IHSディスプレイ産業フォーラムは今回、初めて日本のFPDメーカーの動向をトピックとして取り上げ、IHS Markitのデイスプレイ部門プリンシパルアナリストであるLinda Lin氏が講演を行った。

同氏は、まず総論として「日本のFPDメーカー(ジャパンディスプレイ(JDI)、シャープディスプレイ(シャープ)、パナソニックは主要顧客を1~2社に絞っているので、もしもその顧客からの注文が減るようなことがあるとビジネスは危機を迎えてしまう」と指摘した。暗に直近のAppleショックを踏まえての発言だと思われる。

また、「日本のFPDメーカーは、製造ラインを埋めるためにもっと多くの新たな顧客を開拓する必要がある。これが日本企業の2019年の緊急の課題である。新たな顧客を見つけ、財政が改善した後でも、それだけではなく、次世代ディスプレイ技術を先行開発して差異化を図るべきだ。これこそが日本企業が長く生き残る唯一の道だろう」と提言した。しかし、2017年第2四半期以降長期に赤字経営から抜け出せていないJDIを念頭に、「財政悪化により、新技術開発に十分な資金を確保できない恐れもある」とも指摘をしている。

  • 日本のFPDパネルメーカーの営業利益率推移

    日本のFPDパネルメーカー3社の営業利益率の推移 (出所:IHS Markit)

AppleショックのJDI  

スマートフォン向けLCDパネル出荷数量は、2017年に1.66億枚だったものが、2018年には1.24億枚に減り、2019年にはさらに減少することが予測されるが、具体的な数値までは現時点では予測しがたいと同氏は指摘する。

特にAppleのiPhone向け需要が期待より少ないため、それを頼みとしているJDIの茂原および白山のモバイル用G6ラインの稼働率は50%を割っていると推測され、極めて厳しい状況にあるといえる。

JDIはiPhoneにかわる新たな用途として、スマートミラー、ヘッドアップディスプレイ(HUD)、スーパーマーケット用ディスプレイラベル、VR、有機ELウオッチなどさまざまな用途への進出を計画しているが、いずれもビジネス規模が小さい。同社は、有機ELも手掛けようとしており1.57型あるいは1.78型のApple iWatch向けパネルを2019年第4四半期からAppleに納品しようとしているが、製造歩留まりが低く、いまのところAppleからの受注に成功していない。また、JOLEDの能美工場は2020年の稼働を計画しているが、まだ外部から十分な資金を集められてはいない。同社の有機ELの輝度は低く、車載用にはいまのところ向いていないようである。

産業・車載用に注力するパナソニック

パナソニックは、32型テレビパネルビジネスは利益が出ないことから、2019年初頭から製造を中止したという。2019年に入り、G8ラインの生産能力を1.5万枚/月から1.0万枚/月に減じたが、それでも第1四半期の稼働率は5割にとどまっている。同社は15.6型および14型ノートブックPC向けFHDパネルをそれぞれ2019年4月および6月に量産開始する計画だが、全体として、家電向けを脱し、産業向けや、車載向けに注力する方向にある。

在庫積み増しのシャープ

シャープも、パナソニック同様に32型テレビ向けパネルの製造を2018年11月に中止、最大90型に至る大型パネルのみに生産を絞っている。2018年末のテレビ向けパネルの在庫は、シャープが200万枚、鴻海精密工業が190万枚となっており、このため、堺工場の2019年第1四半期の稼働率は70%程度に低下している模様である。

鴻海・シャープ連合は中国に世界最大級のG10.5/11液晶工場を建設中で、現状、ほぼ完成し、2019年2月から来年はじめにかけて装置搬入を行う予定になっている。しかし、IHS Markitディスプレイ部門アナリストのRobin Wu氏によると、1月24日時点の有力FPD製造装置メーカーからの情報として、装置搬入が半年ほど延期される見込みだという。理由は不明だが、米中経済摩擦の影響というよりは、鴻海・シャープの社内在庫が増えてきて、中国工場稼働を急ぐ必要がなくなったためではないかとWu氏は見ている。

  • シャープ・鴻海の中国パネル工場

    シャープ・鴻海が中国広州に建設しているG10.5/11工場のレイアウト(右)と2018年11月15日時点の建屋写真(左)。上から順に液晶パネル製造棟(ほぼ完成)、カラーフィルタ製造棟(ほぼ完成)、ガラス基板製造棟(工事中)

またシャープは、AppleのMacbook Proの新モデルのおかげで、2019年に330万枚のノートブック向け液晶パネルをAppleに収めようとしている。これは、2018年実績の3.3倍であり、どのライバルよりの積極的な計画である。しかし、ここでもApple製品の需要低下が問題となっている。MacBook向けパネルの需要は2019年には前年比で32%低下するとIHSでは予測しているからだ。シャープのApple iPad向けパネルも減産を余儀なくされるだろう。このように、シャープのApple依存の液晶ビジネスはリスクになりつつあるといえる。

日本企業は"開発"が、台湾企業は"決算"が課題に

Lin氏は、台湾のFPDメーカについて、パネルの平均販売価格が原価割れする中、どうやって利益を確保するかが、最大の課題である。日本メーカーの課題を漢字2文字で表現すると「開発」であるが、台湾メーカーの課題は「決算」ということになる。つまり、台湾企業は、ハイエンドかつ付加価値の高い製品を開発し、コストダウンに努め、グループ企業が一体となってより多く受注するようにしなければ生き残れないとコメントした。

FPD市場でシェアを伸ばす中国

中国市場調査担当のWu氏によれば、中国のTFTアレイ(液晶ディスプレイ用のほか、有機ELバックプレーン用を含む)生産能力は、2017年に韓国を超え、凋落気味の韓国との差を毎年広げており、2023年時点でのシェアは58%と過半を占める見通しであるという。

一方、AMOLED(アクティブマトリクス型有機EL)については韓国の後を追い、2023年時点でのシェアは28%に達する見通しとする。中国は、すでに世界最大のFPD供給国となっているが、日本は長期にわたり低迷したままである。今後JOLEDがAMOLED分野に参入してきても、すでに韓中勢で寡占状態になっておりシェアを伸ばすことは困難だろう。

  • TFTアレイとAMOLEDの国別生産能力

    TFTアレイ(LCDのほかAMOLEDバックプレーン用を含む)(左)およびAMOLED(右)の国別生産能力 (赤枠白抜きの数字は、2023年における中国勢のシェア。赤い線は中国の生産能力の推移。青い線が日本の生産能力の推移) ((出所:IHS Markit)

(次回は2月28日に掲載します)