宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業(MHI)は6月27日、H-IIAロケット50号機の打ち上げ前ブリーフィングを報道陣向けに開催し、ロケットの準備状況などについて説明した。50号機に搭載される、温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)の愛称が「いぶきGW」となることも発表された。
今回はH-IIAロケットのラストフライトということで、どうしてもロケット側に注目が集まってしまうが、最も重要なのは搭載する衛星を所定の軌道にしっかり投入することだ。まずは先に、衛星についても少し触れておきたい。
新しい世界を作る「いぶきGW」
GOSAT-GWは、「しずく」(GCOM-W)の水循環変動観測ミッションと、「いぶき」(GOSAT)、「いぶき2号」(GOSAT-2)の温室効果ガス観測ミッションを引き継ぐ衛星だ。そのため、GOSAT-GWの高度(666km)はGOSATと同様、昇交点通過地方太陽時(13:30)はGCOM-Wと同様となる。深夜の打ち上げとなっているのは、それが理由だ。
このGWという文字は、Gが温室効果ガス、Wが水循環を意味する。温室効果ガス観測センサーは「TANSO-3」に強化。点的な観測から面的な観測へと、より高分解能での観測を実現した。水循環変動観測の高性能マイクロ波放射計は「AMSR3」に進化。観測可能な波長帯を増やし、降雪や上層の水蒸気の観測を可能とした。
“いぶき”という愛称は、もともとGOSATシリーズで使用されてきたが、JAXAの小島寧・GOSAT-GWプロジェクトマネージャは、「従来は呼吸・息づかいという意味で使われていたが、“いぶき”には、新しい世界を作るという意味もある。今回は、GとWという2つのミッションで新しい世界を作るという意味を込めた」と、命名について説明した。
50号機の第2段で見つかった問題は「電圧変動」
ロケット側については、MHIの長沼公明・MILSET長が説明。当初予定していた、6月24日の打ち上げが延期された原因となった、第2段機体の電気系統の問題について結果報告があったので、ここで紹介したい。
今回、機能点検中に見つかったのは、電源供給系統の電圧変動だ。この変動は数字としては規定内であったものの、原因と考えられた電力分配器「PDB2」を取り外し、工場へ返送して詳しく調べたところ、異常箇所を特定。予備のPDB2を機体に搭載し、再度点検を行い、電圧変動がないことを確認したという。
電圧変動は規定内の小さなものだったので、単に数字だけを見れば点検結果は「正常」となる。しかし、それでも調べたことについて、長沼氏は「ちょっとした変化の中には、何らかの理由がある。通常の点検だけでは見抜けないものがあるという心構えを持って、みんなが評価を行っている」と、理由を説明した。
今回は、結果的には、交換しなくても問題なかったことが分かったものの、場合によっては、致命的な問題が隠れている可能性もある。単に同じようにロケットを作るのではなく、こうした細かい確認や改善を何度も繰り返してきたことが、7号機以降の43機連続成功につながったのではないだろうか。