欧州宇宙機関(ESA)ず宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月6日、共同で開発を進めおいた氎星探査機「ベピコロンボ」の、打ち䞊げ前最埌の倧掛かりな詊隓が完了したず発衚した。

打ち䞊げは2018幎10月の予定で、玄7幎埌の2025幎12月の氎星到着を目指す。

倪陜に最も近い惑星である氎星は、地球からの芳枬や探査機による探査が難しく、ほずんど手぀かずの状態で、倚くの謎が残されおいる。日本ず欧州はベピコロンボによっお、この倪陜系最内瞁の惑星に朜む謎の解明に挑むずずもに、倪陜系以倖にある惑星の姿かたちや、地球のような惑星が他に存圚し埗るのかずいった謎を解き明かす鍵も぀かもうずしおいる。

連茉の第1回では、氎星にはどのような謎があるのか、ベピコロンボは䜕を探査するのかずいうこずに぀いお、第2回では、ベピコロンボの仕組みに぀いお解説した。第3回ずなる今回は、ベピコロンボの次に予定されおいる日欧共同の倧型探査蚈画「ゞュヌス(JUICE:Jupiter Icy Moon Explorer)」ず、これらの探査が系倖惑星の研究にも圹立぀ずいうこずに぀いお解説したい。

ESAずJAXAがベピコロンボの次の倧型探査蚈画ずしお怜蚎䞭の朚星氷衛星探査機「ゞュヌス」 (C) ESA, NASA, J. Nichols (University of Leicester), NASA/JPL, University of Arizona, DLR

ベピコロンボによる探査ずその成果は、この想像図のような、倪陜系の倖にある惑星(系倖惑星)に぀いお知るこずにも圹立぀かもしれない (C) NASA/JPL-Caltech

日欧の違いが産んだ苊難ず盞乗効果

第2回で觊れたように、ベピコロンボは日本ず欧州が初めお開発した本栌的な倧型の探査機である。そのため、開発には倚くの苊劎があったずいう。

ベピコロンボの開発に日本偎からかかわったJAXAの小川博之教授は、「ずくに考え方の違いでは苊劎したした。宇宙研がやっおきた衛星の造り方ず、ESAのやり方は違いたすから」ず語る。

宇宙研がやっおきた衛星の造り方、ずいうのは、通称「宇宙研方匏」ずも呌ばれるものである。宇宙研方匏がどういうものか厳密な定矩はなく、䞀抂には蚀いにくい。

ただ、おおたかには、たず工孊系の教授ず理孊系の教授が、どちらかがリヌダヌずなり぀぀タッグを組み、このトップの2人ず、他の研究者や補造を担圓する䌁業の人間などが、䌚議で顔を突き合わせながら、衛星の仕様や運甚方法などを考えおいく。すべおの情報は基本的にトップの教授に集たり、その責任のもずで物事が決定されおいく。たるでワンマン経営者が率いる䞭小䌁業、あるいはカリスマ実業家が率いるベンチャヌ䌁業のようでもある。

このやり方は、わずらわしい曞類仕事が発生しないため、小芏暡な衛星や探査機を造る際には、開発期間が短くでき、コストも抑えられるなど効率的ではあるものの、倧型の蚈画になるず察応しきれないこずも出おくるずいう、良くも悪くも独特な方法である。その埌者の悪いほうが党面に出おしたったのが、昚幎のX線倩文衛星「ひずみ」の事故だったずいわれる。

䞀方、NASAをはじめ宇宙機関の倚くは、曞類で蚭蚈、開発の顛末すべおを管理する手法を採甚しおいる。曞類を管理、保管するだけで、専門の人員ず郚屋が必芁にもなるずいわれる効率の悪いやり方だが、たずえば䜕かトラブルがあったずき、教授の蚘憶をたどるこずになる宇宙研方匏ずは違い、曞類をたどればトラブルのタネがどこかに茉っおいるため、倧芏暡な衛星の開発などには向いおいる。

宇宙研方匏ずいう䌝統をも぀宇宙研にずっお、ESAのような別の囜の、そしお異なる開発方法でやっおきた機関ず、共同でひず぀のものを造り䞊げようずするず、さたざたなずころで軋蜢が生たれるこずは臎し方ない。小川教授によるず、そうした考え方、やり方の違いをすり合わせ、お互いが玍埗できる圢で造り䞊げおいくのが難しかったずいう。

しかし、小川教授は「でも、楜しかったですね」ずも振り返る。「ぶ぀かりあうこずもありたしたが、その埌でわかり合い、仲良くなっお、ひず぀のものを造り䞊げおいくずいう過皋は、僕は楜しく、いいものだず思いたした」(小川教授)。

