下半身を造形していく

この連載も5回目です。前回に続き、CATMANの足首から下の肌が露出している部分から作ります。足全体の形を出したら、頭と同じように毛のモールドを入れていきます。指は4本で、人のバランスよりかなり大きいのが特徴のようです。ここで、一度焼き固めてしまいます。オーブンから出して、しばらく経って「触れるけどまだ熱い」位の塩梅で芯にスカルピーを盛り付けます。このタイミングで盛る理由は、熱で柔らかくなったスカルピーが、芯材であるエポキシパテに食い付きやすくなるからです。ただし、温度が高すぎるとその熱でスカルピーが固まってしまうので、注意が必要です。少なくとも、一度焼き固めたスカルピーの上にスカルピーを盛るときは、温かいうちのほうがよいでしょう。

足首の造形を進めていく

全体にスカルピー盛って、ボリュームや、バランスを取っていきます。

全体のバランスを整えていく

両手は、ポケットに突っ込んでいるので、それを意識して盛ります。ここで失敗しても後々直せるので、気にし過ぎる必要はありませんが、布の質感や、シワの入り方も含めて、映像やデザイン画を見ながら作るのが良いでしょう。実際の人体を観察するという意味合いからも、姿見を持っているという原型師の方も多いようです。さらに、小型の鏡を机の上に常備しておくと、例えば、右利きの人が右手を作る時に左手の鏡像を見ながら作ったり、顔の左右のゆがみをチェックしたり(絵で言うところの紙の裏から見るというアレです)するのに大変役立ちます。

鏡を見ながら、手をポケットに入れた感じを研究。本当に必要な作業です

大きな鏡がない場合、これらの作業はデジカメを活用すればいいでしょう。こうして下の写真のように繰り返し形を煮詰めていきます。

全体にシワを入れた感じ

右足首の辺りの、たるみが少しうるさく感じられたので、削り取って修正します

再び全体をチェックします

今回はあくまでもキャラクター物であることを踏まえたバランス取りをしています。したがって本物=正解ではないです。そのまま、下半身を一気に作ってしまいます。納得がいったところで、ズボンの縫い目等のディテールを入れます。ここでも本物を見ながらやります。何処まで細かく入れるかは、前記の「キャラクター物としての立体上でのバランス」に関わってくるところです。例えば、過剰にディテールを入れてしまっても、出来上がった時に面白いものになっていれば良い訳で、着地点をどの辺りに持っていくか、ということを常に頭に入れておくことが大切であるわけです。この後の、筆とシンナーの作業に入る前に、出来るだけ仕上げます。筆で均す作業に頼り過ぎると、全体のディテールのキレが悪くなるからです。話が前後しますが、今回これだけのスパチュラを使いました。

造形に使用したスパチュラはこれだけ

本当のところ、どんなスパチュラよりも、一番使いやすいのは、自分の指で、コレに勝る道具はないです。

指を駆使して形を整え、モールドを入れていく

「上から下へ作る」というセオリーに従うのなら、下半身を作る作業は、台座に固定したり、持ち手をつけてするのが順当で、実際そうもしましたが、既に焼き固めた上半身を持って、上下逆に作ったりもしています。

こうしてモールドを入れる作業は終了です。

全体のモールドを入れ終わった状態

出来ればこの時点で、最終確認のためにも数日眺める時間を持てるのが理想です。今回の作例では、数回焼かれた頭部の先端である耳が、変色し始めました。強度は出ているのですが、その部分が焦げてしまう危険もあります。それを回避するため、頭をアルミホイルで巻いて保護し、台座ごとオーブンに入れます。

スカルピーの重ね焼きのよる焦げを防ぐため、焼き方も工夫

今回はここまでです。次回からは、上着など、さらに造形を進めていきたいと思います。

安藤賢司
バンダイ『S.I.C』シリーズなど、多数のハイエンドな玩具の原型を担当。「原型師がマスプロダクツ製品のパッケージに名前を刻まれる」という偉業を成し遂げ、「玩具原型」の認識を「作品」のレベルまで高めた。

次回も安藤賢司の神レベルの指技が公開される