野原: 最後に、建設産業の将来像についてお聞きします。建設産業に関わる誰もが、楽しく、クリエイティブに働け、課題を乗り越え、かつての輝きを取り戻すために必要なことは何だと思われますか。 また、その中でのメディアの使命や役割はどのように変わっていくのでしょうか。

佐藤: 引き続き、技術開発や技術革新が求められます。人手不足の解決策としての生産性向上、品質の確保はもちろんですが、中でも現場の安全に寄与する技術が必要でしょう。牧野さんがおっしゃった新4Kの取り組みは当然ながら、その前に旧3K(キツイ、キタナイ、キケン)を本当の意味で払しょくする、現場で労働災害を起こさない技術を確立させないといけません。

われわれメディアの基本姿勢は大きく変わりませんが、ICTなどを十分に活用しながら今後もより速く正確に深く情報を提供していきたい所存です。また、電子版や動画ニュースも充実させ、建設産業を志す高校生や大学生に、仕事の魅力を伝えられるコンテンツづくりを使命にしたいと思います。

橋戸: 佐藤さんのご意見に加えるとすると、建築や都市が持つ情報を活用していくことも重要だと思います。2020年にPLATEAU(※8)というプロジェクトが発足していますが、建築や都市の情報を活用できる仕組みができると面白いと思います。

建築は日々、多くの人が使うものなので、そこから得られる情報は膨大かつ多様です。現在は、センサーの性能向上や画像解析技術など、情報を収集し整理する技術も充実してきました。

プライバシーへの配慮など、クリアすべき課題はありますが、建築以外の分野の方々との協業も生まれると思いますし、人々の行動が情報として視覚化できると、多様な方々へ配慮した建築も生まれるのではないでしょうか。2021年には建築情報学会が設立されるなど、情報活用に向けた取り組みは始まっていますので、そういった活動についても、誌面で紹介できればと考えています。

また、クリエイティブと言うとデザインに関わる業務を思い浮かべることが多いと思いますが、業種を問わずクリエイティブな側面はあると思っています。施工計画を考え、どうやって現場で配筋を納めようか、と思考を巡らせることも創造的な行為だと思います。そういったさまざまな創意工夫を雑誌として紹介したいと考えています。

※8 PLATEAU:国土交通省が主導する日本全国の3D 都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト。スマートシティをはじめとしたまちづくりのDXを進め、人間中心の社会を実現することを目指し、国土交通省がさまざまなプレイヤーと連携して推進している

牧野: DXを取り入れて生産性を高め、働き方改革を進めることが必要です。グローバルに展開する外資系コンサルタントから、日本では経営層が貪欲にデジタルの知識を得て変革への経営判断を下すケースが少ないと聞きました。前向きに変化することに対する必要性を自覚し、リスキリングなど学びを通じて自信を持って物事を進める。そういう姿勢が求められるのは建設産業も同じではないでしょうか。

現状では仕事量がありますが、人口減少や財政制約などを考えると、中長期的に同じ状況が続くとは思えません。そういう共通認識はあるように思いますが、現場の繁忙が続く中で、変わるタイミングをつかめていないように感じます。2024年を起点に、自ら変革を主導する攻めのムーブメントを起こしていきたいですね。

建設産業の中を変えることは必要ですが、外にも目を向けなければなりません。脱炭素に取り組んで持続可能な地球にしていくことも大事です。建築設計の分野で、人間と自然環境がより良い形で共存していくための「リジェネラティブ(環境再生)デザイン」という考え方が言われています。より少ないエネルギーで再生産しながら豊かな暮らしを維持できる社会へと建設産業から変化を起こしていく。そんな前向きな産業は魅力的で、きっと 優秀な人材も集まってきます。

大企業に加えて、地元企業でDXを取り入れていきいきと活躍されている若手経営者もいらっしゃいます。そうした変革者を取り上げて盛り上げていきたいと思っています。

今の若い世代は、社会貢献に対する感度が高いと言われます。とても良い変化ですよね。建設産業は、社会や地域に貢献してきました。その大切さは時代が変わっても揺らぐことはありません。建設産業には変革が求められていますが、それと同時に、社会を守り続けるための地道な工事や災害対応など普遍的な役割も存在します。専門紙として「変わるべきこと」と「変えてはいけないこと」の両面を伝え続けていきます。

野原: 個人的にはダイバーシティ(※9)が重要だと思っています。この業界は建築やエンジニアリングが好きな人しか入ってきませんが、もっと広く捉えると発展する可能性が出て来ると思います。最終ユーザーの使い方を考えたり、次世代の素材技術やデジタル技術を導入するなど、建築について知らなくても携わることができる仕事が増えると、いろんな種類のダイバーシティが生かされ、建設産業の魅力につながっていくと感じています。

本日はありがとうございました。

※9 ダイバーシティ:Diversity。直訳で「多様性」を意味する言葉で、人種や性別、宗教、価値観、障がいなどさまざまな属性を持つ人々が、組織や集団において共存している状態

  本連載は、『建設DXで未来を変える』(マイナビ出版)の内容を一部抜粋したものです。
書名:建設DXで未来を変える
著者:野原弘輔
書籍:1100円
電子版:1100円
四六版:248ページ
ISBN:978-4-8399-86261
発売日:2024年09月13日