Spansionが自動車用マイコンに力を入れ始めた。リアルタイムOS(RTOS)で走るARM Cortex-Rシリーズをコアとするマイコンだ。Spansionが今回発表したマイコンはデュアルコアで、自動車内の2つのモータを1チップで制御しようというもの。作動するモータ1個につき1個のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が必要だが、このマイコンを使えば2個のモータを1個のECUで動かすことができる。

この製品はかつて富士通セミコンダクター(FSL)のマイコン部門が開発していたもの。従来、FSLが開発していた製品では、「F2MC-8/16」や「FRファミリ」などのオリジナルマイコンと、ARMのCortex-Mシリーズのマイコンがあった。Traveoというコードネームで呼ばれる今回のマイコンは、これまでの製品と比べて性能が高く、400MIPSにも及ぶ(図1)。

図1 Spansionが追加したARM Cortex-Rシリーズのマイコン (出典:Spansion)

開発されたTreveoマイコンは、自動車内のモータを2台同時に独立して制御できる(図2)。クルマでは、電気自動車(EV)ではなくとも、実にさまざまなところにモータが使われている。パワーウィンドウやワイパー、ドアミラー、スライド式ドア、椅子の前後移動や傾斜などちょっとした移動や動きをサポートするシステムにモータを利用することが多い。これまでは機械式の油圧システムや、油圧を駆動するモータなどが使われてきたが、直接モータで動きを作り出すようになってきている。

さらに最近では、アイドリングストップ機能が搭載されるようになってきたため、回生ブレーキで発電機を回すようになっている。これは、ブレーキをかけて減速させるときに慣性で動いているモータの軸回転で発電するもの。発電機、モータをそれぞれ独立に制御する必要がある。こういったところにも、Traveoファミリを使うことができる。

図2 ARM Cortex-R5デュアルコアマイコンを自動車に使う (出典:Spansion)

この新製品マイコンファミリは、ARMのCortex-R5コアをデュアルで集積しているだけではなく、モータ制御を狙って12ビットのA/DコンバータとR-D(resolve to digital)コンバータも集積している。クルマ応用では制御だけではなく高速の演算機能も求められる。このため、従来外付けされていたR-Dコンバータを1チップに搭載し、しかもハードウェア回路で構成した。クルマでは高速応答がマストであるため、OSにはRTOSを使っている。

R-Dコンバータは、モータの回転角を検出し、それをデジタルに変換する回路。従来のシステムでは(図3)、外付けのR-Dコンバータからシリアルあるいはパラレルインタフェースを通って、角度データを読出し、CPU内にあるサイン、コサインのデータを変換テーブルから検索していた。このためCPUに負荷がかかっていた。ソフトウェアでサイン・コサインのデータをプログラムするためフレキシブルだが、動作速度は遅かった。

図3 R-Dコンバータを内蔵、モータ制御速度を高めた 同じ構成が2つある (出典:Spansion)

Traveoでは、R-Dコンバータをチップ内部にCPUとは別にハードウェア回路で組んでおり、角度、サイン、コサイン、角速度のデータを即座に計算するため、CPUはどの時点でもこれらのデータを読み取ることができる。CPUの負荷が軽くなるため、処理速度は速くなった。ARM Cortex-R5コアは200MHzで動作し、FPU(浮動小数点ユニット)も集積している。FPUの性能は1.66DMIPS/MHz。レゾルバからCPUまでの一連の動作をデュアルで持っており、それぞれ独立して動作する。ただし、お互いに動作をモニターし合うという。システムの信頼性を上げている。マイコンには2MBのフラッシュメモリも集積している。SpansionはTreveoマイコン「MB9D560」の評価ボードも提供する。FlexRayやCANインタフェースをはじめ、汎用のシリアルインタフェースやUSBインタフェースなども評価ボードに搭載している。

Spansion CEOのJohn Kispert氏

CEOのJohn Kispert氏は、「Spansionの技術はソフトウェアとNORフラッシュ技術、富士通はARMコアと電源、センサインタフェースを持っている。これからは両社の持っていない「接続性(Connectivity)」に力を入れる」(図4)と語った。図4の紫色部分がSpansionの技術、赤で囲んだ部分が富士通の技術、であり、青い部分がこれから開発していく部分である。総じて相補う関係にある。 両社が統合され、Spansionの持つ分野と、FSLの持つ分野がちょうど相補える関係にあることは今後の成長戦略が明確だ。残りの接続性(Connectivity)の部分だけを手に入れれば、今後の成長が期待されるIoT(Internet of Things)のためのプラットフォームができる。接続性技術は自社開発ではなく、おそらく企業買収で入手するのではないだろうか。市場のタイミングとビジネス機会に乗り遅れないようにするためだ。このシステムはアプリケーションが多少違っても基本回路は同じになるため、新生Spansionの成長の道筋がはっきりしたといえる。

図4 新生Spansionは接続性技術さえ入手できればIoTのプラットフォームを持てる (出典:Spansion)