力の向上に向け、解像度や性能の向上と並行して搭載数の増加が期待できるとするほか、車載マイコンについても性能向上に対する要求からFinFETプロセスの世代に移行することが予定されている。さらに、eFlashをMRAMやRRAMに代替することでセルサイズの縮小といったことも可能となるとする。

  • 将来のクルマに搭載される車載半導体のイメージ

    将来のクルマに搭載される車載半導体のイメージ (出所:TSMC)

しかし、こうした車載用半導体には、民生用半導体とは異なり、欠陥ゼロ(Zero Defect)が求められるため、より堅牢で信頼性の高い設計ガイドラインと規格が必要となる。この課題解決には、自動車メーカーだけでは対処できず、幅広い協力が必要であるという。

  • 車載マイコンの進化による低消費電力化、高速化、セル縮小化について説明するMii氏

    車載マイコンの進化による低消費電力化、高速化、セル縮小化について説明するMii氏 (著者撮影)

なおTSMCは、長年にわたってimecの先進半導体コアプログラムの中心メンバーの1社として協業してきており、その関係性は今後も継続していくことを同氏は強調。imecでは、High-kゲート絶縁膜、FinFET、EUVリソグラフィ、ナノシート(Gate-All-Around FET)、裏面電源供給など、さまざまな最先端半導体用の技術開発が行われてきたことに触れ、TSMCをはじめとする産業界が、これらの研究成果をさらに6~12年かけて量産適用させてきたことに触れ、imecが現在、研究開発を進めているCFETや高NA EUVリソグラフィ技術(NA=0.55)の実用化についても協力して推進していくとしていた。

  • imecで生み出された半導体の研究開発成果

    imecで生み出された半導体の研究開発成果は6~12年ほどの時間をかけて産業界で実用化されてきた (出所:TSMC)