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経営のあり方、あるいはサバイバルの方法論

多分こういう話、今のIT系のコンサル会社でそういうことが出来る人は居ないですし、技術の使いどころもわかってないと思っています。そもそも、一番問題だと思っているのは、「解くべき課題の本質」がわかっていない、というところですね。

--もう1つ、問題と言えば、今のAIは画像に特化したものが多い。何故かと言えば、まずImageNetを使ってシステムを作って、出来ましたとなるわけです。問題はIoTの世界だと、扱うのは画像だけじゃなく、下手をするとお客様のところにもまだ集めるべきデータが無い状態ということもある。そのため、データを集めるところから始めないといけない。そこまで見通して設計というかデザインをできる人は、なかなかいらっしゃらない認識です。実際、組み込みでIoTのエッジにAIを、という話は良く聞くわけですが、実際に入れるとなると「では、どうやるの?」という話になるわけですよね

おっしゃるとおりですね。実際困っちゃいますよね。それはすぐには出来ないので、いろいろなケースを実際に実証して行くということがすごく大事で、特にディープラーニング系もそうですし、システムもそうだし、やはり学習する経験の中から最終的にモノが作り上げられてくるという、多分そんな感じだと思うんですよ。

それに関して最近思うのはやはり、マーケットとか社会環境が、いわゆる実証主義的なところから、相対主義的なところに変わってきている。実証主義は、昔のMichael Porter的に言えばマーケットを分析し、競合を分析すれば、どうやって戦えばいいか判るという競争優位の考え方ですね。これはマーケットがある程度安定していて、静的な場合は分析可能だと思うんです。右肩上がりに成長しているとか、このマーケットが立ち上がってきたとか、という場合は大丈夫なんです。

ところが今は、いろいろなものが蔓延していて、AIなんて何がどうなのか判らない状態になっている。という事は、ほぼ予測が不可能な状態にあるわけです。もっと言うと、自分が関与することで、相手も変化するというモードになると、事前に決めて、設計して、こういうの作ってどうですか? という手法がもうまったく使えなくなる。自分が関与した瞬間に相手のリアクションが変わってしまう訳ですから。

ということは、最近流行のPMF(Product Market Fit)、Growth Hacker的な発想が必要だと思うんです。とりあえずプロダクトやサービスをマーケットに出してみて、ユーザーの反応を見て、プロダクトを合わせこんでいく。リーンスタートアップとかデザイン思考として最近言われているのは、そういうことなのかな、と思っています。

それを概念的に言えば、そういう実証主義的な市場から相対主義的な市場にマーケットが変わってきているので、それに対して対応するテクノロジーも同じですし、手法もそういう風に変わっていかなければいけない。それが現代のこのタイミングで起こっているのかな、という印象です。

じゃあ、それに対応できる人たちはいるのか? と聞かれると、先ほど言った様に、これは経験値で積み上げてこないといけない訳です。たまたま私は人生の中でIntelみたいな会社でそういうことばかりやらさせてもらってきたので、全然違和感無く普通にこんな感じでお話できますけどね。

ところが、それに物凄く違和感があるというか、不安に思う人も居られる。言われた通りにやっていれば結果も出るし、出世もするし、給料も上がるし、ポジションも上がるという。日本はそういう社会だったわけですよ。一方の僕はIntelに居たとき、社内で5~6回失業してますからね(笑)。潰れちゃう訳です。それこそ通信機器事業部本部(Communication Product Group)は、僕が本部長やれといわれてやってたのに、「Operation Shutdown(事業部が廃止)だから宗像、次の仕事探せ」って言われましたからね(笑) そういうのをやっぱり経験しているので、そもそも永遠に継続する事業というのは、あればラッキーですけど、ほぼほぼそれは無いという前提で、何をしなくちゃいけないかを考え続けるというのが物凄く大事なんじゃないかと思えるようになったわけです。

こんな事を、さっき言ったB.Groveとして(さまざまな会社と)一緒にプロジェクトをやりながら、研修とかOJTを通してに伝授してゆくという、そんな感じでこれから活動していければ良いかなと思っています。

--そのOJTをするメンバーの中にそれこそLeapMindも入っているというイメージ?

