トヨタ自動車が電気自動車(EV)に2030年までに4兆円を投資し、電動化を推進すると発表した。最近になって、日産自動車やVolkswagenなどがEVへの推進を発表しており、ここに来てトヨタもEV強化を打ち出した格好だ。加えて、カーボンニュートラルは世界的な動きである。いつまでも内燃エンジンにしがみついている訳にはいかない。CO2を可能な限り減らしていく。これは世界的な流れでもある。
ただし、トヨタの目標は2030年までに100%のクルマをEVにするわけではない。今の所、トヨタとレクサスでバッテリEV(図1)を350万台製造することを目標に掲げており、北米と欧州、中国に限り100%EVとなると目標設定している。
トヨタには最初のハイブリッドカー「プリウス」以来、バッテリを自社開発してきたという自負がある。当初のニッケル水素電池からリチウムイオン電池へと移ったが、バッテリ開発には現在開発中の全固体電池などの新しいバッテリ開発に取り組んできた。2021年9月にこれからのバッテリ開発に1.5兆円を投資するとしていたが(参考資料1)、今回2兆円に増額した。
トヨタは文字通り世界中にクルマを販売してきた。カーボンニュートラルを大きな目標に掲げている国ばかりが対象ではない。各国のエネルギー政策はまちまちだが、ある程度各国の政策が見えてきたことと歩調を合わせ、EVの販売台数を350万台と設定したという。充電設備などのインフラの整っていない国に対してはEV化を全面には出せない。大きな流れはカーボンニュートラルではあるが、一気に内燃エンジンゼロを打ち出せない状況にある。だからトヨタは全方位外交をしているのである。
豊田章男社長が水素エンジン車のテレビコマーシャルに出ていることもこの全方位外交と関係する。欧州では、水素エンジン車はNOxを排出することがわかり、水素は選択肢からほぼ消えた。高価な触媒を使えばNOxを減らすことはできるらしいが、コストアップにつながる。しかも水素を創り出すために、現在はオーストラリアの炭鉱の低品位石炭からのエネルギーを利用して日本に輸入しているケースが多いという。地球全体から見て欧州ではこの選択肢はないようだ。
ただ、バッテリとモーターからなるEVシステムそのものは、実は水素を燃料とする燃料電池車MIRAIにも搭載されている。回生ブレーキシステムでは、車輪が回転しているエネルギーで発電することによりバッテリへ充電している。そして始動時にはこのバッテリからの電気エネルギーも使って加速する。水素エンジン車といえども、水素と電気のハイブリッド車なのだ。このことは水素エンジン車にも当てはまる。同様に回生ブレーキを使うからだ。
バッテリEVでも、ただ単にモーターを回転させるためにバッテリの直流回路からインバータで交流を作り出しモーターを回転させているだけではない。回生ブレーキによる充電するためのオンボードチャージャー回路も必要であり、さらにバッテリのセル1本1本を充電時に制御するバッテリ管理システムが欠かせない。
バッテリ管理システムは、単三乾電池よりも少し長い程度の大きさのリチウムイオン電池セルが数百本も入っており、それらのセルを1本ずつ管理し、絶対に満充電を超えないようにする回路だ。リチウムイオン電池はいくら初期性能においてバラつきのないものを選んでも、使っているうちにバラついてくる。1つのセルが80%充電したのに、別のセルが90%を超えていれば満充電の危険性がある。満充電を超えれば体積膨張し破裂したり火を噴いたりする危険がある。このため、半導体(IC)を使って満充電を超えないように制御するのである。
そして、EVのバッテリパックは350~400Vという高電圧まで昇圧する一方で、制御するICやADAS(先進ドライバー支援システム)などのシステムLSIを動作させるための電源電圧を降圧しなければならないが、その電源を作り出すDC-DCコンバータも必要になる。つまりトヨタにとってこれからのクルマに燃料電池車を使おうが水素エンジン車を使おうが、EVシステムは必要になる。だからバッテリ開発に2兆円も投資するのである。
半導体不足が続く昨今では、量産しているクルマの半導体供給分は、在庫を確保し間に合う様子が見えてきつつあるが、さらにEVに向けて加速すると半導体需要はさらに高まるため、半導体メーカーが工場を拡張しないままだと、半導体不足はいつまでも続くことになる。半導体不足を解消するためには工場新設はもはや欠かせない。
参考資料