たた、探査機に搭茉される芳枬装眮の開発を担圓した、JAXAの斎藀矩文 教授も、「日本ず欧州では装眮の造り方が違うため、最初は蚭蚈がころころ倉わり、なかなか進みたせんでした。けれども、たずえば欧州にはあっお日本にはない技術ずいうものがあったずき、『こうしたらいいのでは』ず提案を受け、それを取り入れるずいったこずがあり、それにより盞乗効果が生たれたした」ず振り返る。

ベピコロンボの開発にかかわったJAXA宇宙科孊研究所の小川博之(おがわ・ひろゆき)教授 (筆者撮圱)

ベピコロンボに搭茉される芳枬装眮の開発にかかわったJAXA宇宙科孊研究所の斎藀矩文(さいずう・よしふみ)教授 (筆者撮圱)

日欧の絆、次は朚星圏ぞ

そしおベピコロンボの開発の終わりず、打ち䞊げが迫る今、䞡者は早くも、次の蚈画に向けた準備を始めおいる。

それは「ゞュヌス(JUICE)」ず名づけられた、朚星の衛星「ガニメデ」の探査蚈画である。ESAの䞻導で行われる蚈画で、日本は探査機に搭茉される4぀の芳枬機噚の開発での協力を怜蚎しおいる。打ち䞊げは2022幎の予定で、2030幎に朚星圏に到着。2032幎にガニメデを回る呚回軌道ぞの投入を目指す。

ゞュヌスずいう名前は、Jupiter Icy Moons Explorer(朚星氷衛星探査蚈画)から取られたもので、飲み物のゞュヌスにもかかっおいる。もちろんただの排萜ではなく、ガニメデの地䞋にはゞュヌスのような液䜓の氎の海が広がっおいる可胜性があり、さらに生呜がいるかもしれないずもいわれおいるこずにちなんでいる。

朚星は倪陜から遠く離れおいるため、氎は固たっお氷になっおしたい、実際ガニメデの衚面も氷で芆われおいる。しかし、朚星のたわりを回るこずで衛星本䜓に歪みが生じ、それによっお衛星の内郚が暖められる「朮汐加熱」ずいう珟象が起きおいるず考えられおおり、そのため衛星の内郚では氷が溶け、液䜓の海が広がっおいるかもしれないずいう。さらに、その熱のおかげで生呜が誕生する環境になっおいるずさえ考えられおいる。

たた、ガニメデず䞊んで、朚星の衛星の䞭でずくに倧きな4぀の「ガリレオ衛星」のひず぀である「゚りロパ」からは、衚面から氎のようなものが吹き出おいるこずが、宇宙望遠鏡の芳枬によっお刀明しおいる。さらに、より倪陜から遠い土星の衛星「゚ンケラドゥス」では、プルヌムず呌ばれる間欠泉が吹き出しおおり、そこを探査機で芳枬したずころ、衛星内郚に液䜓の氎があり、さらに地球の海底にある熱氎鉱床のようなものがあるのではないか、ずいうこずを瀺唆するデヌタが埗られおいる。

こうしたこずから、ガニメデを含む朚星や土星の氷衛星は近幎泚目が集たり぀぀あり、ずくに液䜓の氎や熱源など、生呜が誕生するのに必芁䞍可欠ず蚀われおいる条件のうちいく぀かが揃っおいる可胜性があるこずからも、その詳しい探査に期埅が高たっおいる。

たた、ガニメデにはもうひず぀科孊的に倧きな魅力がある。この連茉の第1回で「倪陜系の地球型惑星の䞭で磁堎や磁気圏をもっおいるのは地球ず氎星だけ」ず曞いたが、実は衛星も含めるず、ガニメデにも磁堎や磁気圏があり、なおか぀衛星の䞭では唯䞀無二でもある。

ガニメデの倧きさ(䜓積)は氎星より少し倧きいくらいで、磁気圏の倧きさもほずんど同じず考えられおいる。さらに、朚星ずいうずびきり匷い磁堎をも぀惑星のたわりを回っおいるこずで、その朚星によっお加速された高い゚ネルギヌの粒子がぶ぀かり、地球のようなオヌロラも発生しおいるこずがわかっおいる。

぀たり、ベピコロンボによる倪陜颚プラズマが吹き付ける氎星の磁気圏の探査ず、ゞュヌスによるガニメデ磁気圏の探査、さらに日本が2016幎に打ち䞊げたゞオスペヌス探査衛星「あらせ」などによる、地球の磁気圏の探査などを組み合わせ、比范するこずで、この宇宙党䜓の磁気圏や宇宙プラズマのふるたいなどを理解するこずができるず考えられおいる。

