英IHS Markit主催の「第36回 IHSディスプレイ産業フォーラム」が「有機EL vs.液晶の市場展望、2019年の下期回復の見通しと懸念点」をメインテーマに、2019年1月24~25日の2日間にわたって開催された。本連載では、同フォーラムの内容を元に、日台韓中4カ国で日ごろディスプレイおよび最終製品の市場動向を調査分析している各分野の専門アナリストが語った2019年1月時点での2018年のレビューと今後の見通しを紹介したいと思う。

  • IHSディスプレイ産業フォーラムの会場の様子

    IHSディスプレイ産業フォーラムの会場の様子

年前半は供給過剰だが後半には回復へ

フォーラム冒頭に開かれたFPD産業総論セッションにて、IHS Markitのディスプレイ部門シニアディレクターを務めるDavid Hsieh(謝勤益)氏は、ディスプレイ業界の2019年の見通しについて、「FPD供給面積の伸び率は9%、需要面積の成長率は6.4%と想定している。前半は供給過剰によって液晶パネルの価格下落が激しくなるが第1四半期に底を打ち、第2四半期から後半にかけて需給がタイトな状況へと回復すると見ている。中国における新設の第10.5世代(G10.5)液晶パネル工場の稼働開始や既存工場の生産拡大の結果、2019年前半は液晶パネルの価格下落が深刻化するため、第1四半期には多くのFPDメーカーが赤字に陥る可能性が高い」と述べた。

一方で、「年後半 -いつになるかは状況により変化するが- には黒字反転できる可能性が高い。その根拠は2つある。まず、韓国で2大FPDメーカーが8.5Gテレビ用a-Si液晶パネル工場をQD-OLED(Samsung Displayの場合)やOLED(LG Displayの場合)への転換を計画しており、これが実行に移されれば下期は液晶ディスプレイの供給過剰が緩和されることとなる。いつのタイミングで、どのように転換するか注視する必要がある。さらには第2四半期から後半にかけて、一部の部材の不足も予想される。ドライバーIC不足は解消に向かったが、偏光板とCOF(Chip on Film:ドライバーICをフィルム状の配線回路基板に実装するための部材)が不足する見込みでパネルが供給不足となる可能性が高い」とパネル価格が今年後半に回復する理由を説明した。

液晶パネルと有機ELの比率は8:2から6:4に

また、長期的見通しについては、「2020年から2021年にかけて中国勢による生産能力の増加で再び供給過剰状態に陥り、既存メーカーはファブの閉鎖や構造転換を迫られるだろう。半導体産業のシリコンサイクル同様、FPD業界のクリスタルサイクルにより2022年以降は再び供給不足になる可能性が高い」と述べた。

さらに、長期的なFPDの面積成長率については「2016年~2025年の10年間における、FPDの年平均成長率を4%と予測している。テレビ向け有機EL(OLED)は、年平均成長率が40%に対してテレビ向け液晶パネルは4%に留まる。コンシューマ向けは35%、パブリックディスプレイ向けは10%、車載ディスプレイ向けは9%、モバイルフォン向けは4%と予測している」と説明した。

  • 用途別PFDパネル需要

    用途別PFDパネル需要(面積ベース、単位は百万平方メートル)の長期予測 (出所:IHS Markit)

加えて、「金額ベースでは、2018年のTFT-LCDパネルの売上高は889億ドルに対して、有機ELパネルは243億ドルであったが、2025年にはTFT-LCDが726億ドル、有機ELが419億ドルと予測。TFT-LCDは今後毎年数%ずつ売り上げを減らしていくのに対し、有機ELは2021年までは2桁成長、2023年も1桁成長となり、2024年にようやく飽和してゼロ成長となることを予測している。この結果、TFT-LCD対有機ELの金額ベースの比率は、2018年の8:2から2025年には6:4へと変化し、いずれは逆転する可能性がある」ともしている。

既存企業の脅威となる中国のG10.5量産開始

このほか同氏は、個別のテーマについて以下のような見通しを示した。

  • 中国は2020年までにG8、G8.6、G10.5、G6 LTPS、G6 OLEDを含む40ファブを所有することになる。2017年以降、世界最大のFPD製造大国となった中国勢の生産能力は世界的に供給過剰になるか不足になるかどうかの重要なカギを握っているため、その動向に目が離せない。中国政府のパネルメーカーへの補助金は今後も継続され、生産能力増加に貢献するだろう。
  • 中国にある6つのG10.5ファブ(BOE 2棟、ChinaStar 2棟、LG Display 1棟、シャープ・鴻海 1棟)の合計生産能力は60型以上のテレビ4000万台分の大型パネルを賄えるので、台湾や韓国にある古いG7.5/G8.5ファブは競争力を失う恐れがある。
  • G10.5ファブの稼動による生産能力増大と価格低下により、2020年には60型以上のテレビが年間4000万台を超える見込みである。
  • ミニLED(マイクロLEDよりも若干大きなLED)は2019年から液晶バックライト用に量産が本格化する。すでに欧州向けの車載パネルやゲーム用モニターに搭載する話が具体化している。一方で、マイクロLEDはまだ時間を要する。AppleがApple Watch用に開発中で、2020年に量産かと噂されるが、ディスプレイとしての本格的な市場投入には技術の確立が必要になる。マイクロLEDは、コストおよび性能面で既存ディスプレイに比べて競争力があるか疑問である。
  • 2018年は、中国の有機ELメーカーにとって有機EL元年だったが、2019年にはさらにシェアを伸ばしてくる可能性が高い。BOEは、Huaweiと提携している一方、Apple iPhoneでの採用を目指して売り込んでいる。
  • フレキシブル有機ELを採用したフォルダブル・ディスプレイは2019年に複数のスマホメーカーから登場する見通し。しかし、これらが市場に受け入れられるかどうかは疑問である。Appleは、2019年のフォルダブルiPhoneの製品化を見送ると見られるが、市場全体としては、2019年は間違いなく「フォルダブル元年」になる。Samsungが、先ごろ公開した7.3型有機EL「Infinity Flex Display」をGalaxyシリーズに搭載して発売する予定であるほか、HuaweiもBOE製パネルを用いた8.3型端末を開発中だからである。
  • 市場背景から有機EL工場の稼働率は高まるだろうが、課題は価格である。フォルダブル有機ELパネルの価格は180~200ドル、フォルダブル端末の価格は2000ドル前後と見込まれ、非常に高価であるため、すぐには普及しないだろう。フォルダブル機器にとって成功のカギをにぎっているのは実はソフトウェア(OS)である。フォルダブル画面表示に最適なOSの開発が待たれる。
  • フォルダブル・スマートフォンの試作品

    中韓各社のフォルダブル・スマートフォンの試作品 (出所:IHS Markit)

(次回は2月21日に掲載します)