野原: 先ほど挙がった課題に対して、解決策として期待されているものにはどのようなものがありますか。「BIM」や「施工ロボット」「ICT(Information and Communication Technology・情報通信技術)建機」「VR(Virtual Reality・仮想現実)」「AR(Augmented Reality・拡張現実)」など、建設DXへの取り組みは、その一つだと思います。

特に「BIM」は2023年末の建築の先端技術展「JAPAN BUILD」でも、出展社数も来場者数も年々増えており、当社でもより注目が集まっていると感じています。メディアとして注目している分野、領域が具体的にあればそれも教えてください。

佐藤: 2009年は「BIM元年」と言われています。建設通信新聞では、その前年から特集を組むなど、積極的に取材をしてきました。また、日本建設業連合会や土木学会土木情報学委員会とのタイアップによるセミナーも開催しています。このように、特集、セミナー、ライブを継続できているのは、それだけ関心が高いということであり、それは生産性の向上、建設DXの必要性に迫られている証拠でしょう。

ただし、BIMやCIM(※4)に関しては設計から施工、維持管理までプロセス間の連携に課題も多いと聞いています。人材育成などを通じて解消されると普及は一気に加速するでしょう。野原グループの「BuildApp」(※5)は内装工事と建具工事をメインに展開していますが、今後さらに範囲を拡大されていくとのことなので、期待している方は多いと思います。

※4 CIM:Construction Information Modeling。建設情報のモデル化を指す。日本国内では、建築がBIM、土木がCIMと大まかに分類されている
※5 BuildApp:野原グループが2023年12月にサービス提供を開始したBIM 設計- 製造- 施工支援プラットフォーム。詳しくは第6回で解説

橋戸: 設計・施工段階において、BIMを活用した実例は多くあると思います。一方で、3DCAD的な使われ方が多いと感じており、インフォメーションの部分をどのように活用しているかに興味があります。

具体的には、部材発注業務や積算業務などへの活用例が増えてくることます。また、設計や施工段階だけでなく、維持管理にもBIMデータを活用できれば良いと思いますが、この部分は課題が多いようですね。

建築は30~50年といった長い時間使われていくので、例えば「30年前のデータを開くことはできるのか」とか「そもそもアプリケーション側が保守されているのか?」など、BIMデータを長期間運用していくための課題整理が必要だと感じています。

建築BIMを社会実装していく上では、個々の企業や団体の取り組みだけでなく、国や自治体といった行政側の制度整備にも注目をしています。

野原: データ管理については、データ管理の標準や基準などを作らずに、今のまま放置をしておくと、将来の効率的な保守管理ができなくなるなど、リスクが高いのかもしれませんね。

牧野: 持続可能な建設産業にしようと政府・与党の動きが加速しています。注目しているのが、2024年通常国会で成立した公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)や建設業法、公共工事入札契約適正化法(入契法)などの「第3次担い手3法」です。

中央建設業審議会(中建審)が作成・勧告する「標準労務費」を基準に、著しく低い労務費による受注者の見積もり提出などを禁止する措置が講じられる方向です。設計労務単価は12年連続で上昇しています。日本建設業連合会(日建連)や全国建設業協会(全建)が掲げている「新4K(給与・休暇・希望・かっこいい)」への変革に大変期待しています。

DXへの関心は非常に高まっています。個人的に注目しているのは、物の作り方の変化です。BIM/CIMなど3Dデータを起点にして、デジタルファブリケーションや3Dプリンタ、ドローンの活用が広がっています。ロボットが人間のように全ての作業をするのはかなり先でしょうが、任せられる作業は増えています。鉄筋コンクリート造が開発されて巨大建造物が作れるようになったような大きな変化が、もしかしたら起きるかもしれないと感じる時もあります。

チャットGPT(ChatGPT、※6)をはじめとする大規模言語モデルが進化して、情報を効率的に取り出せるようになってきました。建設DXに関する取材先企業に聞くと、BIMから特定の部材数など必要な情報を取り出したり、画像から現場の状況を説明したりする技術ができようとしているそうです。

BIMを読み解くハードルが下がれば、新しい使われ方が出てくるでしょう。例えば、「子育て目線から改善点を指摘してください」「インバウンドを呼び込むためにどうしたらいいですか?」などアイデアを出してもらうようになれば、プロジェクトの検討の在り方が変わるかもしれません。

BIMが浸透して当たり前の存在になれば、良い意味で意識されなくなると思います。例えばスマートフォンは作り方を一切知らなくても、自在に使いこなすことができます。端末は基盤として大事ですが、ユーザーからすればどのようなアプリを入れて使うかの方が重要です。もちろん、BIMデータはプロがしっかりと作り込む必要がありますが、専門家以外もさまざまな場面でBIMを活用するようになれば建設はもっと面白くなるはずです。

野原社長がゲームチェンジとおっしゃっているように、新しい形に変わっていく兆しを感じています。AIに精通した若い世代が入ってきています。なぜかと聞きますと、建設産業の仕事が難しいからだと言います。デジタルの中で完結するIT分野と異なり、建設はまだまだできていないことがたくさんあります。図面など非公開の情報を用いる必要がありますので、巨大IT企業でも踏み込めていません。そういった世界でものづくりをするのは、すごいチャレンジングなことであり、魅力的に映っているのです。

※6 ChatGPT:文章による質問の内容を適切に理解し回答を生成できる、会話型AI(人口知能)サービス、またはそのもととなる会話型言語モデルを指す

野原: 建設産業内で言うと、全ての会社、全てのプロジェクトがBIMを使うようなことにはならないという肌感覚がある一方で、一定規模以上のプロジェクトでは当たり前のように使われ始めています。今後は、その中のアプリケーションを考えたり、何ができるかを創造的に展開したりするようになるのだと思います。いろんな課題・制約が増えている産業でありますが非常に面白く、今は変化の節目にあると思っています。