近年、自動車には各種のソフトウェア制御が導入されてきています。モータ制御やハンドリング制御などのソフトウェア化が進み、それら自動車内の各計算機モジュールは自動車の中を通る有線ネットワークでお互いに通信しながら、運転時に必要な各種制御処理をソフトウェアで行っています。こうした流れと呼応するようにコンピュータビジョンの技術を用いた「運転手支援システム」が商用の自動車に搭載されてきています。今回から数回にわたって、そのような「(コンピュータ)ビジョンベースの自動車運転手支援システム」を紹介していきます。

ビジョンベースの運転手支援システムには、以下のようなものがあげられます。

  • 前方衝突防止システム(forward collision warning)
  • 歩行者検出(pedestrian detection)
  • 車線逸脱警告システム (lane departure warning)
  • 駐車支援システム(parking assistance system)
  • 標識認識(sign detection)

近年の自動車には、前方、後方や側方にカメラが据え付けられたものが増えてきています。それらの各カメラで撮影している周辺映像に各種リアルタイム処理を行うことで様々な運転手の走行支援を行うという、これらのシステムが実用化されています。コンピュータビジョン技術の急速な発展と比例して、これらの技術は年々急速に進化しています。ここからは各技術の仕組みを紹介していきましょう。

前方衝突防止システム

前方衝突防止システムとは、前方の車や路上を横断している車や人物を、前方カメラ映像を用いたビジョン技術やミリ波レーダーなどで検出することにより、運転手へ音による警告音を出し、より危険な距離になった場合は自動的にブレーキをかけて衝突を防いでくれるという事故防止・軽減システムです。前方衝突防止システムは俗に「プリクラッシュセーフティシステム」とも呼ばれ、エアバッグなどのパッシブセーフティ(衝突時の安全)や、アンチロック・ブレーキシステムなどのアクティブセーフティ(能動的安全、予防安全)の中間に位置するシステムです。

動画:Volvo S60 - Pedestrian Detection

スバル 新型EyeSightテスト動画

これらの動画で紹介されているような、Volvoの「シティーセーフティ」や、スバル(富士重工業)の「EyeSight」などがプリクラッシュセーフティシステムに相当します。これらのシステムでは前方の自動車や人物をその3次元座標を含めて認識し、現在の車の走行軌跡情報をもと、距離が近づいていきそうな危険な場合は警告やブレーキの制御を自動的に行ってくれるというものです。

自動車の発明後、交通事故の数は増える一方でしたが、90年代前半研究が始まったプリクラッシュセーフティシステムが、近年実際の自動車にこのように実際に組み込まれるようになるなどして、自動車事故そのものの数や事故の深刻度を下げることが実現されてきています。

それでは次回からはEyeSightで用いられているような、ステレオカメラを用いた3D距離データの復元と、それをもとにした前方の車両や人物検出の技術を説明していきます(注:最新のEyeSightではステレオカメラからの車間距離測定を用いたクルーズコントロール機能なども搭載されていますが、ここではあくまでプリクラッシュセーフティ機能のみを紹介します)。