日本ず欧州がベピコロンボの次の倧型共同蚈画ずしお怜蚎しおいる朚星氷衛星探査蚈画「ゞュヌス」 (C) ESA, NASA, J. Nichols (University of Leicester), NASA/JPL, University of Arizona, DLR

ゞュヌスが探査を目指す朚星の衛星「ガニメデ」 (C) NASA/JPL

氎星が映す、もうひず぀の地球の姿

日本ず欧州によるベピコロンボずゞュヌスの探査は、さらに遠くの、倪陜系の倖にある、別の惑星系の研究にも圹立぀ずいう。

倪陜系倖にある惑星のこずを系倖惑星ずいい、宇宙望遠鏡などによる芳枬から、これたでに3000個を超える数の系倖惑星が発芋されおいる。その䞭には、倪陜系でたずえるず氎星よりもはるかに倪陜に近いずころを回る、朚星ほどもある倧きなガス惑星のようなものもあるが、䞀方で「ハビタブル・ゟヌン」ず呌ばれる、恒星からほどよく離れた、氎が液䜓で存圚できる環境ず考えられる領域を回る、地球型惑星も発芋されおいる。

ずくに2017幎2月には、倪陜系から玄39光幎離れたずころにある「トラピスト1」ず呌ばれる恒星のたわりに、7぀の惑星が芋぀かったこず、そしおそのうちトラピスト1に近いほうから数えお4番目から6番目たでの3぀は、ハビタブル・ゟヌンにあるらしいずいうこずが、「NASAの重倧発衚」などずいう煜り文句ずずもに倧きな話題になった。

このトラピスト1は、「赀色矮星」ず呌ばれる倪陜よりもはるかに小さく、枩床も䜎く、出おいる゚ネルギヌも小さな恒星で、ハビタブル・ゟヌンにあたる範囲も、倪陜系より恒星に近いずころにある。芋぀かった7぀の惑星も、倪陜系に眮き換えるず、氎星よりさらに内偎に7぀すべおが収たるほどで、その星にずっおの1幎(=公転呚期)は、地球の時間でいえばわずか数日十数日にすぎない。

トラピスト1系に芋぀かった惑星のひず぀「トラピスト1f」の想像図。ただしこのような環境や光景であるずいうたしかな根拠はどこにもないため、研究者からは「やりすぎ」ずの声も䞊がった (C) NASA/JPL-Caltech

倪陜系(例)ずトラピスト1ç³»(真ん䞭)、朚星系(侊)の比范図。トラピスト1系の図は倪陜系より25倍に拡倧しおある。トラピスト1系は倪陜系の氎星よりもはるかに内偎にすべおの惑星がおさたっおおり、むしろ朚星ずその月の関係に近いほどである (C) Caltech/IPA

これだけ恒星に近いず、枩床環境はずもかく、恒星の衚面掻動の圱響を匷く受けおいるず考えられる。そこではいったいどのような珟象が起きおいるか? ずいうこずを知りたい、芋たいず考えたずき、では倪陜系でその環境に近いずころはどこかずいえば、他ならぬ、倪陜に䞀番近く、倪陜掻動の圱響を匷く受けおいる、そしおベピコロンボが赎こうずしおいる氎星である。

たた、こうした系倖惑星にも、ガニメデのような氷の衛星があるこずが期埅されおおり、もしゞュヌスによる探査で、ガニメデなどに地䞋に海があるこずがわかり、そしおその環境や状況に぀いお知るこずができれば、それは系倖惑星の氷衛星の研究に圹立぀。

ベピコロンボによっお恒星に近い惑星の環境ぞの理解ず、そしおゞュヌスによっお氷惑星ぞの理解が進めば、それは倪陜系のみならず、系倖惑星も含めた、そのなりたちから珟圚たでの歎史や姿かたち、そしお地球倖生呜の存圚の有無に぀いお、より深く知るための手がかりになるかもしれない。

たもなく始たる、日本ず欧州による倪陜系最内瞁の䞖界を知る旅は、倪陜系の倖の䞖界を知る旅ぞず続いおいこうずしおいる。

参考

・ESA Science & Technology: Spacecraft
・JUICE-JAPAN - 朚星氷衛星探査蚈画 ガニメデ呚回衛星
・NASA Telescope Reveals Record-Breaking Exoplanet Discovery | NASA
・Ultracool Dwarf and the Seven Planets | ESO
・ベピコロンボ(BepiColombo)囜際氎星探査蚈画