そうです。もちろん自分のリソースの限界もありますから、すべての皆さんにサポートを提供することは難しいと思っています。やはり可能性があって、将来日本を代表する、世界を代表するような企業になってほしい、そういう可能性がある、と思ったところは、僕でお役に立てるのであれば少しでもそういう知見を提供したい、と思ってます。

--こういう質問は失礼かもしれないのですが、スタートアップの会社の場合、Exitとして1つは大会社になるというパターンもありますが、特にアメリカだと売却する、あるいはどこかの会社に買収してもらうというのも1つのあり方になっていると思うのですが、現時点ではそういうことは考えておられない?

僕は投資家ではないのでそこは何とも言えません。Exitを考えるかどうかというのは事業戦略の中で非常に大きなポイントではあるのですが、まず最初に「持ってるテクノロジーで本当に事業化が出来るのか」、もしくは、「それをやりきるための人と組織になってるのか」と、そっちの方を見ますね。多くのベンチャーは、ある一定規模になるとそこから経営が上手くいかずにポシャるんですよ。アイディアはいいんだけど、組織と人がマネージできなくて、崩壊していくんです。

--正確な数字忘れましたが、100社のうち残るのが1桁台でしたよね

僕はAndy Grove大先生のおかげで、会社のオペレーションはこうやるんだ、という事を徹底して叩き込まれました。オペレーションで言えば、企業が風邪引くとか喘息になるとか肺炎になるとか、そういうのは大体分かるし、風邪を引いたらどうすりゃいいの、とか喘息になったらどうするの? とか、肺炎になるまで放っといちゃ駄目だよ、とかも分かる。そういうオペレーション上のノウハウみたいなのはかなり叩き込まれてきました。これはIntelを大会社に仕立てた仕組みですよね。会社として組織を回すためのマネジメント。そのマネジメントを行うためにリーダーシップをどう発揮するか。そうしたリーダーシップを発揮する人材をどうやって育てるのか。そういうノウハウはIntelで相当学習しましたし、それこそIntel University1)で「君たちこうやるんだよ」とIntelの社員にも言ってきた事なので、それこそ昔取った杵柄ではないですが、そういうことをやっていきたいな、と思ってます。

--松田社長に懇々と説明しているわけですね

まぁ、松田さんとか他の方にも、ですね(笑)。

--つまりIntelの方法論は、ある意味普遍的なものになっているということですか?

そうです。最近でも、フェイスブックのザッカーバーグなどが引き合いに出して、Andy Groveの書いた「High Output Management(原書日本語訳」がリバイバルしてるじゃないですか。多くの人が評価してくれている。あの本は80年代にGroveが書いたんですけど、多分あそこにシリコンバレーのハイテクカンパニーのマネジメントプリンシパルみたいもの、それこそ哲学がピシっと入っている。哲学はぶれないんですよ。もちろん、表層上のやり方の問題とか、それこそ時代が変わるので新しく入ってくる社員は変わっていますが、結局そういう人たちに対してマネジメントはどう向き合わなきゃいけないのかとか、考えなくちゃ行けないポイントはどこなのか、という事をきちんと教えてくれる。

Andy Groveは有名な言葉を沢山残しています。それこそ「計れないものはマネージできない。だから管理したかったら見える化しとけ」とか、当たり前なんですけど。でも実際色々なスタートアップの話を聞いてみると、見える化されてないから良くわかってない。「だからGroveが見える化しろといってるだろ」と。そういうのはありますよね。そういうのは、Intelで、きちんと教育されましたし、マネジメント側もすごく丁寧にされていたので、多分そういうのがあるんじゃないですかね? だから我々はIntel学校でいろいろ実践を通して学ばせていただいて、卒業した、と。そういうイメージですね(笑)

注釈

1) Intel University:Intelの大学向けプログラムではなく、Intel社員向け教育プログラム。宗像氏はこの講師の資格も持っており、実際に講師として社員教育にも携わってこられた。

(次回は7月20日に掲載します)